シリーズ 教育:Education and Training
第2回
オスキーのススメ
講師
名前:田中 一夫(たなか かずお)
所属:北海道苫小牧市消防本部
出身:北海道帯広市
消防士拝命年:昭和59年
救命士合格年:平成21年
趣味:アイスホッケー、釣り、バイク
シリーズ
教育:Education and Training
教育:教え育てること:education
訓練:教え鍛えること:training
(講談社・日本語大辞典より)
第2回
オスキーのススメ
「教育」シリーズの2回目は苫小牧市消防本部での教育を紹介する。
1 はじめに
昼夜問わず鳴り響くサイレン。特に救急車の需要は多く、その内容も多種多様化している。そんな背景に対し、救急隊員の「教育訓練」は本当に対応できているのだろうか?カリキュラムという「枠」は出来ていても、肝心の中身はできていないのではないか?
傷病者やその家族にとっては、ベテラン・新人・救急救命士・救急科(旧標準)・2課程隊員など、まったく関係がない。全隊員が同じスキルを提供しなければいけないのだ。そのためにはもっと隊員各々の判断力・技術力・マナーなど実際の現場で必要とされる臨床技能の習得を兼ね、次の救急出場へ活かせるような「教育訓練」を考えなければならないのではないか。しかもそれは急務である。
そんな思いから当市における「教育訓練」にオスキー(OSCE)を導入した。OSCEとはObjective Structured Clinical Examinationの略である。“臨床"(Clinical )能力を“客観的"(Objective)に"試験“(Examination)するために"構造化“(Structured)された手順という意味で、日本語にすると"客観的構造化臨床評価"となる。模擬傷病者に対して救急隊員がどのように振る舞うかを指導者が見て指導するものであり、JPTECのシナリオトレーニングがOSCEの代表である。現在、日本では医学生や研修医の臨床能力を客観的に評価する訓練方法として導入されている。
救急隊員にとってOSCEのメリットは
・技能や態度を実際に測定できる
・診断基準が明確である
などが挙げられる。
当市では基本となる90項目のトレーニングシートを作成して平成21年4月より実施している。詳しくはプレホスピタル・ケアに投稿中である。
2 やってみた
オスキーはBLS/ACLS/ICLSやJPTECなどのシナリオトレーニングとなっているため、経験者には理解しやすい。臨床能力だけでなく、マナー・コミュニケーション・インフォームドコンセントなどの社会性も評価する。
表1 |
1)指導者役“ファシリテーター"(facilitartor:促進する人)は、行うシナリオを熟知しシミュレーションする(表1拡大) |
写真1 |
2)標準模擬患者を設定、打ち合わせる(写真1)。 |
図1 |
3)出場指令「50歳代男性 胸痛傷病者 意識あり」現場は一般住宅 天候:晴れ、冬、気温8℃ 出場時間18時(図1) |
写真2 |
4)持参資器材の確認と点検(写真2) |
写真3
写真4
写真5
写真6
写真7
写真8 |
5)臨床所見 ・状況評価-関係者と接触(写真3) ・初期評価、全身観察?傷病者と接触(写真4) ・バイタル測定(写真5-8) |
写真9車内搬送
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6)搬送 ・車内活動(写真9-11) ・継続観察(写真12-17) |
写真18報告と反省
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7)フィードバック ・報告と反省(写真18) ・標準模擬患者からの感想(写真19) ・コミュニケーションスキルレポート(表2)の記入(写真20)と確認(写真21) ・知識の確認など(写真22) 今回はシナリオを出場から病着まで通してやってみたがこれも一つのやり方である。 |
3 やってみてわかったこと
1)深く得られたこと
a.統一されたトレーニングシートを使用することで
・違う日程・指導者・署所で行っても同一のトレーニングが行える。
・指導者が見るべき確認項目が決まっていることで指導忘れがない。
・指導者の客観的な評価が可能。
・結果がシートで残り後日振り返ることができる。
b.トレーニングシートがすでに配布されていることで、誰もが事前学習可能。
・訓練への心構えができることでストレスが抑えられる。
・訓練当日の要点を絞って学習できる。
c.標準模擬患者との打ち合わせが訓練の善し悪しを左右する。
・訓練者の行為や言動でロールプレイ学習できる。
d.一連の活動が検証されることで
・各隊員の考え方や動きがわかる。
・曖昧な部分がわかる。
・マナーやコミュニケーションの取り方がわかる。
e.評価する・されることに慣れる。
2)思っていたことと異なっていたこと
a.評価欄の「否」を付けられることに職場訓練ではとても抵抗がある。
写真23
悪いフィードバック
b.この訓練にはある程度の慣れと経験が必要。
・指導者(ファシリテーター)が答えを言ってしまう、ネガティブフィードバックなど、まず指導者への説明が必要(写真23)。
c.構造化したシナリオ層になっているため、次のステップシナリオへ進むことを目標としてしまう。
・訓練を実施したことに“できた"と満足する。
・この訓練でわかった自分の弱い所などは、しっかり個別訓練などでフォローする体制を忘れないで実施する。
4 まとめ
オスキーは実際に標準模擬患者を使いシミュレーションをするため、資器材を正しく使用しなければ適正な測定もできない。マナーやコミュニケーションが悪ければ文句が出るし観察や処置に協力してくれない。観察や処置が悪ければ意識が悪くなり病態が悪化する。さながら救急現場そのままであり、活字や言葉では伝えられない救急現場を伝承できることが分かった。このオスキーを体験し現場経験を積むこと、この繰り返しをすることで新人は現場経験の少なさを埋め、ベテランは常化した自分の活動を見つめなおすことができるのである。改善すべき点は訓練を重ねながら都度修正して行けば良い。
成人が真剣に学習するためにはリアルな環境が不可欠。それには「オスキーのススメ」なのである。
【参考文献】
畑中哲生、吉田素文:救急活動マネジメント実践トレーニング?OSCEを取り入れた救急隊員臨床教育