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ワンヘルスサイエンティスト Vol 5, 2; April 19, 2024

イヌの散歩における飼養者とイヌの安全な健康づくりのために

古本 佳代

岡山理科大学獣医学部獣医保健看護学科



 わが国は超高齢社会を迎え、国民の健康寿命を延伸するための生活習慣の改善と疾病予防は大きな課題であり、運動や身体活動の定期的な実施・維持はその改善対策の一つである。国民の健康に対する意識は決して低くはなく、健康づくりが精神的な苦痛にならないよう日常生活の中で楽しみながら実施できる多種多様な方法の開発が必要である。

 一方、2003年以降、わが国では15歳未満の人口よりペットのイヌ・ネコの総数が上回っている。ペットの家族化に伴い飼養者の飼養に関する意識は大きく変化し、ペットの寿命は伸び、健康寿命の延伸という課題はペットも人と同様となった。イヌは我が国においても人気が高いペットであるが、飼養者と共に身体活動をする、すなわち散歩をするという他の動物種にはない行動特性をもつ。そのためイヌの散歩は,飼養者とイヌが一体となった共同身体活動として捉えることができると考えている。国外のみならず我が国でもイヌの飼養者はイヌ以外のペットの飼養者や非飼養者と比較し、身体活動量や歩行量が多いことなど、イヌの散歩が飼養者の身体活動量増加に寄与すると報告されている1, 2)。近年の人と動物の関係性から、イヌの散歩を通じて、飼養者の健康づくりとイヌの健康づくりを一体として取り組むことは、双方において課題となっている健康寿命の延伸の一助となるのではないかと考えている。

 健康づくりを実施するにあたり、安全への配慮は重要である。国連により地球沸騰化が警告されている中、暑熱環境下での運動や身体活動は熱中症発生のリスクを高める。そのため、暑熱環境下でのイヌの散歩では飼養者、イヌ共に熱中症予防の対策が必要となる。これまでの研究において、飼養者とイヌでは地面からの高さや地面への接し方が異なるため、環境から受ける温熱ストレスが異なることを明らかにした3)。イヌの散歩において暑熱に起因する体調不良が飼養者、イヌ共に発生していることも明らかになりつつあり、体温調節の仕組みは人とイヌとでは異なるため、現在は熱中症予防対策について効果の検証を進めているところである。



【参考文献】
1) Oka K. Shibata A. Dog ownership and health-related physical activity among Japanese adults. J Phys Act Health. 2009; 6(4): 412-418.
2) Oka K. Shibata A. Prevalence and correlates of dog walking among Japanese dog owners. J Phys Act Health. 2012; 9(6): 786-793.
3) 古本佳代ら, 倉敷市の屋外空間におけるイヌの散歩環境の温熱ストレスの調査. Veterinary Nursing. 2022; 7(2): A8-A18.