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ワンヘルスサイエンティスト Vol 5, 1; Feb 5, 2024

Helicobacter pyloriとNon-Helicobacter pylori Helicobacter(NHPH)について

永田 拓生

国家公務員共済組合連合会広島記念病院中央検査科



 Helicobacter pylori(以下、H.pylori)の検査と近年報告が散見されるNon-Helicobacter pylori -Helicobacter(以下、NHPH)について紹介します。

 H.pyloriの感染診断や除菌判定の検査方法には「H.pylori感染の診断と治療のガイドライン2016改訂版」1)でも記されているように単独でgold standardとなる検査はありません。当院では迅速ウレアーゼ試験や鏡検法といった侵襲が伴う検査と尿素呼気試験(以下、13C-UBT)や迅速糞便中抗原検査などの非侵襲的検査を行っています。侵襲的検査はいわゆる点診断で採取した部分にH.pyloriが存在しなければ偽陰性が生じる可能があり、高齢者や萎縮が進んだ症例では菌量が少なく注意が必要です。非侵襲的検査はいわゆる面診断で一般的に偽陰性は少ないとされています。現在、除菌判定では13C-UBTが広く行われていますが、プロトンポンプ阻害剤(以下、PPI)内服で偽陰性となることがあり、注意が必要です。また、患者さんは錠剤を服用し、安静にしてもらうなど処置が必要です。一方で、糞便中抗原検査は操作も簡便で、結果も5分程度で判明し有用性が高いと考えます。さらにPPI内服が判定に影響を及ぼしにくく、除菌判定では13C-UBTに比し有用性が高いとの報告もあり、両方を組みあわせることでより精度の高い除菌判定が可能になると考えられています2)

 H.pylori以外にHelicobacter属には、30種類以上が存在し、それらを総称してNHPHといいます。菌体はH.pyloriより大型で、さまざまな陸上、水中哺乳類の消化管に共生し、人畜共通感染症としてヒトにも感染する菌種も存在します3)。感染経路としてはHelicobacter suisはブタ、Helicobacter heilmanniiはイヌ、ネコからが主体と考えられており、いずれも自然宿主はこれらの動物であり、ヒトには散発的に感染すると考えられていますが具体的な感染様式は不明です4)。近年、鳥肌胃炎や慢性胃炎、胃MALTリンパ腫など疾患との関連における報告が散見されます。過去に我々は鳥肌胃炎におけるリンパ濾胞の数と位置について検討を行ったことがありますが、機会があればNHPH感染による鳥肌胃炎についても同様の検討を行いたいと考えています。


【参考文献】
1) 日本ヘリコバクター学会ガイドライン作成委員会、H.pylori感染の診断と治療のガイドライン2016改訂版、先端医学社、東京、2016
2) 古田隆久、白井直人:糞便を検体としたヘリコバクター・ピロリ抗原キット「DK14-HP-001」の臨床評価. 医学と薬学79(4):505-515、2022
3) 前田愼、おさえておきたいHelicobacter pyloriの基礎系の知識、Helicobacter Resarch 26(1):92-94、2022
4) 中村正彦、高橋信一、間部克裕 他、Non-Helicobacter pylori Helicobacter(NHPH)胃炎、消化器内視鏡 35(8):1055-1060、202