ワンヘルスサイエンティスト Vol 1, 2; November 12, 2020
動物臨床検査で用いる血清ビリルビン分画の名称の定義
谷 あすか1、渭原 博2
1 東邦大学医療センター大橋病院臨床検査部
2 東邦大学理学部臨床検査技師課程
血清ビリルビン濃度の測定は、黄疸の病態を考えるうえで必要な検査である。また、肝前性黄疸、肝細胞性黄疸、肝後性黄疸の鑑別には、総ビリルビン濃度に加えて血清ビリルビンの分画測定、すなわち、直接ビリルビンと間接ビリルビンの測定が求められる。
血清ビリルビン分画はHPLCを用いると、非抱合型ビリルビン、抱合型ビリルビン(ビリルビンモノグルクロニド+ビリルビンジグルクロニド)、そして、デルタビリルビンとして溶出される。臨床検査では非抱合型ビリルビンを間接ビリルビン、ビリルビンモノグルクロニドとビリルビンジグルクロニドを足したものを直接ビリルビンとしているが、デルタビリルビンをどちらに分類するか議論されてきた。
デルタビリルビンは、ビリルビンジグルクロニドをオリジンとして、血液中で非酵素反応に生成する。非抱合型ビリルビンからは産生されない。構造は一方のプロピオン酸にグルクロン酸が1分子結合して、他方のプロピオン酸は血清アルブミンに共有結合(ペプチド結合)しているものと考えられている。血清アルブミンとの強固な結合は血中半減期を延長(≈ アルブミン半減期)して、黄疸の軽減を遅延させる。このデルタビリルビンの存在は動物臨床検査でも知られている。
現在、ヒト体外診断用医薬品(総ビリルビン試薬と直接ビリルビン試薬)が動物臨床検査でも用いられているのが現状であろう。著者らの調査では、国内で販売されている総ビリルビン試薬は非抱合型ビリルビン、抱合型ビリルビン(ビリルビンモノグルクロニド+ビリルビンジグルクロニド)、そして、デルタビリルビンに回収率100%で反応しているが、直接ビリルビン試薬についてはデルタビリルビンに反応する試薬と反応しない試薬がある。デルタビリルビンに反応する試薬と反応しない試薬で測定した場合、同一患者で乖離した直接ビリルビン値となり、臨床医を困惑させる事例が起きている。
日本臨床化学会では、このような問題を解消するために、デルタビリルビンに反応する試薬による測定値を「直接ビリルビン」と定義し、デルタビリルビンに反応しない試薬による測定値を「抱合型ビリルビン」として報告することを提言している。 動物臨床検査においても、ヒト臨床検査と同じ分画名称の使用を提案する。
参考資料
臨床検査で用いる血清ビリルビン分画の名称の定義. 臨床化学 49:127-135, 2020
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