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ワンヘルスサイエンティスト Vol 2, 9; Sept 3, 2021


アホロートルの病理解剖とワンヘルスサイエンス

長谷川智華1、大橋瑠子2、角田満3、深澤由里4、黒崎久仁彦1

1 東邦大学医学部法医学講座
2 新潟大学病理組織標本センター
3 ラパスペットクリニック
4 東邦大学医学部病理学講座



  アホロートル(メキシコサンショウウオ、通称ウーパールーパー)は、手足や心臓、脳、肺などの内臓を含む複数の部分を再生できる能力を有し、ヒトの再生医療、損傷治癒、加齢さらには癌の研究において注目されている両生類です1)2)3)。2018年には全ゲノムの解析がなされ、その大きさは320億塩基対でヒトゲノムの10倍超であり、これまでに解析された生物のゲノムでは最大の大きさを誇っています4)。また、アホロートルはペットとして人気があり、一般家庭でも飼育されており、その姿は英科学雑誌nature(2018)の表紙を飾ったほどです4)

 一方、アホロートルは、原産国メキシコ(ソチミル湖)での環境汚染や外来種による野生の個体の減少によって、ワシントン条約の付属書Ⅱに掲載される絶滅危惧種として保護活動が行われています。このようにアホロートルは近年大きく話題となっており、愛玩動物や保護の対象としてだけでなく、ヒトの医療に応用するための実験動物としてもその存在意義が高まっています。しかし、アホロートル自体の病気について解明する機会は少なく、病気を発症しても限られた治療しか行われていないのが実情です。

2021年2月8日、東邦大学医学部法医学講座でペットとして飼われていたアホロートルが死亡いたしました。法医学講座としては、やはり死因究明は必要であると考え病理解剖を行ったところ、胃の幽門部から小腸にかけて約5cm大、内腔に向かって隆起性の淡黄色の腫瘍が認められました。この腫瘍の組織病理検査では、小腸に発生した神経内分泌癌neuroendocrine carcinomaもしくは複合型腺神経内分泌癌 (MANEC: mixed adenoneuroendocrine carcinoma)であると診断されました。ヒトにおける原発性小腸癌は発生頻度が少なく、全消化管悪性腫瘍の 0.3~1.0%と比較的まれな疾患です。診断・治療 についても確立されておらず、特異的な臨床症状に乏しいことから、進行癌となり発見される場合が多く6)、切除不能および再発小腸癌に対する治療については、治療法が確立されていません。アホロートルの再生能力はヒトよりも高いことが先行研究で解明されていますが、その一方で再生能力が高いということは細胞も変異しやすく、癌化やその増殖もヒトより進行が早いのではないかと推察しています。

このようにアホロートルをヒトの医療に応用するために様々の研究が行われているものの、アホロートル自体の解剖や病理組織学的研究の論文はほとんどなく、病気についても解明されていないのが現状です。今回のように、アホロートルの病理解剖の結果はヒト医療への応用の中で大きく貢献してくものであり、ワンヘルスサイエンスを考える上でも意義あるものと考えております。


【参考文献】

1)   Warren A Vieira et.al. Advancements to the axolotl model for regeneration and aging, Gerontology 2020; 66 (3):212-222.

2)   Mathias Møler Thygesen et.al. Contusion spinal cord injury via a microsurgical laminectomy in the regenerative axolotl. J Vis Exp 2019; 152.  

3)     Sherif Suleiman et.al. The axolotl model for cancer research: a mini-review. J Buon 2019; 24 (6):2227-2231.

4)     Sergej Nowoshilow et.al. The axolotl genome and the evolution of key tissue formation regulators. Nature 2018; 554, 50-55.

5)     Chieko Shioda et.al. Pathological features of olfactory neuroblastoma in an axolotl (Ambystoma mexicanum). J Vet Med Sci 2011; 73(8):1109-1111. 

6)  錦織直人他:原発性小腸癌 5 例と本邦報告 178 例の検討. 日本大腸肛門病会誌 67:35-44,2014.

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