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ワンヘルスサイエンティスト Vol 2, 6; June 1, 2021


次世代型陸上養殖とワンヘルス

小濱 剛

千葉科学大学危機管理学部



  近年, 流通システムの発展と食文化の多様化に伴い、日常的な魚介類の食習慣が世界的に広がりつつあります。 さらに、魚介類由来の動物性タンパク質、EPAやDHAなどの成分が、疾病予防や健康増進に効果的であることが広く認識されてきたため、魚介類への関心が世界的規模で高まっています。その結果、世界の漁獲漁業生産量は年々増加し, 1990年代後半には約9000万トンに達しましたが、天然漁獲量の減少に伴い、現在では漁業生産量の半分以上が養殖で賄われています。

 このような背景から、私の研究室では、「好適環境水」などの次世代型陸上養殖技術を用いた「フィッシュ・ファクトリーシステム」(魚類生産工場)の開発に取り組んでいます。
 「好適環境水」(特許番号5062550, 4665252, 5487378, 4665258, 5487378, 5364874)は、水産生物の効率的陸上養殖を目的として開発された加計学園グループ共有特許技術であり、海水中に存在する元素のうち、対象とする生物に必要となる元素を最低限の濃度で調整した人工飼育水です。
 そのため, 従来の人工海水に比べ、約10分の1のコストで生産することが可能となります。また、その塩分が硬骨魚類と等張であるため、海水魚・淡水魚ともに応用できることや、天然の海水や淡水とは成分比が大きく異なることから、魚類寄生性真菌類の抑制効果や、飼育魚類の成長促進効果が確認されています。

 現在行われる養殖のほとんどは、海洋や湖沼などの自然環境を利用しており、残餌や魚糞の排出などにより環境を悪化させるリスクや、生物濃縮等による食品安全リスクを抱えています。我々が取り組む陸上養殖では、このようなリスクを回避することが可能であり、実用化することで、ワンヘルスサイエンス学会の趣旨である、ヒト、動物、環境の健康に貢献できると考えています。