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ワンヘルスサイエンティスト Vol 2, 5; May 5, 2021


ハンセン病やブルーリ潰瘍などの皮膚NTDsに関する基礎研究

川島 晃

帝京大学 医療技術学部 臨床検査学科



  私は帝京大学医療技術学部 鈴木幸一研究室に所属し、ハンセン病やブルーリ潰瘍などの抗酸菌感染症に関する基礎研究を行っています。これらの疾患に対しWHOは「顧みられない熱帯病:Neglected Tropical Diseases (NTDs)」として指定し、様々な対策を求めています。そうした疾患に対する新規治療戦略の開発を目指して、抗酸菌の持つ細胞内寄生機構の研究を行なっています。

  現在は、ハンセン病の起因菌であるらい菌の持つ免疫回避機構の解明を進めています。らい菌は、ハンセン病患者組織像よりマクロファージ中に細胞内寄生をすることが、明らかになっています。本来マクロファージは病原体を排除する役割を持っていますが、らい菌にはマクロファージ中で細胞内寄生を成立させるメカニズムを持っています。らい菌は、マクロファージに感染すると脂質代謝経路を活性化させ、細胞内に脂質を溜め込み、泡沫化を誘導し、脂質中に局在します。そこで我々は脂質代謝経路を解析することによって、らい菌の持つ免疫回避機構を明らかにしようとしています。
  また一方で、抗酸菌感染症ブルーリ潰瘍の毒素マイコラクトンの細胞内シグナル機構に関して解析を行っています。ブルーリ潰瘍は、西アフリカを中心に流行する皮膚抗酸菌感染症で痛みや免疫反応の無い潰瘍を特徴としています。その病態の主因とされているのが、毒素マイコラクトンです。マイコラクトンは、caspase-3依存的な細胞死や免疫応答の抑制をすることが分かっています。しかしながら、その過程は不明な点が多く、マイコラクトンの作用機序の解明を通して、ブルーリ潰瘍の新規治療標的を見つけることを目標としています。

参考サイト(ブルーリ潰瘍とは)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/2913-bu-intro.html