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ワンヘルスサイエンティスト Vol 2, 2; Feburary 3, 2021


非結核性抗酸菌症:感染経路解明に向けて

深野 華子

国立感染症研究所
ハンセン病研究センター 感染制御部



 国立感染症研究所ハンセン病研究センター感染制御部に所属し、抗酸菌の基礎研究に携わっています。その中でも、特に非結核性抗酸菌 (Non-Tuberculous Mycobacteria; NTM) 症についての基礎研究を幅広く行なっています。

 抗酸菌感染症は、大きく分けて結核、ハンセン病、NTM症に分類されます。日本国内における結核の新規患者数は減少傾向にある一方で、NTM症の患者数は増加の一途を辿っています。現在、200種を超えるNTMは土壌や水中など様々な環境中に常在する菌であり、ヒトだけでなく魚類や爬虫類、鳥類まで幅広い動物種を宿主にし得ることが分かっています。また、ヒトからヒトへ感染する結核・ハンセン病とは異なり、NTMはヒトからヒトへは感染はしないとされていますが、それらの明確なエビデンスや、感染源・感染経路は未だに明らかになっていないことから、感染症への基本的対策である感染予防策が取れないのが実情です。更には、環境常在菌であるが故に、生来の抗菌薬耐性を幅広く持っていることから抗菌薬治療に難渋するケースが多く、医学臨床上の大きな問題にもなっています。

 このように、未だ明らかとなっていないNTM症の感染源や感染経路の解明には、臨床的なアプローチだけでなく、ヒトを取り巻く生活環境やヒトと他の動物種をリンクさせたOne Health アプローチが必要だと考えています。これらをゲノム解析の手法や薬剤耐性因子解析などの多角的な手法を使いながら、NTM症の感染予防策・治療法開発に繋げていきたいと思っています。