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医学共通講義III 機能生物学入門 新基盤生命学講義

 

生体がどのようにして機能を発揮するかという根源的な問題の解決には、様々な角度からのアプローチを有機的に連結していくことが必要です。本講義では、中枢神経系の機能発現メカニズムを中心として、以下のテーマに関連した研究を紹介し、どこまで解明が進んでいて、今後どのような研究が必要なのかについて解説されます。記憶形成・想起メカニズム、記憶・学習の分子機構、嗅覚神経系の機能発現メカニズム、視覚受容の細胞メカニズム、シナプス伝達調節機構、グルタミン酸受容体の分子機構、細胞内カルシウムシグナル機構、発生・分化の分子機構など。

平成23年度

第1回

2011年 5月23日 14:30~16:00 講師:影山 龍一郎 先生 

担当講座:分子神経生物学 担当教員:三品昌美

第2回

2011年 6月13日 14:30~16:00 講師:石井 信 先生 

担当講座:構造生理学 担当教員:河西春郎

第3回

2011年 9月12日 14:30~16:00 講師:柚崎 通介 先生 

担当講座:文学部心理学 担当教員:立花政夫

第4回

2011年10月 3日 14:30~16:00 講師:岡本 仁 先生 

担当講座:細胞分子生理学 担当教員:森憲作

第5回

2011年11月 7日 14:30~16:00 講師:礒村 宜和 先生 

担当講座:神経生理学 担当教員:狩野方伸

第6回

2011年12月12日 14:30~16:00 講師:野村 洋 先生 

担当講座:薬学部薬品作用学 担当教員:松木則夫

第7回

2012年 1月16日 14:30~16:00 講師:永井 健治 先生 

担当講座:細胞分子薬理学 担当教員:飯野正光

第8回

2012年 2月13日 14:30~16:00 講師:笹井 芳樹 先生 

担当講座:統合生理学 担当教員:宮下保司

開催場所:医学部教育研究棟13階 第6セミナー室

http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam01_02_09_j.html

第1回

2011年 5月23日 14:30~16:00 講師:影山 龍一郎 先生 

担当講座:分子神経生物学 担当教員:三品昌美

演題:成体脳ニューロン新生の意義と制御機構

講師:京都大学ウイルス研究所 教授 影山龍一郎

成体脳のニューロンは一般に再生しないが、例外として側脳室の上衣下層および海馬歯状回の顆粒細胞下層の2か所でニューロン新生が起こる。前者は嗅球のニューロンに、後者は歯状回のニューロンに分化する。これらのニューロンは、外部刺激に対する弁別、記憶、学習に関わることが示唆されているが、機能については多くの点が未だ不明である。我々は、ニューロン新生を特異的に阻害する遺伝子改変マウスを作製し、成体脳ニューロン新生の意義を探った。その結果、ニューロン新生を阻害すると嗅球の顆粒細胞数が顕著に減少すること、臭いの識別や記憶には明らかな異常は見られないが、天敵臭に対する応答や性行動等に異常が見られることがわかった。また、海馬依存性の空間記憶の獲得・維持も障害された。以上の結果から、成体脳におけるニューロン新生の重要性が明らかになった。次に、成体脳の神経幹細胞の維持に関わる分子機構を解析したところ、胎児脳の神経幹細胞の形成・維持に必須であるNotchシグナル系分子Hes1やHes5が成体脳神経幹細胞にも強く発現していた。さらに、Notchシグナル系を抑制すると、一時的にニューロン新生が増加するが、3ヶ月以内に神経幹細胞が枯渇してニューロン新生が起こらなくなった。したがって、Notchシグナルは成体脳神経幹細胞の維持とニューロン新生の継続に必須な役割をもつことが明らかになった。Notchシグナルの操作によるニューロン再生の可能性についても議論する。

第2回

2011年 6月13日 14:30~16:00 講師:石井 信 先生 

担当講座:構造生理学 担当教員:河西春郎

演題:強化学習の理論と神経系での実装

講師:京都大学 情報学研究科 教授 石井 信

強化学習とは、歴史的にはオペラント条件付け学習の時系列版として出現し、その後、サルのドーパミン細胞が、最も簡単なモデルフリー型強化学習則である時間差分学習と類似の活動を示すことから、脳の情動系との関連が指摘されている。本講義では、時間差分学習を中心とした強化学習の理論について紹介した後、モデルフリー強化学習とモデルベース強化学習、前者に関する大脳基底核を中心とした回路モデル、後者に関する前頭前野を中心とした機能モデルなどの紹介を行う。また、複雑な環境における意思決定の機能モデル、その検証を目指したイメージング研究などの紹介も行う。時間があれば、細胞を観察するための画像処理の技法などの話題もしたい。

第3回

2011年 9月12日 14:30~16:00 講師:柚崎 通介 先生 

担当講座:文学部心理学 担当教員:立花政夫

演題:「記憶」の鍵を握るAMPA受容体の輸送調節機構

     ―何処から来て何処へ行くのか?

講師:慶應義塾大学 医学部 生理学 教授 柚﨑 通介

記憶・学習の基礎過程は、神経活動の変化によって引き起こされる興奮性神経伝達の長期的亢進ないし低下によって担われており、それぞれ長期増強(LTP)・長期抑圧(LTD)として熱心に研究されてきた。近年、LTP・LTDの分子的実体は、 シナプス後部におけるAMPA型グルタミン酸受容体(AMPA受容体)の数の変化そのものであることが確立しつつある。したがって、*記憶・学習現象の最も基本的な現象は、神経活動に伴うAMPA受容体の輸送現象*であるといえる。AMPA受容体は一定の部位からエキソサイトーシスされ、側方移動を経てシナプス後部に至り安定化する。シナプス後部のAMPA受容体の一部は再び側方移動し、一定の部位からエンドサイトーシスされる。しかし、これらの過程がどのような分子機構によって神経活動によって制御されているのかについては未だに十分分かっていない。本講義では、これまでの知見に加えて私たちの得た新しい発見を含めて紹介したい。

第4回

2011年10月 3日 14:30~16:00 講師:岡本 仁 先生 

担当講座:細胞分子生理学 担当教員:森憲作

演題:ゼブラフィッシュを使った心の作動原理の探求

講師:理化学研究所、脳科学総合研究センター 岡本 仁

哺乳類の脳では、扁桃体、大脳皮質•基底核•視床ループ、中脳や後脳のモノアミン細胞などが、行動制御プログラムの成立と変更に関与することが示唆されている。発生過程において、哺乳類の外套は膨出するが、硬骨魚類の終脳では外套は外反する。その結果、哺乳類の大脳の背側中心部にある海馬は、硬骨魚類では外套の背外側に、そして哺乳類では大脳腹外側にある扁桃体は、硬骨魚類では外套の背内側に相当すると推察される。このように、硬骨魚類の終脳にも海馬、扁桃体、基底核といった行動制御のプログラムの蓄積に関わる領域が存在することが示唆され、現在は哺乳類と硬骨魚類の終脳の対応が可能となってきた。我々は、神経回路が簡略化されているゼブラフィッシュとマウスを実験材料として、遺伝子操作技術を駆使して、神経活動の可視化や人為的操作を行うことで、情動と記憶に基づき行動を制御するための脳の神経回路とはどのようなもので、どのような進化をたどって成り立ったのかを研究している。本セミナーでは、我々のこれまでの進歩と展望を説明したい。

第5回

2011年11月 7日 14:30~16:00 講師:礒村 宜和 先生 

担当講座:神経生理学 担当教員:狩野方伸

演題:運動発現の皮質内回路機構

講師:玉川大学脳科学研究所 教授 礒村 宜和

哺乳類の脳はどのように運動指令を形成するのか、という単純な問いを考えてみたい。サルやヒトなど霊長類では、大脳皮質に複数の運動野があり、それぞれ異なった役割を担うことが古くから知られている。一次運動野は、多数の錐体路ニューロンが興奮性の軸索投射を脊髄の運動ニューロンに直接送り、運動(筋収縮)の実行指令を出力する皮質領域である。補足運動野と運動前野はより高次の運動機能に関与し、複雑な運動、特に前者は自発性運動や身体内空間における運動などに関与し、後者は誘発運動や身体外空間における運動などに関与する。また、大脳辺縁系の一部である帯状回にも帯状回運動野という領域が存在する。これらの高次運動関連領域は、機能的に異なる亜領域に分かれ、体の各部位に対応した体部位再現性がみられる。このような知見は、過去数十年間にわたって、主に単一ユニット記録法をもちいた電気生理学的実験の結果から明らかにされてきた。

しかしながら、従来の単一ユニット記録法は機能の異なる脳領域を特定することに威力を発揮したものの、記録した神経細胞の形態やサブタイプの同定をおこなうことは不可能に近かった。そのため、運動野の各層に位置する錐体細胞や介在細胞が実際にどのような機能的役割を担っているのかほとんど解明されていない。そこで我々は、単純な運動課題を訓練したラットに、発火活動を記録し詳細な細胞形態も観察できる傍細胞(ジャクスタセルラー)記録法と、多数の神経細胞の発火活動を同時に記録できるマルチニューロン記録法を適用し、運動の発現に関与する運動野の神経細胞を機能的かつ形態的に同定して、大脳皮質の神経回路機構を解明することを目指してきた。その結果、錐体細胞は、運動の各局面(準備、開始、実行など)に関連する発火応答を示すものが全層(2-6層)にわたって観察され、運動情報は「層から層へ」ではなく「全層一体になって」処理されることが示唆された。一方、fast-spiking (FS) 介在細胞のほとんどは運動実行時のみ発火活動が上昇し、錐体細胞が伝える運動指令の「開閉」ではなく、錐体細胞と協調して運動の実行指令の「形成」をおこなっていることが示唆された。さらに、マルチニューロン活動の解析からは、運動機能に異なって関与する神経細胞間で同期的発火活動がみられることも判明した(Nat Neurosci 12: 1586-1593, 2009など)。さらに、運動局面によって異なるガンマ・オシレーションが運動野に出現することや、運動野の投射先である線条体細胞の直接路細胞と間接路細胞はともに運動情報と報酬予測情報を伝えることなども見出しつつある(発表準備中)。我々の研究はまだ始めたばかりではあるが、点(細胞)と線(回路)と機能(スパイク情報)を結びつけ、神経生理学の教科書の空白を少しでも埋めるような研究を志している。

第6回

2011年12月12日 14:30~16:00 講師:野村 洋 先生 

担当講座:薬学部薬品作用学 担当教員:松木則夫

演題:扁桃体のニューロン集団による恐怖記憶の符号化様式

講師:薬学部薬品作用学 助教 野村洋

記憶・学習には、対応する脳領域の全てのニューロンではなく、一部のニューロン集団が関与する。例えば恐怖の記憶には扁桃体基底外側核(BLA)の中でも特定の10-20%のニューロンが関与する。しかし、これら記憶を担う特定のニューロン集団の性質や、ニューロン集団による記憶の符号化様式は不明である。我々は最初期遺伝子の発現解析と電気生理学的な解析を融合させ、扁桃体のニューロン集団による恐怖記憶の符号化様式を解明するべく研究を進めている。恐怖記憶を発現する際に活性化するBLAニューロンの割合は、記憶を発現しない場合と比べて大きな差が認められなかった。しかし、どのBLAニューロンが活性化したかの履歴を調べると、恐怖記憶を発現した際に活性化したニューロンの多くは、恐怖条件づけを受けた時に活性化していた。恐怖記憶の想起とは、電気ショックを受けた時に活性化するBLAのニューロン集団が再び活性化することではないかと考えられる。このような恐怖記憶の発現時に活性化したニューロンを選択的に抽出しシナプス伝達を測定すると、プレシナプス性のシナプス増強が認められた。この増強は残りのニューロンでは認められなかったことから、恐怖条件づけは特定のニューロン集団だけでシナプス増強を誘導することが分かった。また、どのニューロン集団が活性化するかは、恐怖記憶の内容によって異なっていた。本セミナーでは、恐怖記憶を司るニューロン集団選択的な可塑性とそれによる再活性化について、これまでに得た知見と今後の展望を紹介したい。

第7回

2012年 1月16日 14:30~16:00 講師:永井 健治 先生 

担当講座:細胞分子薬理学 担当教員:飯野正光

演題:生理機能の光操作と可視化技術

講師:北海道大学電子科学研究所 教授 永井健治

近年になり蛍光指示薬を用いた細胞レベルの機能イメージングが盛んに行われている。しかしながら個体レベルの観察においては、蛍光指示薬は励起光を必要とする事に起因する、①励起光の散乱による組織深部からのシグナル低下、②自家蛍光の発生、③励起光によるサンプルのダメージといった欠点があるため有効な手段とはならない。一方、化学発光は励起光を必要としないため個体レベルの機能イメージングにおいて有効であると考えられているが、ライブ観察するのに十分なシグナル強度は得られない。本講義では、このような蛍光と化学発光による観察法の欠点を克服する次世代のイメージング技術について我々の最近の知見を交え紹介する。講義内容は以下の3つである。

1)自由行動下にある小動物個体内の腫瘍組織の可視化

2)Ca2+やATP等の生体物質を高感度・高コントラストに捉えることが可能な自動発光型プローブの開発

3)自動発光型機能プローブと光遺伝学的ツールとの併用

また、このような生理機能の光操作と可視化技術の応用によりアプローチが可能となる「少数性生物学」についても議論したい。

第8回

2012年 2月13日 14:30~16:00 講師:笹井 芳樹 先生 

担当講座:統合生理学 担当教員:宮下保司

演題:幹細胞からの脳や網膜組織の自己組織化:

               その原理とその応用

講師:理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター

    グループディレクター 笹井芳樹

近年、多能性幹細胞からの様々な細胞への分化誘導は、発生学の分子機構の解明に駆動される形で、飛躍的に進展した。 次世代の研究方向としては、こうした個々の細胞分化の制御を越えて、多数の細胞間の相互作用をシステム解析する研究が生み出されつつ有る。 例えば、細胞集団の分化・パターン化・組織構築を試験管内で制御して、脳や感覚器などの複合組織の立体形成を研究など、従来の分子生物学研究の枠を越える試みについても、 成功例が出て来るようになった。本レクチャーでは、ES細胞の立体培養系を用いて、大脳皮質や網膜などの層構造を持った組織の自己組織化現象について紹介する。

3次元長期ライブイメージング法を用いた細胞挙動や組織変形の解析や、組織力学解析法やシミュレーションを用いた動態解析の試みも紹介し、 自己組織化の原理の元ととなる組織間相互作用の局所ルールのツボをあぶり出す。これらを通して、細胞集団が作り出す生物らしい組織構築の創発について議論をしたい。

平成24年度

第1回

2012年 5月21日 14:30~16:00 講師:上原 孝 先生 

担当講座:細胞分子薬理学 担当教員:飯野正光

第2回

2012年 6月25日 14:30~16:00 講師:重本 隆一 先生 

担当講座:構造生理学 担当教員:河西春郎

第3回

2012年 7月 9日 14:30~16:00 講師:森 明久 先生 

担当講座: 統合生理学 担当教員: 宮下保司

第4回

2012年 9月10日 14:30~16:00 講師:小林 康 先生 

担当講座:文学部心理学 担当教員:立花政夫

第5回

2012年10月29日 14:30~16:00 講師:松尾 直毅 先生 

担当講座:細胞分子生理学 担当教員:森憲作

第6回

2012年11月12日 14:30~16:00 講師:坂場 武史 先生 

担当講座:神経生理学 担当教員:狩野方伸

第7回

2012年12月10日 14:30~16:00 講師:小山 隆太 先生 

担当講座:薬学部薬品作用学 担当教員:松木則夫

第8回

2013年 1月21日 14:30~16:00 講師:上田 泰己 先生 

担当講座: 分子神経生物学 担当教員:

第1回

2012年 5月21日 14:30~16:00 講師:上原 孝 先生 

担当講座:細胞分子薬理学 担当教員:飯野正光

演題:一酸化窒素による神経細胞死制御機構

講師:岡山大学大学院医歯薬学総合研究科薬効解析学 教授 上原 孝

厳密に産生された生理的濃度の一酸化窒素(NO)は血圧調節や記憶形成など様々な生理作用に関わっているが,脳梗塞やバクテリア侵入などによって大量産生された際には毒性を発揮することが知られている.このようにNOは局所における産生量(濃度)によってまったく異なる応答を示す.

これまでのNOを含めた酸化ストレスの研究は,比較的高濃度を使用した際の毒性発揮機構に着目したものが多かったことは否めない.しかしながら,最近の多くの成果から低濃度ではむしろ特異的に作用することで,シグナル分子として機能していることが認識されつつある.神経細胞において,生存シグナルが亢進したり,あるいは小胞体ストレスが惹起されて死に至るケースも濃度の違いによって説明し得ることがわかった.今回は生理的・病態生理的機構とNO濃度との関係ついて紹介する予定である.

第2回

2012年 7月9日 14:30~16:00 講師:重本 隆一 先生 

担当講座:構造生理学 担当教員:河西春郎

演題:定量的免疫電子顕微鏡法によるグルタミン酸受容体と

   カルシウムチャネルの脳内局在

講師:生理学研究所 大脳皮質機能研究系脳形態解析研究部門 

   教授 重本隆一

神経細胞間のシナプス伝達は、シナプス前終末とシナプス後部に局在する多数の機能分子によって担われ調節されている。これらの中でもシナプス後部(postsynaptic density)におけるAMPA型グルタミン酸受容体やシナプス前伝達物質放出部位(presynaptic active zone)における電位依存性カルシウムチャネルは、その数と微細局在がシナプス伝達の効率を決定する最も重要な因子の一つである。我々は、これらの分子を定量的に電子顕微鏡レベルで可視化するために、凍結割断レプリカ免疫標識法の改良を進めてきた。その結果、それぞれの受容体やチャネル分子に対して、ほぼ1:1の割合で金粒子を検出できるほどの感度を得ることに成功し、AMPA型受容体やP/Q-type calcium channelが様々なシナプスにおいて異なる2次元的局在様式を取っていることを明らかにしてきた。本セミナーでは、これらの結果を紹介し、それぞれの機能的な意義について議論したい。

第3回

2012年 6月25日 14:30~16:00 講師: 森 明久 先生 

担当講座: 統合生理学 担当教員: 宮下保司

演題:パーキンソン病の治療標的としてのアデノシンA_2A 受容体

講師:協和発酵キリン(株)・製品戦略部 

            統括マネージャー 森明久

パーキンソン病は運動機能異常を呈する進行性の神経変性疾患であり、中脳ドパミン神経細胞の変性・脱落による線条体のドパミン含量の著明な減少が原因とされている。 本疾患に特徴的な運動症状の発現は、このドパミン神経の変性・脱落を引き金に、線条体を中核の一つとする大脳基底核神経回路のバランスが崩れることにあるとされている。薬物治療としては、 今なお約半世紀前に導入されたドパミン補充療法であるレボドパが対症療法として最も有効で必須の薬剤とされている。さらにレボドパの作用を補完する酵素阻害剤やドパミン受容体作動薬を加え ドパミン系を主体とした治療薬体系が確立されている。しかしレボドパ長期治療による運動合併症やドパミン受容体を介した副作用などの問題は克服されておらず、これらはドパミン系治療薬の限界を示すものである。 一方、ドパミン受容体とは別に大脳基底核神経回路の調節に直接関わる受容体分子がいくつか見つかっている。最近、これらを標的とし既存のドパミン系治療薬の問題を克服することを期待して、 非ドパミン系の新しい薬理クラスが提唱されている。本セミナーではそのうち代表的な新規標的であるアデノシンA_2A 受容体と、本邦で創製され現在開発中であるアデノシンA_2A 受容体拮抗薬にスポットを当て、 その創薬コンセプトから当該受容体の生理的役割、パーキンソン病の病態生理との関わり、アデノシンA_2A 受容体拮抗薬の薬理作用と作用機序及び臨床成績について紹介し、パーキンソン病治療薬の新しい潮流と 今後の課題について考察したい。また、この研究開発を通じて蓄積された知識と経験から、日米欧にまたがる新薬開発の現状と課題、グローバル開発におけるプロジェクトマネジメントの論点などについても触れたい。

第4回

2012年 9月10日 14:30~16:00 講師:小林 康 先生 

担当講座:文学部心理学 担当教員:立花政夫

演題:強化学習における誤差信号の神経生理学的探索

講師:大阪大学大学院 生命機能研究科 

            准教授 小林康

強化学習は手がかり刺激に対して行動の報酬を予測し、予測と実際に得られた報酬との差、「報酬予測誤差」を 最小化するように予測を随時更新して、最大報酬を得る行動を最適化することであり、学習アルゴリズムの理論研究のみならず、 強化学習が実装されている生理学的ハードウエア研究が盛んに行われている。現在、中脳ドーパミンニューロン(DAcell)が報酬予測誤差を 表現しているということがほぼ確立されているが、計算理論の重要な鍵となる誤差信号の計算メカニズムついてその実体が明らかにされていない。 DAcellは大脳基底核などから抑制性、大脳皮質などから興奮性の入力を受けるが、中脳のアセチルコリン作動性の脚橋被蓋核(PPTN)がDAcellに対して もっとも強力な興奮性入力を送っていると考えられている。このことから、PPTNがDAcellによる報酬予測誤差計算の中心であることが示唆される。 我々はサルに報酬予測サッケード課題を行わせ、PPTNからニューロン活動記録を行っている。その結果、1)サルに課題開始刺激を呈示すると活動が始まり、 手がかり刺激による予測報酬量が多いと活動が大きくなるような報酬が与えられるまで持続するニューロン活動、2) 自発レベルでは比較的高頻度で発火し、 課題開始から活動が減少して多くの報酬量が予測される試行ではより活動が減少するという1)とはちょうど鏡像関係にあるニューロン活動、3)報酬予測とは 無関係に実際にサルに報酬が与えられると活動の増加が起こり与えられた報酬量が多いとより活動を増加させるような一過性のニューロン活動が それぞれ独立したニューロン群から得られた。以上の結果から報酬予測誤差計算に必要な、「記憶された予測報酬の情報」と「実際に得られた報酬の情報」が、 それぞれ分離独立した形でサル中脳PPTNに表現されているということが明らかになった。

第5回

2012年10月29日 14:30~16:00 講師:松尾 直毅 先生 

担当講座:細胞分子生理学 担当教員:森憲作

演題:遺伝子改変マウスを用いた記憶の実体の探求

講師:京都大学 白眉センター 

            特定准教授 松尾直毅

記憶情報は脳内のどこで、どのようにして保持されているのであろうか?という記憶痕跡に関わる疑問は古来より多くの哲学者、科学者を魅了してきた。 しかし、未だに多くが謎に包まれている。現代の神経科学では、記憶情報は脳内で疎らに散在して変化し得る機能的神経細胞集団によって担われていると考えられている。 したがって、脳を構成する無数の神経細胞のうち、一体どれが関与しているかという問題でさえ明らかにすることは極めて困難である。そこで本講義では、遺伝子改変マウスを用いて シナプス・細胞・回路のそれぞれの脳の階層で記憶痕跡の場・実体を明らかにすることを試みるアプローチについて紹介したい。

第6回

2012年11月12日 14:30~16:00 講師:坂場 武史 先生 

担当講座:神経生理学 担当教員:狩野方伸

演題:シナプス前終末の生理学

講師:同志社大学大学院 脳科学研究科 

            教授 坂場武史

シナプス前終末は、神経伝達物質放出によってシナプス伝達を媒介する。

(1)伝達物質放出においては機能分子(複合体)が時系列的に連携しているが、そのうちどのステップが重要な役割を担っており、 機能的に律速段階になるかはわかっていない。この課題について、終末からの直接記録が容易な大型カリックス型シナプス前終末を用いて、 電気生理学やSTED顕微鏡などの光学的手法を組み合わせて調べている。

(2)哺乳類中枢神経シナプス前終末は同一の機能を有しているのではなく、脳部位、シナプス後細胞の性質などによって機能的多様性を持っているようである。 しかし、神経回路においてどのような意味を持っているか、また、多様性の分子メカニズムについては、多くの終末が形態的に小さいためわかっていない。 小脳の抑制性シナプス終末などに対して直接的な電気生理学的な方法やスポットアンケイジング法を適用して調べている。

第7回

2012年12月10日 14:30~16:00 講師:小山 隆太 先生 

担当講座:薬学部薬品作用学 担当教員:松木則夫

演題:乳幼児期のけいれん発作の神経回路形成への影響

講師:東京大学大学院 薬学系研究科 薬品作用学教室  

            助教 小山隆太

てんかん(癲癇)は、神経細胞群の同期した過剰発射によって引き起こされるけいれん発作を伴う脳疾患であり、世界的に成人の1%ほどに生じる。てんかんの内、成人の難治性てんかんの大部分を占める側頭葉てんかん患者およびその動物モデルの海馬では、海馬苔状線維の異常発芽や異所性顆粒細胞の出現といった各種の神経回路形成異常が確認されてきた。これらの神経回路形成異常が乳幼児期のけいれん発作によって誘導される可能性が示唆されてきたが、その真否や、分子細胞生物学的なメカニズムは十分に解明されていない。これは、けいれん発作によって誘導されうる神経回路の形成異常を時空間的に検証するための適切なin vitro実験系が十分に考案されてこなかったためである。

我々は、複雑型熱性けいれんのモデルラット(Koyama and Matsuki., 2010)と、これより摘出した海馬切片の培養系を応用することにより、幼若時の熱性けいれんが異所性顆粒細胞の出現を誘導し、この現象が、将来のてんかん発症と強く関連を持つことを明らかにした(Koyama et al., 2012)。本セミナーでは、乳幼児期のけいれん発作の歯状回神経回路への影響を検証するにあたって我々が用いた戦略と、これによって獲得された最新の知見を紹介する。

第8回

2013年 1月21日 14:30~16:00 講師:上田 泰己 先生 

担当講座: 分子神経生物学 担当教員:

演題:個体システムの「時間」の理解にむけて

講師:東京大学大学院 医学系研究科 分子神経生物学教室 

            非常勤講師・客員教授

   理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター システム

            バイオロジー研究プロジェクト プロジェクト リーダー

   上田泰己

我々の体の中に流れる時間は、砂時計が時を数えあげるようにとめどもなく不可逆的に流れることもあれば、機械時計が一回りするようにある種の規則に従ってまき戻ることもある。時間はいったいどのように体内に表現されているであろうか。

我々は、哺乳類概日時計をモデル系として時間の内部表現の問題、とりわけ規則性を持つ外部環境の内部表現機構の理解に取り組んできた。 これまでに哺乳類概日時計の転写ネットワークの全体像を解明することを通じて自律発振機構(概日時計が恒常的な環境下において自発的な振動を生み出す仕組み)、温度補償性(概日時計の周期が温度変化に影響されずに生理条件範囲内で一定であること)やシンギュラリティ現象(概日時計が真夜中の光を浴びると停止してしまう現象)といった本分野における長年にわたる謎に取り組んできた。 これらの仕事を通じて、変動する外部環境が細胞内部に分子細胞システムとして表現される様態を具体的に示すことができつつあるが、いまだにわからない謎も多い。

例えば、概日時計細胞の動的な性質は完全に遺伝的に決まるのであろうか? あるいは、環境からの教育や時計細胞による学習の影響がその動的な性質に反映されるのだろうか。 また、睡眠・覚醒リズムのような個体レベル の発振現象はどのような細胞回路で決定されているのであろうか? レクチャーでは、これまでの研究から解明できたこと、いまだ解明できていないことについて議論したい。