「 宮 城 旅 行 」

加藤 凱久(名張市在住)

 3女が宮城県で行われる新体操学生選手権大会に出場する事になったが、今の私は脚の力はゼロ、手も鼻先まで上げることが出来ず、声も出にくくなってきている。昨年の広島旅行と比べると、ルートも相当厳しくなるだろうから、私も妻も「とても応援に行くのは無理」とあきらめていた。
 
 私は今まで子供たちの殆どの行事には参加してきた。「娘の学生生活最後の大会になるので何とか行ってやりたい」と、MALSの役員、ケアマネ、介護保険課職員の方々に相談すると宿、ボランティア、現地での医療機関の紹介など懸命に探していただいた。子供たちも「皆でサポートするから、是非宮城までサッチャンの応援に行こう」と言ってくれ、長女の主人はお盆休暇を変更し、2女は看護師の友人が一人ついてきてくれ、帰りは名古屋空港まで大阪に住んでいる兄が迎えに来てくれる事になった。
 
 これほどたくさんの方々に応援されているのだから何とか頑張ろうと、思い切って出かけることにする。
 
 宿はバリアフリーの部屋がある“簡保の宿白石”の部屋を取り、岡崎市の2女と合流できるように名古屋空港から空を飛ぶことにする。名古屋から仙台への出発予定時刻が午前8時の後は午後3時迄無いので午後の便を予約することにしたが、これなら現地に着く時間は遅くなるがいつもの生活リズムを変えることなく出かけられる。仙台空港から白石市までは現地のボランティアの方にお願いすることにする。
 
 もし何かがあればと現地の医療機関を探してもらい、主治医には紹介状を書いてもらった。
 
 
  8月18日
 
 10時半頃家を出発。名張から名古屋空港までの約2時間の自動車移動が一番問題だ。2女が昨夜迎えに来てくれていたので少しは安心できる。でも途中トイレ介助が必要になったとき、娘ひとりで私を抱え上げることが出来るか等の心配がある。途中1度トイレ休憩をするが私は車内で採尿器を使って排尿をする。 愛知県に入ったあたりから雨が降り出す。 名古屋空港で、空港係員が専用の車椅子に乗せて案内してくれるが、段差があるところを何も言わずに車椅子の前を上げられたので頭がガクッと後ろに倒れる。声を出そうにも首が後ろに倒れてしまっているので声が出なく、係員は気がつかないようだ。幸いたいした事が無くて良かったが、空港の車椅子にはヘッドレストが付いていない。係員も車椅子に乗っている人は下半身だけが不自由で上半身はなんともないと思っているのだろうか?首が弱っていることを伝えていなかったこちらにも責任があったのか。 離陸時は問題がなかったが、着陸時は体が前に倒れないように隣から妻に上半身を支えてもらったので前に倒れる事なく無事着陸できたのでほっとする。 仙台空港にはボランティアの方と社協の方二人が送迎車で迎えに来てくれていた。当初介護タクシーを使う予定だったが、車椅子にはヘッドレストが付いているため背が高く頭が天井につかえてしまい、普通の介護タクシーには乗れないかもしれないということになり、長距離の移動には急遽大きな送迎車を準備してもらうことになった。 仙台空港から白石市までの50分ほどの道筋、田んぼには頭を垂れている稲穂は見えない。ボランティアの方の話によると今年は8月に入り晴れたのは2日だけだとか、今年の農家は大変だろうと思う。
 
 簡保の宿に着いたのは5時半頃、部屋にはベッドから風呂、トイレまでの間に天井リフトが付いているので楽に入浴できそうだ。
 
 長女ファミリーが先に来ていたので、夕食は1歳半の孫を含めて6人半の賑やかな夕食。食事を喉に詰まらせかけたが、部屋に戻り2女に吸引してもらう。携帯用吸引機を準備していて助かった。

 9時頃から皆で風呂に入れてもらう。ネットを張った入浴用の椅子に乗りリフトでそのまま湯舟に浸かることが出来るので気持ちよく入浴ができる。
 
 
  8月19日
 
 朝から雨が降ったりやんだり。散歩に出かけたいが寒くって外に出ることも出来ない。テレビの天気予報を見ると低温注意報が出ている。「エー、そのような注意報あるの?初めて聞いた」東北ではこのような注意報があることを知り、少しは東北通になったかな? 朝食は、むせこむと嫌なので私だけ特別に部屋で食べさせてもらう。
 
 午後2時に仙台市から送迎車が来てインカレの会場までの約10分ほどを送ってもらう。 仙台市から回送時間が往復約2時間、送りの時間が10分、運転手さんも大変だよねー。 体育館は1階のみで観客席はコートの周りに階段状の席があるだけで、障害者にとっては階段を登り上から眺めることが出来ないのが残念だ。女子のコートはどうにか見えるところを選んでくれたが、男子の演技は審判席の斜め後ろから見るので何も見えない。
 
  午後8時頃、団体演技が終わりどうにか3女のチームは決勝まで残れたので嬉しい。
 
 会場から宿までの移動は介護タクシーを呼ぶ。ヘッドレストを外して乗らなければならないと言う事なので急発進や道路のガブリを心配していたが、迎えに来たタクシーは私が今使っている車と同じ車種。助かったー、これならヘッドレストを外さなくても乗れる。 ボランティアのOさんは宿に帰るまで付き合ってくれた。おそらく興味もないであろう新体操競技に6時間も付き合わせてしまい申し訳ない気持ち。

 宿に戻るとレストランはすでに閉まっているので皆でホカ弁を買ってきて夕食とする。
 
 
  8月20日
 
 今日も雨、昨日と同じく寒い。気温が18度とか、ホンマかいな!後で聞いた話では3女が泊まっていた宿舎ではストーブを燃やしていたそうだ。

 朝食は携帯用吸引機を持って行き、皆とレストランでバイキング料理を食べる。 12時頃、大会会場に行き個人と団体演技の決勝を見る。選手入場口でいると、3年連続優勝をしているM選手が目の前にいる。いつもテレビで見ている彼女はすごく綺麗なのに近くで見ると足にはテーピングだらけといった感じ。他の選手も同じようにテーピングや体が痣だらけといった状態で、演技をしている選手たちは華やかだけど殆どの選手が満身傷だらけの感じで練習の辛さが見えた感じだ。スカートをはきたがらない3女も脚に自信がないだけではなさそうだ。

 娘たちの演技は残念ながら6位までには残れなかった。でも、決勝まで残ることができメンバー全員が一生懸命頑張った結果なのだからご苦労さんとほめてやりたい。これからは遅れている就職活動頑張ってヤー! 今朝4時頃小便が出たきり尿意はあるのに全然排尿することが出来ない。体育館でも何度もトイレに行っていたが1滴も出ない。5時過ぎに部屋に戻ると、2女が「病院に行って導尿してもらおう」ということになる。もしもの時にはとケアマネを通じ連絡を取ってもらっていた刈田総合病院に電話を入れると、たまたまその先生が救急外来の当直をしてくれていた。病院に行くと直ぐに1300ccの導尿をしてもらい、アー、すっきりしたー。病院を出るとき担当の先生が出てきて、私の肩に手を置き「加藤さん頑張ってくださいねー」と言われた。難しい先生方が多い中、初めての診察で、しかもこの後診てもらうことがないであろう先生がこのようなことを言ってくれる。思わず目頭が熱くなった。 夜9時頃長女ファミリーは埼玉に向けて車で帰っていった。途中、霧が出ているだろうから気をつけて帰ってくれよー。孫も体調壊すなよー。


  8月21日
 
 やっと青い空が見えたが遠くの山並みには雲がかかっている。朝食後近くを散歩させてもらうが蔵王の山並みには雲がかかって何も見えない。外の空気を吸うと気持ちがさわやかになる。でも、せっかく宮城まで来たのだから妻や子供たちには蔵王の山並みくらいは見せて「お父さんはあの山にもスキーに行ってたんや!」と自慢話をしたかったなー。 11時頃送迎車が迎えに来たので仙台空港まで送ってもらう。ボランティアの方には4日間私につき合わせてしまった。
 
 名古屋空港を一足出た途端、「ウァー、暑い、やっぱり夏なんや」と口々に言っている。宮城では皆が「寒い、寒い」と言っていたのに1時間ほどでこれほど暑いとは、飛行機ってヤッパ早いんやー。
 
 軽い食事を済ませ、名古屋空港からは娘たちには明朝早くから仕事があるのでそのまま別れることにし、大阪から兄が迎えに来てくれていたので兄の運転で名張まで帰る。名張には7時頃到着、ペットホテルに愛犬を迎えに行き、ホカ弁を買って夕食。アー、無事に帰ってこれたんやー。


 今回の旅行には本当にたくさんの方々の世話になった。介護保険課の方、ケアマネ、MALSの役員、主治医や刈田病院の先生、現地のボランティアの方々、家族、その他多くの方々からも励ましを受けた。「とてもじゃないが行く事は出来ない」と思っていた旅行だけに行って来た達成感は大きい。これは全て皆さんの協力のおかげと感謝したい。

 
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