自分の身体の一部 概要

ソフトケアライフ
    水野勇気 さん

水野勇気さんの写真

 本日は「自分の身体の一部」というテーマで車椅子、座位保持装置、電動車椅子についてお話をさせて頂きたいと思います。
 
 今までの日本での車椅子の選び方は利用される方を第一ではなく、移動手段として、介助するのが楽なもの、軽いものというように介助者の立場から選ぶことが多かったと思います。しかし、介助がしやすいものが、乗せられる方にとって快適なのでしょうか?長時間座れるようにできていない為、座りなおしを崩れた姿勢での座位の原因となります。姿勢を悪くしたまま座り続けると円背や、後傾、各部に痛みが発生しやすく、2次障害ができます。利用される方の身体状況、目的にあった車椅子を選んでいかなくてはいけません。

 
今まで車椅子に乗られていて
 
・ おしりがいたくなったことがある方
・ 褥創ができてしまったことがある方
・ 身体の傾きが気になる方
・ 自分でしたい、やりたいことを我慢している方
・ 背中や腰、首が痛くなったことがある方
・ 頭を支持することが弱くなって不安に思われている方
・ 介助用車椅子に乗っている方で介助者に気を使われ過ぎる方
 
このようなことを感じられた方はいないでしょうか?

 
 そこで、長時間無理なく座る為には座位保持装置が必要になってきます。座位保持装置は安定した座位、良い姿勢をサポートする為のものです。安定した座位、良い姿勢を保つ事で身体の変形の防止、内臓障害の軽減、呼吸の確保ができます。普通の座位に長時間座っているとまず、おしりが痛くなります。特に坐骨結節が痛くなってくると思います。
 
 坐骨結節はおしりを曲げて頂いた時にでっぱっている骨です。皆様も触ってみて下さい。車椅子に限らず、椅子に長時間座っていると痛みがでてきたことがあると思います。又、おしりにかかる圧力が一定の所にかかってくますので、褥瘡の原因になります。そこでそれを補正するのに、骨盤、大腿部の座位保持が必要になっています。
 坐骨結節の形状に合わせたコントゥアータイプのクッションがあります。コントゥアーとは「そわせる」という意味です。コントゥアーなので身体にそわせ合わすことができます。又、前すべり、骨盤の後傾の予防にもなります。この形状のまま座ると固く、痛いと思いますので上にジェルを敷きます。
 
 このジェルを置く事で、痛み防止だけでなく、褥創予防にもなります。ジェルは無反発性の素材で、骨張った部分に大きな圧はかかりません。また流動性ですので「ズレ」を皆無にします。
 
 背布についても布やビニール製では長時間座っていると背中や首に痛みが生じてきます。それは背布の不自然な弛みによる姿勢の悪化や背布が背中に当たる部分による痛みが原因です。
 
 そこでバックサポートにも座位保持装置が必要になってきます。背布にクッションを当てるだけで良いのでは?と思われる方もいると思いますが、それでは不十分です。体幹のバランス、痛みの部位、傾き等、利用される方に合った、背面角度・変形への対応が必要になってきます。一人一人に合った背面角度と背面サポートが得られると、痛みが解消し、疲れにくくなります。背面と骨盤の後部からのしっかりした支持により、機能性を最大限に発揮するための良い安定した姿勢が得られます。安定性と快適性の両方が提供できるものが座位保持装置です。背バックも体にそわすことが大切になります。背面・側面の形状を無理なくそわせ、痛みを緩和する素材で接地面を多くとることで圧の分散もできます。
 
 座位保持装置により、安定性と快適性が得られることにより上肢の機能性の向上が可能となってきます。骨盤と背面だけのサポートだけではまだまだ不十分です。頭部と脚部も大事なポイントになります。
 
 筋力が低下し首の支持する力が弱くなり、前や後ろ、左右に傾いてしまう方の為にはヘッドサポートが必要になります。ただ頭を置くためのものではなく、安定する位置、負荷なかからない位置にくるよう調整します。チルト機能やリクライニング機能も利用し、気道がしっかり確保できる位置にします。
 
脚部も一つの位置での固定式のものではなく、エレベーティング式の再度調整が可能なものを使用します。
 
 頭部へのコントゥアー、体幹部部へのコントゥアー、骨盤・大腿部へのコントゥアー、脚部へのコントゥアー、頭の先から足のつま先までしっかりサポートができてはじめて座位保持装置になります。
 
 利用される方一人一人の人生、身体にそわした形で座位保持装置を作っていきます。同じ形というものはありません。私たちは人間ですので太ったりやせたり等、身体状況がつねに変化していきます。座位保持装置も身体状況の変化に対応していかなくては安定した座位、快適な座位を保っていくことは困難です。私たちの扱っている座位保持装置は身体状況の変化に合わせて即対応することができるものになっています。
 
 次に座位保持装置があれば全てよいか?といいますとそれだけでは不十分です。利用される方の身体寸法にあった車椅子本体が必要になります。体のサイズに合っていない座幅、座奥、前座高、背面高さ等の車椅子に乗っていては座位保持装置を生かすことができません。車椅子も合わせて座位保持装置ととらえて下さい。そこで車椅子の選択も重要になってきます。
 
 介助者の立場でなく利用される方を第一に考えるのはその為です。車椅子の選択で長時間座られる方はチルト機能があると良いと思います。そのままの姿勢を維持したまま体圧の分散ができます。通常の位置で座っていると座布(ももの裏側と臀部)にかかる圧は65%、背面が14%、アームレスト2%、足の裏(フットレスト)9%です。45°のチルトをかけることにより、ももの裏側と臀部・背面の圧力がちょうど50%ずつとなり、最適な体圧分散となります。又、先ほど少しふれましたが、チルトをかけることにより、円背傾向でヘッドサポートに頭をつけることが難しい方も頭をささえることができます。
 
 リクライニング機能ではいけないのか?と言われますが、リクライニング機能では、倒したり、起こしたりすると、どうしても骨盤がずれてしまいます。その度に座りなおしをしなければなりません。チルト機能では骨盤のズレが生じません。体圧分散の目的ではリクライニング機能よりもチルト機能が勝ります。
 
 それではリクライニング機能は不要と言っていいでしょうか? 時に必要がその答えになります。それは体圧分散の目的ではなく、筋力が低下し身体を支えるのが困難になってきた時にリクライニング機能を使用するわけです。座位保持装置があれば座れるのでは?と言われますが、座位保持する力がある方のサポートをする為のものが座位保持装置ですので、座位が保てなくなった方には座位保持装置があっても座るのが困難になります。又、体を起こした状態で移動する際に頚椎を支持する力が弱い場合は段差等で首に衝撃がおき、進展、屈曲で頭が倒れ不安に思われた方も多くいると思います。それを解消する為に移動の際にリクライニング機能を使うことがあるわけです。
 
 さて、自分でできること、やりたいことは可能なかぎり自分でという方には電動車椅子があります。本日お持ちした電動車椅子は非常にコンパクトにできており、室内、室外を問わず乗って頂くことができます。乗れるだろうか?しっかり操作できるだろうか?と心配される方もいると思いますが、コンピューターが内蔵されており、ジョイスティックを少ししか傾けられない方にも、1スイッチで操作できるように等、その方に合わせてプログラムを組み込んでいくことができます。さらに電動チルト機能やリクライニング機能を使えば自分のペースで体圧分散が行えます。電動車椅子も座位保持装置を搭載できます。全てにおいてコントゥアーができます。
 
 これは6輪の中輪駆動タイプですので施回の中心と体の重心が一致しているので、立っていた時の感覚で操作ができます。又、6輪なので安定した走行、振動も少ないので体にかかる負担も少ないです。重心も低い為、倒れるのではないか?という心配もありません。自分で行きたい所へいける、やりたいことができる、自分の身体状況に合わせてプログラムも組める。電動車椅子は自分の足となります。
 
 介助される方も今まで人工呼吸器を搭載した車椅子での移動の際長く不便に思われた方、重たい思いをされた方もいると思います。電動車椅子なら乗られる方が操作をするので負担も解消されます。又、この機種は人工呼吸器を搭載していてもコンパクトさを保つことができます。介助者用に手動に切替えをしても介助者の押したり引いたりする力が軽微ですみます。小回りも良いので移動も楽です。介助される方にもやさしい作りとなっています。
 
本日のまとめですが、
 
 まず第1に、車椅子を身体寸法に合わせたものを選択する。
 
 第2に、座位保持装置は頭の先からつま先までその人一人一人の人生、身体にそったものを使用する。
 
 第3に、電動車椅子を単なる乗りものとしてではなく、自分の足として使えるものを選択する。
 
そうすることにより、自分でしたい、やりたいと思うことができるようになってきます。だから自分の身体の一部となるのです。毎日のことだからこそ大事に考えて頂きたいと思います。

  
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