人間回復の医学の必要性

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店村 眞知子(たなむら まちこ)

 サルトジェネシス(健康創生論)−現代医学と伝統的東洋医学、心身医学を併用し、人間の限りない可能性への信頼に基づいた医療の考え方があることを知ろう。
 
 心身医学は、人間の心身の健やかな営みには、母なる大地のリズムとの調和が基本になると考え、真の健康を保つためには、自分の心身の状態や変化に対する気づきを深めることや、各々自身に応じた心身両面での生活のあり方を会得することを目的とする人間学である。学問的な基盤が出来てきたのは20世紀に入る頃である。
 
 フロイト、ダンバー、アレキサンダー、パブロフ、日本では池見らの先駆者により心身相関についての研究や、学問的啓蒙活動が行われた。近年になり、緩和医療や、癌末期医療について、現代医学的治療の限界の認識とそれを乗り切る知恵を、伝統的東洋医学や心身医学に求めるような傾向が生じてきた。
 
 重篤な病気を持つ患者には、頼る人もいない。又彼らは科学万能の現代においてすら安寧はないのである。今の医療の矛盾や医療不信をさぞや嘆きたいことであろう。音楽は、すべて優しい情緒から生まれるものである。
 
 母が子に歌って聞かせる子守唄、遠く離れる家族や親、友人を思ってうたう歌、神への忠誠と愛を歌う讃美歌、自分たちの祖国を思って同胞たちが大合唱するときの歌、愛する人を思ってうたう歌。音楽は精鋭な感受性を持つ作曲家達により、自分たちの内面の充実と平安を希求して作り上げられた世界なのである。
 
 音楽療法を緩和医療の可能性として用いるとき、まず人間の本質の理解(その人にとっての生きる意味や価値を知ることこそ大切であると考えること)に基づき、サルトジェネシス的アプローチを行なってゆく。
 
 それは健康阻害の原因を考え、次にその人の資源はどこにあるかを考えて(資源とは、ガンがあっても頭脳はしっかりしている、どこへでも動いてゆくことができるなど、ポジティブに活かせる部分・要素のことである)どうすれば健康になれるかを考える方法である。
 
 つまり発想の転換を行なうのである。ALSの患者さんの場合なら、その人のノーマルなところを活性化して、その積極的活用を図ることで人間としての秩序を整えバランスを取ろうとするのである。
 
 そして音楽療法の持つ可能性は、本当の意味での精神を癒す場となりうるだろうかということであるが、音楽が対象者の感性に触れチューニング・インされると、直ちに交感神経は鎮まり副交換神経が優位になるということが解っている。自律神経系の興奮を下げるのである。
 
 音楽療法の効果を考えるとき大切なことは、音楽を聴く側が、柔らかな感性を持ち音楽を欲する心を持ち、感動する心を持つことである。それが効果にも影響することになり、情動を大きく動かしてカタルシス(発散・精神浄化作用)を起こさせるのである。
 
 このカタルシスを体験することによって、自らが精神の建設的な再構成や人生に対する気付きを行なえるようになるのである。
 
 このことを、人間の限りない可能性への信頼に基づいた医療の考え方―サルトジェネシス(健康創生論)という文脈の中で考えてゆくことが出来るのです。
 

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