設立記念講演 「羽ばたく心で 力強く生きましょう」

座長 成田有吾(三重大学神経内科助教授 MALS顧問)
講師 葛原茂樹(三重大学神経内科教授 MALS名誉顧問)

講演内容
 
H14年4月より厚生労働省神経変性疾患班長に就任し、ALS・パーキンソン病・ハンチントン病の3疾患を担当しています。患者さんや御家族と手を携えて、神経難病の克服のために頑張りますので、よろしくお願いします。
 
 患者さんや御家族の声は何よりも改革の推進力になりますので、ヘルパーの吸引を厚生労働省に認めてもらうためにも、患者会から大きく声をあげて下さい。
私が皆様に期待するのは、肉体的な病気にめげることなく、何よりも力強く明るく生きていただきたい。そのような生き方をしている患者さんの方が、病気の進み方が遅いように思います。最終的には人工呼吸器が必要になりますが、日本では患者さんの意志が尊重されるのは「呼吸器をつける」時までです。つけた後はもう「はずせない、つけっぱなし」です。欧米では「つける」時も「はずす」時も、患者さんの意志を尊重するシステムになっています。この点について、難しい問題ですが、「真の人権尊重とは何か」という観点から今後検討する必要があると考えています。
 
 ALSは筋肉がやせてきます。しかし意識・知能は保たれ、眼球運動・まばたき・排泄筋・感覚の機能は末期まで侵されません。脳・意識・心がしっかりしているということは、1人の人格として生きているということで、たとえ字が書けなくても選挙権はある、投票する権利はあるということです。ALS患者さんの訴えで選挙権がやっと認められましたが、日本ももっと人権が守られる社会にしていく必要があります。
 
 気力と病気:ALS患者さんの調査では精神力が強い方が病気の進行が遅く、精神活動が高いほど生存力が強く、生活の質も高いという結果も発表されています。


元気印のALS患者さんの例をお示ししましょう。

● 宇宙物理学者のホーキング博士
20歳代に3年の命と告知されて、自分の一番やりたい宇宙物理学の研究をされました。 世界的な研究者になり、30歳代で結婚し子供をさずかり、今も大学で講義をしています。
 
● ルー・ゲーリック
野球選手で大リーグのホームラン王です。ALSに罹患し、患者会の活動を通じてALSと いう病気を社会的に認知させることに貢献しました。
 
● 私自身の担当患者
病歴7年。海外旅行を勧めた所、自力でニュージーランド、イタリア、台湾と夫婦で旅 行をされました。現在も、昼間は主婦業、夜間は自分で人工呼吸器をセットし痰も自 分で吸引する自立した生活です。社会の中で、家庭の中で、役割をもって生きている 模範的患者さんです。
 
● Kさん
三重県出身のALS患者さんです。発病後、20年以上生きられました。周囲に迷惑をかけ たくないという思いで他県の施設に入所し、レスピレーターをつけて全国の患者を励ましてまわり、患者会活動を発展させました。
その他、口で絵筆を使って絵を描き、個展を開いて資金を集めている患者さんもいらっしゃいます。

他人に何をしてもらうかではなく、自分が何をするのかを考えて、人間として力いっぱい生きていくことが大切です。


病気について
 ALSの原因はほとんどわかっていません。10%ぐらいは遺伝性のものがあります。発症促進遺伝子/発症抑制遺伝子の関与も研究されています。例えば紀伊半島、グアム島、西インド諸島という特定地域に多く発生していることは、原因(水?食べ物?遺伝子?体質?)も集積していて見付けやすい筈で、三重大でも一生懸命研究しています。
新しい治療薬への挑戦…神経興奮アミノ酸抑制剤、神経栄養因子などが試みられていますが、決定打はまだありません。


 体が動かなくても心の宇宙は広々しています。頭の中で宇宙を構築し自由に大きく羽ばたきましょう。患者さん御自身も、それを支える御家族や支援者も幸せな気分を味わえる、そういう生き方をしていただきたいと思います.

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