ホルモン感受性リパーゼ(HSL)とは異なる脂肪細胞内TG水解酵素の特性
1東京大学医学部糖尿病代謝内科、2筑波大学臨床医学系内科代謝内分泌
岡崎啓明1、大須賀淳一1、飯塚陽子1、矢作直也1、大橋健1、原田賢治1、後藤田貴也1、島野仁2、山田信博2、石橋俊1
【目的】ホルモン感受性リパーゼ(HSL)は、脂肪細胞、副腎皮質、性腺など広汎な組織に存在し、脂肪酸を含む分子であるトリグリセリド(TG)やコレステロール・エステルを水解する酵素である。我々はHSLノックアウトマウス(-/-)を樹立し、白色脂肪組織(WAT)にも褐色脂肪組織にもTG水解活性が残存することを既に報告した(PNAS 97:787, 2000)。今回は、WATのモデルである胎仔線維芽細胞(MEF)由来脂肪細胞(MEF-A)を用いて、HSL有無の脂肪細胞分化(adipogenesis)、及び各種脂肪分解性ホルモンによる脂肪分解に及ぼす影響を検討した。【方法】胎生14.5日のMEFを野生型(+/+)と-/-より採取、DEX/IBMX/INS、10%CS添加αMEMで培養した。@HSL、aP2、PPARγ、C/EBPαのmRNA発現をノーザン・ブロットで解析した。細胞内TG含量を酵素法で測定した。イソプロテレノール(ISO)、dibutyryl-cAMP、forskolin、BRL35135A (β3AR agonist)、ACTH、TNFαを培養液中に添加し、培養液中グリセロール濃度を酵素法で測定した。【結果】1.+/+、-/-とも、DEX/IBMX/INS添加後5日目よりaP2、PPARγ、C/EBPαの発現を認め、以後経時的に増加した。細胞内TG含量に、+/+と-/-で有意差は認められなかった(0.434 vs. 0.399μg/μg protein; p>0.05, n=5)。HSL発現は、+/+では5日目より認めたが、-/-では認められなかった。2.ISO(100nM)添加1時間後の培養液中のグリセロールは、+/+、-/-とも有意に増加(0.404 vs. 0.183μmol/mg protein; p<0.05, n=3)、遺伝型間で有意差が認められた(p<0.05)。dibutyryl-cAMP、forskolin、BRL35135A、ACTHでも+/+、-/-とも有意なグリセロール増加を認めた。ISOによるグリセロール増加は、H89(PKA阻害剤)100μMにより+/+、-/-とも約35%阻害された。3.TNFα(10ng/ml)添加24時間後の培養液中のグリセロールは、+/+、-/-とも増加した(0.15(p<0.05, n=4) vs. 0.12 (p=0.0586, n=4) μmol/mg protein)。遺伝型間での有意差は認められなかった。【考察】βAR刺激やTNFαに応答し、-/-でも脂肪分解亢進が観察され、HSLとは異なる細胞内TG水解酵素の存在が示唆された。ISOによる脂肪分解は、-/-でもH89により+/+と同程度に抑制されており、未知の酵素はcAMP依存性であることが示唆された。【結語】HSL +/+と-/-のMEFを用いて脂肪細胞分化・脂肪分解を解析、HSL-/-でも脂肪細胞分化、脂肪分解は行われていること、未知のホルモン感受性リパーゼはcAMP依存性であることを示した。