マクロファージ泡沫化におけるリパーゼの意義

東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科

大須賀淳一、関谷元博、五十嵐正樹、岡崎啓明

泡沫細胞はマクロファージがリポタンパク由来のコレステロールエステル(CE)を過剰に蓄積した結果と考えられている。この細胞の出現は動脈硬化の初期病変の特徴であると同時に、これに引き続く血管壁での病態進展の引き金になる点で、泡沫現象の制御は治療的観点からも重要な課題と考えられる。脂質蓄積の調節は、脂質の合成と貯蔵及びその分解より成り立っている。脂質分解機構の脂質蓄積に及ぼす影響については不明な点が多いが、ホルモン感受性リパーゼ(HSL)は脂肪細胞やマクロファージに存在しTGリパーゼ(TGL)活性と中性CE水解酵素(NCEH)活性を有する酵素なので、活性の増強により脂質蓄積を軽減する可能性が期待されてきた。実際、マクロファージでのHSLの過剰発現はマクロファージの泡沫化を抑制した。HSLが主要なNCEHであるとすれば、HSLの欠損はマクロファージのNCEH活性を著減するものと予想されたが、我々が確立したH S L 欠損マウス(HSLKO)のNCEH活性は野生型と同等であった。従って、HSLとは異なる主要なNCEHの同定はマクロファージ脂質分解機構を理解する上で重要と考えられる。我々は既存のデーターベースをリパーゼのコンセンサスモチーフ(GxSxG)等をkeyとして検索を行って、機能が未知の遺伝子を29個見い出した。これらに関して、組織分布や酵素活性の検討により3 個の新規リパーゼが同定され、その機能を解析した。このうちの一つは、マクロファージに発現する新規NCEHであった。この新規NCEHの過剰発現はマクロファージの泡沫化を抑制した。また、動脈硬化病変における発現が確認される一方、TNF-αやLPSによる炎症性刺激でその発現が減少することが観察された。新規NCEHと動脈硬化形成との関連がより明確になれば、新たな治療法への応用が期待される。