高血圧自然発症ラット(SHR)における高血圧とインスリン抵抗性症候群の原因候補遺伝子の解析、またはAnalysis of the genetic basis of hypertension and insulin resistance in the spontaneously hypertensive rats
1東京女子医科大学医学部糖尿病センター、2東京大学医学部糖尿病代謝内科、3筑波大学臨床医学系内科代謝内分泌、4自治医科大学内分泌代謝学
後藤田貴也1、飯塚陽子2、大須賀淳一2、岡崎啓明2、島野仁3、石橋俊4、岩本安彦1、山田信博3
【目的】SHRは、本態性高血圧症とインスリン抵抗性症候群の遺伝的モデル動物であり、その原因候補遺伝子を探る。【方法】SHRとその対照であるWKYラットとの交配に由来するF2群を対象としてQTL(quantitative trait locus)解析を行い、同定された原因候補遺伝子に関して検討を行った。【成績】3番および4番染色体上に、血圧や血清脂質、体重や脂肪細胞でのインスリン抵抗性など複数の表現型に連鎖するQTLの集簇を認めた。4番染色体領域に存在する候補遺伝子Cd36に同定された欠失変異は、F2群において血糖とコレステロール値の低下および血中遊離脂肪酸値の増加と連鎖を認めた。しかし、QTL同定のもととなった脂肪細胞でのインスリン抵抗性とは連鎖を認めず、4番染色体QTLの原因遺伝子はCd36とは別に存在するものと思われた。一方で、3番染色体領域に存在する候補遺伝子KAT-1(kynurenine aminotransferase-1遺伝子)にはSHRに特異的なミスセンス変異(E61G)を同定した。本変異は、F2群において血圧上昇、体重減少、脂肪細胞でのインスリン抵抗性および脂肪分解異常のそれぞれに有意な連鎖を示し、また発現実験により機能低下型変異であることが確認された。【結論】SHRの4番染色体QTLの原因は、Cd36とは別個に存在することが示唆された。一方、3番染色体QTLの原因候補遺伝子KAT-1に同定されたE61G変異は全てのSHR strainに共通してみられ、高血圧を含むSHRの多様な異常の根幹に関わる変異である可能性が考えられた。現在、KAT-1を過剰発現するアデノウイルスベクターを用いてその生理的意義を検討中である。