肥満インスリン抵抗性動物からみた高レムナント血症の発症機序

1東京大学医学部糖尿病代謝内科、2筑波大学臨床医学系内科代謝内分泌、3自治医科大学内分泌代謝学、4東京女子医科大学糖尿病センター

矢作直也1、島野仁2、大須賀淳一1、嶋田昌子1、野牛宏晃3、大橋健1、原田賢治1、後藤田貴也4、山田信博2、石橋俊3

我々は従来より、発生工学的手法を用いて、リポ蛋白代謝に重要な様々な分子の生体での役割や、粥状動脈硬化症への関与などを明らかにしてきた。特にLDL受容体欠損マウス、apoE過剰発現マウスやLPL過剰発現マウスの解析により、血中のレムナントリポ蛋白量が動脈硬化症の発症に極めて強く寄与することを明らかにしてきた。今回我々は、肥満/インスリン抵抗性状態における高脂血症の発症メカニズムを解明するために、肥満/インスリン抵抗性動物であるob/obマウス(レプチン欠損マウス)にLDL受容体欠損マウスを交配し、ダブルノックアウトマウスを作製した。これらは単独の遺伝子異常では高脂血症は軽度で動脈硬化症も軽微であった。しかし両遺伝子を欠損するダブルノックアウトマウスでは、血中コレステロール、中性脂肪値が著増した。とくにレムナントリポ蛋白が血中に著明に蓄積し、大動脈に顕著な粥状動脈硬化病変を形成した。この結果から、エネルギー代謝の不均衡とリポ蛋白代謝の異常の合併が、動脈硬化症に極めて促進的に働くことがわかった。レプチン、LDL受容体両欠損マウスの病態をさらに検討するために、このマウスに摂餌量制限やレプチン短期投与を行った。興味深いことに、これらの処理により血中の中性脂肪値は低下したものの、コレステロール値には影響が見られなかった。以上のことから、高レムナント血症の発症機序に食事やエネルギー代謝バランスの異常からくる過剰生産が関与すること、すなわち、レムナントの産生側の因子も異化と同様重要であることが示唆された。このことはインスリン抵抗性症候群の治療における食事療法の重要性に符号するものと考えられる。