肝臓内コレステロール合成亢進のコレステロール代謝に及ぼす影響
1東京大学医学部糖尿病代謝内科、2東京医科歯科大学教養学部化学、3筑波大学臨床医学系内科代謝内分泌、4自治医科大学内分泌代謝学
岡崎啓明1、冨田佐智子1、矢作直也1、塚本和久1、岡崎三代2、島野仁3、山田信博3、石橋俊4、大須賀淳一1、木村哲1
【目的】コレステロールは細胞膜の維持・アポB含有リポ蛋白の生成に不可欠であり、同時にステロイドホルモンや胆汁酸の前駆体としても重要である。コレステロールのde novo合成の半分は肝臓が担っているが、肝臓での合成亢進がコレステロール代謝に及ぼす影響については明らかではない。今回我々は、肝臓内コレステロール合成の最終制御段階として知られているスクワレン合成酵素(SS)の肝臓での過剰発現がコレステロール代謝に及ぼす影響についてin vivoで検討した。【方法・結果】スクワレン合成酵素の組み換えアデノウィルス(Ad-SS)を作製した。C57/BL6JマウスにAd-SSを経静脈的投与することによりSSを肝臓で過剰発現させ、肝臓内コレステロール合成を亢進させた。投与7日目の肝臓脂質含量は、コレステロール(Ad-LacZ: 1.10±0.14 vs. Ad-SS: 1.28±0.19 mg/g of liver)、中性脂肪(Ad-LacZ: 3.67±0.56 vs. Ad-SS: 2.38±0.53 mg/g of liver)ともに有意な上昇を認めず、肝臓組織所見でも脂肪滴の増加は認めなかった。血中総コレステロール濃度は、Ad-SS群で1.7倍の上昇を認めた(Ad-LacZ: 83.1±9.5 vs. Ad-SS: 137.6±7.6 mg/dl)。HPLCによるリポ蛋白分析では、VLDL・LDL・HDL分画が、それぞれ、1.4倍・1.9倍・1.3倍に増加していた。Northern blot analysisではSREBP-2・LDL受容体・HMG-CoA還元酵素の遺伝子発現に明らかな変化を認めなかった。【考察】肝臓内コレステロール合成の亢進は、肝臓脂質含量を増加させずに、血中コレステロール濃度を増加させた。SREBP経路の遺伝子はnegative feedbackを受けておらず、SREBP経路以外の機構による制御の可能性が示唆された。