炭水化物同化促進因子としてのbHLH-LZIP型転写因子TFE3の同定と糖尿病治療への応用

1筑波大学大学院人間総合科学研究科内分泌代謝・糖尿病内科、2東京大学大学院医学系研究科クリニカルバイオインフォマティクス研究ユニット、3東京大学大学院医学系研究科糖尿病代謝内科

中川嘉1、島野仁1、矢作直也2、松坂賢1、大須賀淳一3、山崎力1、永井良三1、山田信博1、門脇孝3

体内のエネルギー貯蔵物質としてグリコーゲンと中性脂肪はともに重要な働きを担っているが、肥満/メタボリックシンドロームにおいては中性脂肪の貯蔵が増加している一方、グリコーゲン貯蔵量は減少傾向であり、このバランスの崩れは病態の重要な部分と考えられている。今回我々は、bHLH-LZIPファミリーに属する転写因子TFE3をE-box結合転写因子として発現クローニングした。TFE3はIRS2やAktのmRNA発現を増加させることでインスリンシグナル伝達を増強させ、グリコーゲン合成を著増させて血糖値を下げることを、1型および2型両糖尿病モデル動物で示した。グリコーゲン合成系、タンパク合成系はタンパク質リン酸化カスケードを通じてインスリンにより厳密に制御されており、インスリン受容体以降の経路への治療的介入は困難と考えられてきたが、炭水化物同化促進因子としてのTFE3という転写因子により、一連の栄養代謝関連遺伝子をまとめて発現増強させることでインスリンシグナル伝達を増強させうることが示され、新たな糖尿病/メタボリックシンドローム治療戦略の潜在的可能性が示唆された。