新規に同定されたコレステロールエステラーゼ(MCEH)は未同定であったマクロファージの中性コレステロールエステラーゼである
東京大学医学部糖尿病代謝内科
関谷元博、大須賀淳一、石橋俊、門脇孝
マクロファージにおける細胞内コレステロールエステル(CE)の過蓄積、すなわち泡沫化は動脈硬化現象を説明するものであり、その細胞内脂質代謝制御の分子機構解明が待たれている。泡沫化に際しては、スカベンジャー受容体を介して、変性リポタンパクが取り込まれ、ライソゾームで分解され、生じた遊離コレステロール(FC)がACAT(Acyl-Coenzyme A:cholesterol acyltransferase)活性によって脂肪酸を付加されてエステル体となり、細胞内に蓄積すると考えられている。形成されたCEは中性コレステロールエステラーゼ(NCEH)で分解され、生じたFCはABCA1(ATP-binding cassette A1)等を介して細胞外へと放出される。こうした細胞内脂質代謝を制御する分子群は既に同定され、機能が明らかにされてきたが、NCEH活性を担う分子だけは明らかでなかった。我々はその候補遺伝子をデータベーススクリーニングにより同定し、MCEH(Macrophage Cholesteryl Ester Hydrolase)と命名した。
MCEHはマクロファージに強く発現し、細胞内局在は膜分画であった。NCEH活性を強く有し、その発現は内毒素(LPS)の刺激によって低下し、動脈硬化巣では亢進している等、未同定のNCEHである可能性が高いと考えられ、遺伝子欠損マウスの作成を行った。
MCEH欠損マクロファージは野生型に比して、全細胞溶解液のNCEH活性が約51%低下していた。変性LDLとしてアセチルLDL(acLDL)を添加するとMCEH欠損マクロファージは野生型に比して細胞内CEが約45%増加していた。acLDL刺激時に[1-14C]オレイン酸を同時添加した際の細胞内CEの放射活性はMCEH欠損によって約2.5倍に増加していた。[1,2-3H]リノール酸コレステロールでacLDLを再構成し、培養液中の放射活性を測定すると、MCEH欠損によってFCの細胞外放出が約35%減少していた。MCEH欠損はリポタンパクのライソゾームにおける分解(degradation)やACAT活性には影響を与えなかった。
MCEHは未同定であったマクロファージのNCEHであり、脱泡沫化を制御していると考えられた。