桜の京に集う:Kyoto 2005雑記

河本 宏(理化学研究所)

 

 KTCC(京都T細胞会議)は1992年から年1回のdomesticな胸腺/T細胞研究会として始まったが,3-4年に1度くらいinternationalな会として開催され,今回で4回目である.前号の高浜先生の記事にあるように,類似の研究会として,欧州のRolduc会議,豪州のThymOz,北米のThymUsがあるが,高浜先生のよびかけで,4つの会で4年に一度ということでまわしていくことになり,今回はその取り決め後初の会ということになる.

 今回はJSPSの拠点形成事業の一つとして高浜先生が長を務めているThymus Organogenesisの催すワークショップと,坂口志文先生率いる特定領域研究班主催のImmune Tolerance and Regulationというシンポジウムと合同で開催され,ひっくるめてKyoto 2005と冠された.初日の夕方の講演を入れると計5日に亘った.発足時のKTCCは「胸腺とT細胞分化」が主題だったらしいが,昨今の国内KTCCでは「胸腺学」は減少傾向にあったと思う.一方で,欧米では胸腺屋さん的研究者が依然として多く,最近でもRolducやThymOzではこの分野の比重が比較的大きい.今回はThymus Organogenesisと合同したおかげでKTCCの原点に戻ったような感があるといえよう.

 この数年の胸腺についてのトピックスの中に,胸腺上皮細胞は内胚葉起源で,外胚葉成分は貢献しないという話がある.鳥類ではいわれていたので,ほ乳類でもそうでしたという話ではあるが,多くの教科書の図を書き換えなくてはならない.今回もその流れの発表に物言いもつかず,OKということらしい.ちょっと驚いたのは,われわれがよく使っているマウスのストレインでもその数十%には気管の周辺とかに異所性の胸腺があるという話.では,thymectomy実験とかのデータはどうなるというのか.何にせよまる1日以上こてこての胸腺の話に浸れるのは,なかなかRolducやThymOzでもないことだ.大変良い会だったと思う.

 この日,丸山公園で花見した後に,祇園ですきやき食べ放題自費ツアーという企画を担当していた.参加予定者に地図を配布した後,夕方頃店に50人分の予約確認をしたところ,「しばらく連絡がなかったんでキャンセルになってます.電話もつながりませんでしたから.今からは無理ですね」と言われた.そういえば携帯の番号しか教えてなかったし,その携帯を横浜に忘れてきていた.血の気がひいて,これは雲隠れしかないと思ったが,よく聞くと店自体はまだスペースがあって,その分の肉を仕入れてないのが問題だとわかり,間に合わせるように懇願して何とかなった.教訓は,「予約確認はまめに」.

 3日目後半あたりから5日目までが国際KTCCの部であった.今回何故か「胸腺に入る細胞は何か」という話題が多く,胎生期,成獣期ともに数題ずつあった.胎生期については,われわれがデータを重ねてきた「T系列への決定は胸腺移行前」という説を,この分野の老舗ラボであるBirmingham大学のグループが追認したような話があった.ほっとした反面,警戒レベルを上げる必要がでてきた.ひとが違うことを言ってる間の方がむしろ安心だということだ.一方,成獣期については議論が分かれた.争点は多能前駆細胞がB細胞への分化能をいつ失うかということだ.成獣胸腺ではB細胞をつくれるような細胞の頻度は大変低いが,殆どないから重要でない,いやそういう細胞こそが移住細胞だ,と見解が分かれていて,実際に成獣ではそういう細胞が胸腺移住細胞の主流派か少数派か見極めるのは今のところ困難である.

 Runxの話題もひとつのセッションになるくらい賑やかで,その中にRunxがキラーT細胞系列への決定を誘導するという提唱があった.分化に関する研究につきまとう問題は,ある因子が分化の方向性を決めているのか,方向性が決まったあとの生存/増殖を支持しているのかという区別が難しいことである.Runxの働きについても,議論を重ねて慎重に解釈するべきであろう.FACS機器の考案者であるHerzenberg夫妻の夫人の方の講演の後半は自分達のつくったFACSラボ管理総合ソフトのセールストークだった.普通なら「そんなのあり?」となるが,そうならないのが流石である.仲のよい夫婦は風貌(体型?)が似るという例でもあった.

 Kyoto2005は桜の開花時期にぴたっと合った上,会期中好天が続いた.KTCCのHPからKyoto2005に入ると桜の下で撮った集合写真が見られる.桜の花が和ませてくれているのか,参加者が皆とてもいい顔をしているように思える。

 

 

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