統計学的画像再構成法である

OSEMアルゴリズムの基礎論

 

【第1章】確率・統計の基礎

 

1.11 正規分布

 

 正規分布またはガウス分布とも呼ばれている分布の1つで,皆さんも良く聞く名前かと思います.それもそのはずで,自然現象の多くがこの正規分布に従っています.身長や体重といったものから製品のばらつき具合など,実に多くのものが適合します.放射線の話では,誤差の分布や,最近話題のマルチスライスCTZ軸(体軸)方向にかけるフィルターの近似関数にも使われています.ではどんな分布なのでしょう.早速定義を示します.

 

【定義】

 確率変数Xが次の確率関数をもつとき、Xはパラメータμ、σ2の正規分布に従うという。

ただし、−∞<μ<∞、0<σ

        −∞< x <∞

図 μ、σを変化させたときの正規分布

 

μは母数の平均値,σ2は母数の分散を示します.図の上のグラフは,μを一定にし,σ2を変化させた時のグラフです.σ2を大きくするとグラフは横に広がった形になります.下のグラフは,μを0から1に変化させ,σ2を同様に変化させたグラフです.どのグラフの左右対称です.決して正規分布は左右非対称にはなりません.またこれらの性質から,正規分布はμとσ2の二つのパラメータで形が変化することがわかります.そしてもう1つ重要な性質として,正規分布に従う集合同士を足しても引いても,その集合は正規分布の性質を保つのです.この性質は次に示すポアソン分布と異なる性質で,計算やモデルの組み立てに重要な性質なのです.

 正規分布にはさらにもう1つ,重要で面白い性質があります.これを標準正規分布といい,ある変換を行うと,どんなパラメータの正規分布も,μ=0,σ21 の正規分布になるのです.以下に示しましょう.

 

【標準正規分布】

Zが標準正規分布に従うならばZの確率密度関数は、

    −∞< z <∞

である。このときZは以下で表すことをZ変換と呼ぶ。

 

つまり,z=〜〜 の式に変数Xを代入して計算されたzの集合の分布を考えると,不思議なことにμ=0,σ21 の正規分布になるのです.これもなにかと便利な性質です.

 

正規分布と次節のポアソン分布は,MLEMを考える際に重要です.特にポアソン分布は“肝”になりますから,よく覚えておきましょう.これら分布の説明のあとに最尤推定の概念を解説し,実際に正規分布とポアソン分布を用いてMLEMに適合できる基礎の部分の証明と理論を示します.分布の式をよく覚えておいてください.またLogΠの計算がでてきます.忘れたかたは復習しておきましょう.