小出大介の研究サイト
テーマ「電子的クリニカルパスのためのアウトカム用語の標準化」
文部科学省 科学研究費補助金 研究基盤(C)
期間:平成21年~23年度
【目的】
1990
年代半ばから日本の医療分野においてクリニカルパス(以下パスと略す)が広く利用されるようになり、近年は地域も巻き込んだ地域連携パスも普及し始めている。一方、医療の情報化は1980
年代から急速に広がり、1990
年代後半には電子カルテが実現され、現状ではまだ電子カルテの導入は全病院の1
割にも満たないが、電子カルテの普及に伴い、今後パスを電子化する病院も増えてくると思われる。しかし紙のパスを電子化することは、単に媒体が違う以上に運用や管理も含めて変わってくることも多い。特に電子化で用語を管理するためにマスターがあり、パスでもアウトカムなどマスターが必要となるが、各医療機関で独自にマスターを作成することは、労力と時間がかかるだけでなく、独自性が将来的なシステム更新や地域連携パスへの発展の障壁となりかねない。逆に共通のマスターを使うことで、施設間の比較(ベンチマーク)が容易となり、評価や質的向上へ繋げることができる。
そこで本研究では自院も含め各施設のパスを収集して分析し、アウトカム項目の標準的なマスターを作るとともに、それらをWeb
上で公開し、様々な施設の今後の電子的パス作成に寄与することを目的としている。
【方法】
まず紙ベースで運用しているクリニカルパスについて、その導入前と導入後についてレトロスペクティブにデータを取得する。それらのデータは申請者が関与した先行研究である電子カルテ導入における医療の質への影響を測定した時の評価指標をもとに収集を行なう。データ収集にあたっては解析においてケースミックスが可能となるように、DPCのMDC分類に従った形式で分類管理を行なう。次いで電子化クリニカルパス導入前後におけるデータも紙ベースのクリニカルパスの時と同様に収集する。研究結果の解析においては、まず紙ベースのクリニカルパスの使用前後における比較を参考データとしてまとめた上で、さらに電子化クリニカルパス導入前後の比較も行なう。
平成21年度
公開されているパスの収集とアウトカム項目の抽出
@MEDIS(http://www.medis.or.jp)1)で公開されているパスをダウンロードする。
A上記ダウンロードしたパスおよび自院のパスからアウトカム項目を抽出し、MS-エクセルなどのスプレッドシートへ項目ごとに切り出す。
B先行研究の分類(武藤正樹. 外科治療 90: 815-23, 2004)2)に従い、アウトカム用語をわけて各シートに保存する。
平成22年度
アウトカム項目からリードタームの設定と階層化
@分類された各シートのアウトカム一覧から、KJ法を取り入れた分析により、さらにグループ化をする。
Aさらに各グループ内の用語についてパスへの利用頻度や情報粒度に応じて、階層化および代表となるリードタームを決定する。リードタームの決定に際しては、ステッドマン医学大辞典および最新医学大辞典(医歯薬出版)の見出し語も参考にする。
平成23年度
過去2年間で収集したアウトカム項目について、以下の作業を実施する。
@MEDIS-DCからパスライブラリーに追加されたパスを整理して、情報のアップデートを行う。
A患者用パスのアウトカムについても精査をする。
B本研究でWebサイトに公開した標準アウトカムについて寄せられた意見をもとに改良を試みる。
C本研究を実施した以降の平成22年にクリニカルパス学会においても標準アウトカムの取りまとめがなされていることが明らかとなったので、そのクリニカルパス学会の標準アウトカム3)についても入手し、本研究結果の標準アウトカムと比較検討する。
【結果・考察】
研究の初年度にあたる平成21年度は、まず公開されている種々のパスを収集し、アウトカム項目の抽出をするため、財団法人医療情報システム開発センターのWebサイトにて公開されているパスについて、30施設から医療者用パス301種類、患者用パス267種類を集めた。そして医療者用パスではアウトカムに関する項目は4989件(重複あり)、患者用パスでは1921件(重複あり)が抽出された。さらにこれらをDPCのMDC分類に従って分けた。現在さらに先行研究の分類に従い、アウトカム用語をわけて各シートに保存する作業を実施した(図1)。
このように多数のアウトカム項目があり、それらをまとめるのは容易ではないが、大変ゆえに次年度以降に目指す標準的なアウトカムマスターは意義のあるものと考えられる。
図1 アウトカムのカテゴリ
研究の2年目にあたる平成22年度は、2年間に収集した30施設から301種類の医療者用パスからアップデート分も含めて5,000件(重複を含む)のアウトカムが抽出された。標準化作業において、1文に複数概念を含む場合は、1文1概念に整理した。また複数の表現で同じ概念である場合は、簡単な1つの表現にまとめた。さらに疾患や処置に特異的である必要がない表現は一般化した。そして重複を除き、整理された代表アウトカムとしては、「中間アウトカム」452種類、「最終アウトカム」104種類となった。さらにいずれも「合併症」に関するアウトカムが多くなったが、相互の違いとしては、中間アウトカムでは「患者理解」に関する事項が多く、一方、最終アウトカムでは「合併症」に関する事項が多いことが判明した(図2)(p=0.0019)。
図2 中間アウトカムと最終アウトカムの比較
研究の3年目にあたる平成23年度は、これまで収集した30施設から301種類の医療者用パスに、平成23年末迄にMEDISのパスライブラリーに追加された8施設から43種類のパスを追加してアップデートを実施した。また患者用パスも同様に308種類のパスについてアウトカムを精査した。その結果多くの患者用パスのアウトカムは医療者用パスのアウトカムに網羅されていることが判明した。そして第三者の意見を基にアップデートやカテゴリの見直しも実施した。さらにパス学会からも標準アウトカム用語集であるBasic Outcome Master (BOM)が発表されたことから、そのBOMと本研究の「パス用標準アウトカム」との比較を実施した(図3)。その結果、多施設から得た本研究の「パス用標準アウトカム」でもBOMの約半数しか網羅されておらず、むしろ領域を設定して極力少ない項目から増やしていくBOMの手法はプロセスとして利点があると考えられた。しかしBOMも項目の使い分けで判断に困る点もあり、また追加が必要な項目もあると思われ、本成果も反映させることでより良いものになると考察された。
図3 BOMの内訳と、本研究成果の「パス用標準アウトカム」と対応できた分の構成
【結論】
パスのアウトカムの標準的なマスターを作成するために多施設からのパスを収集して整理した。カテゴリとしては、大きく「中間アウトカム」「最終アウトカム」に分け、さらにそれぞれ「合併症」、「身体機能」、「自覚症状」、「患者理解」、「その他」に分けた。また標準化の作業において代表アウトカムを設定し、類似のアウトカムは、代表アウトカムの下位概念に整理した。いずれも「合併症」に関するアウトカムが多くなったが、相互の違いとしては、中間アウトカムでは「患者理解」に関する事項が多く、一方、最終アウトカムでは「合併症」に関する事項が多いことが判明した。
さらに本研究成果の「パス用標準アウトカム」とパス学会のBOMと比較し、どのような違いがあるか比較検討を行った。その結果、多施設から得た「パス用標準アウトカム」でもBOMの約半数しか網羅されておらず、BOMの手法がプロセスとしては利点があるが、使い分けで困る点もあり、また追加が必要な項目もあると考えられ、本研究成果を反映することも重要であろう。
【引用文献】
1) 日本医療マネジメント学会(等): パスライブラリー (http://epath.medis.jp/). MEDIS-DC
2) 武藤正樹. 医療制度改革とクリニカルパス. 外科治療 90: 815-23, 2004
3) クリニカルパス学会. Basic Outcome Master(BOM) http://www.jscp.gr.jp/publication/index.html#bom
【研究成果の発表】
1) 小出大介、池田俊也、武藤正樹:
クリティカルパスのアウトカム用語の標準化. 医療情報学30(Suppl.):
933-936. 2010.
2) 小出大介: クリニカルパスにおける標準アウトカムの比較 -アプローチの違いから-.平成23年度大学病院情報マネジメント部門連絡会議 抄録集. p319-22. 2012.
成果としての標準アウトカムのダウンロード
研究者へのフィードバック: