Updated Apr.30. 2019

小出大介の研究サイト

テーマ「大規模医療データベースを用いた2型糖尿病における急性膵炎の合併リスクの評価」

文部科学省 科学研究費補助金 研究基盤(C

期間:平成27~

【はじめに】

糖尿病患者数は年々増加しており、我が国では糖尿病患者は890万人,糖尿病予備軍1,320万人で合計2,210万人と推定され、そのうち9095%は2型糖尿病といわれている。そこで従来の糖尿病治療薬に加えて、近年インクレチン関連薬やSGLT2阻害薬等が開発され上市されてきた。中でもDPP4阻害剤は低血糖の心配が少なく、経口で使いやすいことから国内でも使用が急激に増えているが(Kohro T,et al.Int Heart J.54(2):93-7,2013)、急性膵炎のリスクを高める懸念が広がり、厚生労働省からの指示により添付文書が改訂されている (http://www.info.pmda.go.jp/kaiteip/20110111B/06.pdf)。ただし2型糖尿病であること自体、急性膵炎のリスクを約2.8倍上昇させる恐れがあるという海外の報告(Noel RA, et al. Diabetes Care. 32:834-8, 2009)もあることから、薬剤の影響による急性膵炎を評価する前に、背景情報として2型糖尿病自体がどれだけ急性膵炎のリスクを上昇させる可能性があるのか日本人の2型糖尿病患者で把握しておくことが重要である。しかし日本人の2型糖尿病患者を対象とした急性膵炎発症のリスクについては約1.9倍上昇させるとの報告(Urushihara H, et al. PLOS ONE. 7:e53224, 2012)があるが、二次救急医療を担う比較的大規模の病院を対象としたケース・コントロール研究であり、一般化には限界がある。

 一方、診療報酬請求の為のレセプトを全国から集めている厚生労働省保険局はこのナショナル・レセプトデータベース(NDB)について平成23年度から研究利用について試行提供を始め、平成25年度から正式運用となっている。そこでこのNDBを用いて日本人の2型糖尿病における急性膵炎発症のリスクを評価することを目的としている。

 申請者は、医療情報データベースを用いた薬剤疫学的研究を実施するスペシャリストであり、日本薬剤疫学会では副理事長を務めて、この分野を牽引している。また厚生労働省保険局が設置したNDBの第三者提供に関するワーキンググループのメンバーにもなっており、NDBを用いる利点と問題についても理解している。特にレセプトの研究利用については、診療報酬を得ることを目的に作成されており、その2次利用であることから保険病名等と言われるように、その信頼性が問題となる。従って病名の「疑い」フラグの有無でわけて感度分析することを計画している。さらに厚生労働省および独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)による医療情報データベースを用いた医薬品等の安全対策向上のための「医療情報データベース基盤整備事業(MID-NET)」の10医療機関の1つに申請者の機関が選定され、申請者が代表となって昨年度はデータのバリデーション事業を請け負っており、そのバリデーションのアウトカムのテーマの1つが急性膵炎であった。また糖尿病治療薬であるDPP4阻害薬の評価に関する論文(小出大介,. Progress in Medicine. 30: 2645-51, 2010. )も発表している。そこでこのような糖尿病に関する知識とNDBといった大規模データベースを解析するノウハウをもとに本研究テーマである「大規模医療データベースを用いた2型糖尿病における急性膵炎の合併リスクの評価」に取り組む必要があると考えた。

 

【目的】

糖尿病患者数は年々増加し、様々な糖尿病治療薬が近年次々と登場してきており、その中でもDPP4阻害薬などはその使用割合が急激に増えているが、急性膵炎のリスクについて懸念があり添付文書も改訂されている。ただし日本人の2型糖尿病患者における背景情報として、そもそも急性膵炎になるリスクについて十分な情報がない。そこで本研究の目的は、厚生労働省保険局が管理する全国規模のレセプトデータベースを用いて、2型糖尿病患者における急性膵炎のリスクについて評価することである。

 

【方法】

 研究計画について倫理審査の承認を得て、解析のためのデータは厚生労働省保険局に申請して抽出データを承認のもと受け取る。抽出データは平成22年4月〜平成27年3月までの5年間で、2型糖尿病患者についてはICD-10E11-14を有するものとし、それら糖尿病患者以外から性別と年齢(±5歳可)をマッチングしてコントロールを得る。なお急性膵炎についてはICD-10K85とし、画像検査等も考慮する。解析としては、ケース・コントロール研究のデザインであり、胆石や肝炎など可能な限りの交絡因子で調整して、リスクはオッズ比にて算出して結果をまとめる。まとめた結果は学会や研究者の所属するホームページにて公開する。

 

平成27年度

(1) NDBのデータ抽出を厚生労働省保険局に依頼するための申請書を作成する。この書類には単に研究内容を説明する文書のみならず、厳格なセキュリティ対策に関する書類も必要となり、準備に約半年かかると考えている。

(2)厚生労働省保険局に提出する申請書をもとに、所属機関の倫理審査委員会へ審査依頼書を提出する。なお収集するデータは平成22年4月〜平成27年3月までの5年間で、2型糖尿病患者については先行研究(Urushihara H, et al. PLOS ONE. 7:e53224, 2012)と同様にICD-10E11-14を有するものとし、それら糖尿病患者以外(ICD-10E10コードの1型糖尿病も除く)から性別と年齢(±5歳可)をマッチングしてコントロールを得る。なお急性膵炎についてはICD-10K85とし、画像検査等も考慮する。

(3)倫理審査委員会からの承認を得る。

(4)厚生労働省保険局へNDBデータ抽出依頼書を提出する。厚生労働省保険局が有識者会議からの承認を得て実際のデータ提供を行うまでに半年から1年を要すると考えられるため、それ以降の作業は平成28年以降となる。

 

平成28年度

(5) 学内の倫理委員会に申請をして承認を得る。

(6) 厚生労働省保険局から承認を得る。

 

平成29年度

(7)厚生労働省保険局かNDB抽出データを受け取る。

(8)NDB抽出データをもとにデータの解析を行う。解析としては、ケース・コントロール研究のデザインであり、胆石や肝炎など可能な限りの交絡因子で調整してリスクはオッズ比にて算出する。

(9)データの解析から結果のまとめまでに1年を予定している。

(10)結果について学会誌へ発表し、さらにアクセプトの後は申請者のホームページにも公開する。

 

平成30年度

 (11)平成29年度に施行された改正個人情報保護法や倫理指針の改訂への対応に時間を要したことから1年間研究を延期するが承認された。

 

平成31年度

(12)

 

 

【結果】

初年度としては、ナショナルレセプトデータベース(NDB)を利用するためには強固なセキュリティ確保が求められることから、その体制とマニュアル作成、そして研究のための詳細なプロトコルを作成した。体制としては、入退室管理簿を整備し、マニュアルとしては「個人情報保護方針」、「情報セキュリティ基本方針」、「情報システム運用管理規定」、「情報システム文書管理規定」、「リスク分析規定」、「システム障害対応規定」、「システム障害時対応マニュアル」、「監査規定」、「情報システム運用体制図」、「リスク対応表」など40種類と膨大な数となり時間を要した。またNDBについてはかつて年2回程度の利用申請しか受け付けていなかったが、現在は常時受け付けていることから、その点では急ぐ必要はなくなった。プロトコルについては、ICD-10E11-14を有するものとし、それら糖尿病患者以外(ICD-10E10コードの1型糖尿病も除く)から性別と年齢(±5歳可)をマッチングしてコントロールを得る。なお急性膵炎についてはICD-10K85とし、画像検査等も考慮する比較的シンプルなものとした。

2年目の平成28年度は、NDBへ実際に利用申請を出して、承認を得ることができた。しかし所属機関である大学に7月に出した研究倫理申請について承認まで時間を要し、結局平成293月末に承認を得ることになった。平成29年度はその承認書をNDBを管理する厚生労働省へ提出することでようやくデータを得て解析を進める。

ところが平成29年度に改正個人情報保護法や倫理指針の改訂があったことから、その対応に時間を要することとなり、研究を1年延期することとなった。

そして平成30年度においては解析用にユーザーフレンドリーなSpotfireを導入するなど準備を進め、データ入手後にはすぐに解析に移れる態勢を構築した。またレセプトなどのデータをもとに疾患などのバリデーションについては薬剤疫学会のタスクフォースに加わり活動を進め報告書を発行した。

 

【発表】

1)小出大介: リサーチクエスチョンと安全性監視計画.レギュラトリーサイエンス エキスパート研修会(東京都渋谷区). 2015910.

2)山崎力、小出大介:臨床研究いろはにほ.ライフサイエンス出版(東京) .2015.

3) 小出大介、石川 ベンジャミン光一、 宮田裕章、 岡田美保子: 医療ビッグデータを読む. 医療情報学. 36(Suppl.): 26-28. 2016.

4) 小出大介: レセプト情報・特定健診等情報データベース:National DatabaseNDB)について. 横浜パシフィコ(神奈川県横浜市). 20161122~1124.

5) 小出大介, 木村通男, 浅井 , 竹内正人, 川上浩司, 松下泰之: 医療データベース研究の活性化に向けて. 医療情報学. 37(Suppl.): 117-119.2017.

6) 小出大介: 医療情報データを用いた医薬品副作用対策. 日本臨床疫学会 第1回年次学術大会. 東京大学医学部小講堂. (東京都文京区). 2017101.

7) 小出大介: 薬剤疫学 過去・現在・未来 From Big Data to Knowledge. 23回日本薬剤疫学会学術総会. 東京大学伊藤国際記念ホール(東京都文京区). 20171118~1119.

8) 小出大介: MID-NETによる医薬品等の安全対策の向上. 幕張メッセ. (千葉県千葉市). 20171126.

9) 平松達雄, 小出大介, 宇山佳明, 中島直樹. 日本でのEHR-Phenotypingとアウトカム指標のバリデーション.医療情報学 38(Suppl.): 254-257, 2018.

10) 小出大介. 「日本における傷病名を中心とするレセプト情報から得られる指標のバリデーションに関するタスクフォース」による報告書について. 38回医療情報学連合大会. (福岡県福岡市). 20181123.