小出大介の研究サイト
テーマ「国際的医療情報標準を新薬申請様式に適用する研究」
文部科学省 科学研究費補助金 研究基盤(C)
期間:平成24年~26年度
【はじめに】
日米EU薬事規制ハーモナイゼーション会議であるICH
(International Conference on Harmonisation of Technical Requirements for
Registration of Pharmaceuticals for Human Use)によって、新薬申請に必要な共通技術文書のCTD
(Common Technical Document)の電子版であるe-CTDは、平成15年(2003年)にICH標準として承認され、日本でも平成17年(2005年)に導入されている。しかし標準制定から5年以上が経過し、現在その見直しとして次期e-CTDであるRPS(Regulated
Products Submission)がICHのみならず、国際的な医療情報分野の標準化団体であるHL7(Health
Level Seven)およびCDISC(Clinical Data Interchange
Standard Consortium)が協力するJIC(Joint Initiative Council)として検討が進められている。このHL7やCDISCの標準は米国の薬事規制当局であるFDA(Food
and Drug administration)を中心に導入がなされている。日本でも文部科学省と厚生労働省が共同で平成19年(2007年)に発表した「新たな治験活性化5ヵ年計画」に、「DISCに準拠した標準仕様によるEDCとHL7に準拠した標準仕様による電子カルテのデータ交換がおこなわれるようなシステムの標準化等」として取り上げられている。HL7は医療機関には普及しつつあるものの、製薬企業等の産業界における普及はまだ十分ではない。CDISCについては、J3C
(Japan CDISC Coordinating Committee)やCJUG (CDISC
Japan User Group)などの団体はあるものの、その活動は日本国内ではあまり知られていない。
そこで本研究ではHL7およびCDISCの標準モデルを、新薬申請の標準様式の次期e-CTDとして現在開発が進みつつあるRPSに適用した際の社会的影響について、現状のe-CTDに盛り込まれている技術的機能要件との対比にて検討し、開発者側であるHL7及びCDISC側へフィードバックすることにより、よりよい標準とすることを目的としている。
申請者は、これまでも上記のICH、HL7やCDISCの会議に参加して医薬品規制情報の電子的標準化に貢献してきた。その中で、日本の製薬企業等の国際的な電子的標準化への対応の遅れに大きな危惧を抱くようになった。情報技術の分野は日進月歩であり、また医薬品の臨床開発は、外資系企業のシェアの拡大や、国際共同治験の広まりといった国際化の波も著しい。医薬品規制情報の電子的標準化の作業を進めるためには、これから日本で新たに標準を開発して国際的に打ち出していくことは極めて困難である。むしろ既に開発が進みつつある国際標準に対して日本として求められる要件を検討して反映していく方が現実的であると考えた。そこで国内でも導入されている現状のe-CTDと次期e-CTDとして開発が進んでいるRPSの技術的機能要件の相違に着目して整理し、よりよい標準とするために寄与することが海外にとってもまた日本にとっても重要であり、この分野の学術的発展にも繋がると考えた。
【目的】
現行の新薬申請様式であるe-CTDは日米EUで既に導入されている。しかし近年、より広い医療情報の標準化団体であるHL7及びCDISCの標準モデルの適用により、次期e-CTDとしてRPSが開発されつつある。本研究ではこのHL7及びCDISC標準をRPSに適用する際に、日本において現状のe-CTDに盛り込まれている技術的機能要件とRPSの対比にて検討し、改善点などを開発者側へフィードバックしてよりよい標準とすることを目的としている。
【方法】
新たな新薬申請標準様式(RPS)に関する資料は、HL7及びCDISCから入手し、現行の新薬申請標準(e-CTD)との比較検討は申請者側で行う。さらに申請者が国内の関係者へのヒアリングを行い、新たな技術的要件についても整理し、結果に加えて纏める。
申請者が纏めた結果をHL7及びCDISCの国際的標準化作業の場へ還元し、改訂版のRPSのドラフトに反映させるようにする。HL7及びCDISCからRPSのドラフトが発表されたら、申請者の提示した要件等がどの程度反映されているか再度検討し、必要な要件などは再度分析してHL7及びCDISC側へ還元して最終的なRPS標準へ反映させるようにするとともに、本ホームページや学会において発表する。
平成24年度
資料の収集
(1)HL7及びCDISC(Kush
RD, et al. NEJM. 358:1738-40, 2008.)から新たな新薬申請標準様式(RPS)に関する標準化に関する資料をそれぞれのホームページ、メーリングリストから収集する。さらにHL7、CDISCの会合にも参加し、電子的に得られない資料や情報についても関係者から得る。
(2)1年間の得られた資料から現行の新薬申請標準であるe-CTDとの比較を行う
平成25年度
(3)平成24年度の(1)資料収集と(2)e-CTDとの比較を継続しつつ、国内の関係者と新たな技術的要件等のヒアリングを実施する。
(4)それまでの情報収集とRPS及びe-CTDとの比較に加え、(3)のヒアリングで得られた技術的要件も加えて取り纏めを行う。
平成26年度
(5)とりまとめた結果についてHL7及びCDISCの場に還元する。HL7及びCDISCから改訂版RPSのドラフトが発表されたら、上記(1)〜(5)までの作業を繰り返し、最終的なRPS標準へ反映させるようにするとともに、本ホームページや学会において発表し、広く社会一般へ成果を還元する。
【結果】
初年度である平成24年度は、RPSのリリース2がまず、ICHで6月に標準仕様案としてStep2 for testing Implementation Guide (IG)がまとまり、10月から翌年3月1日まで意見募集が国内で実施された。またHL7にてDraft Standard for Trial Use
(DSTU)として11月8日に発表され、平成26年11月9日までがコメント収集期間となっており、意見を反映できるよう準備を進めている。なおHL7においてライセンス・スタンダード費用について無償との発表がなされ、今後世界での導入に向けて大きな障壁がなくなった意義は大きいと考えられる。
さらに平成25年度では、9月にRPSのリリース3のドラフトが完成してHL7にて標準化に向けた投票が実施されたが、多くのコメントが寄せられることとなり、対応に時間がかかっている。現状ではまだツールも提供されておらず、その点は次年度に持ち越されることになった。
【発表】
1)小出大介、木村通男: 治験、臨床研究、製造販売後調査・試験のIT化のこれから. 医療情報学32(Suppl.): 112-3. 2012.
2)小出大介:ナショナルデータベースとSS-MIXの現状. 応用統計学会 (福島市). 2013年5月24-25日