こだまの(新)世界 / 文学のお話

E. R. バロウズ『火星のプリンセス』


原題は Edgar Rice Burroughs, A Princess of Mars, (1917) である。バロウズの火星シリーズ(創元社推理文庫では11巻あるようだ)の第一 巻。

内容

(本の最初の方にある要約をそのまま引き写す)

南軍の騎兵大尉ジョン・カーターは、ある夜、アリゾナの洞窟から忽然と して火星に飛来した。時まさに火星は乱世戦国。地球とはけたはずれに発達し た科学力を背景に、四本腕の獰猛な緑色人、地球人そっくりの美しい赤色人な どが、それぞれ皇帝をいただいて戦争に明け暮れている。その渦中に飛びこん だ快男子ジョン・カーターは縦横無尽の大活躍のはて、絶世の美女、火星のプ リンセスと結ばれるが、そのとき二つの月をいただく火星は、いまや絶滅の危 機に瀕していた。

感想

・くだらん。くだらん。くだらんっ。

・これがSFかっ?ちゃうっ。ちゃうっ。

・巻末の解説(厚木淳)にこうある。「宇宙活劇(スペースオペラ)の本質が 西部活劇(ホースオペラ)と同じく、ピカレスク・アドベンチュア・ロマンス (悪漢退治の冒険ロマンス)にあることはいうをまたない。したがって可憐な美 女と悪玉と、男の中の男ともいうべき主人公(ヒーロー)という三者の図式は18 世紀以来、不変のものである。」(pp. 293-294)

・これがスペースオペラの本質だとすると、この要素だけではスペースオ ペラはSFとは呼べないのではないだろうか。といって、「何がSFの本質なんだ」 と聞かれると困るのだが。

・とにかく、まったく知的興奮しないっ。知的興奮しないSFはSFではないっ。

・まあ、そもそもこの作品が書かれた時(1911-17)にはまだガーンズバック によるSFの定義が生まれていなかったわけだから、こういう非難は当たらない のかも知れない。しかし、もう少し知的興奮するスペースオペラから読みたかっ た。

・しかしっ、主人公のジョン・カーターは(英雄的であるということ以外) 何の特徴もないっ。つまらんっ。知的興奮せんっ。

(ところで、翻訳(小西宏)は素晴らしかったことは記すに値する--今まで読 んだSFはどこかしら不満な点があった。ただし、そこがまた面白くもあるのだ が)


メモ

バロウズは1875年に生まれ、二つの大戦に参加し、1950年に死亡。1912年 に火星シリーズの連載が『オール・ストーリー・マガジン』で始まり、SF界に デヴュー。また、有名な「ターザン・シリーズ」(われわれにはこちらの方が 知られている)や、「金星シリーズ」、「地底世界シリーズ」なども書き、一 躍国民的作家になる。

解説に「バロウズ・ビブリオファイル」というファンクラブがあると書い てあったので、ホームページがあるかどうかを調べたら、やっぱり あった 。今だに季刊で雑誌を発行しているというのだから恐れ入る。

(追記。日本にはこういう サイトもあった)

11/24/97-11/28/97

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Satoshi Kodama
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Last modified on 11/29/97
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