倫理学風研究 / 学振の応募書類(改訂版)

平成11年度の学振の応募書類


学振っていうのは「日本学術振興会」のことで、 今回おれが申し込むのは「特別研究員」ってやつ。

1. 趣旨

優れた若手研究者に、その研究生活の初期において、 自由な発想のもとに主体的に研究課題、 研究の場等を選びながら研究に専念する機会を与えることは、 我が国の学術研究の将来を担う創造性に富んだ研究者を育成する上で 極めて重要なことである。

このため、日本学術振興会は、大学院博士課程在学者及び大学院博士課程修了者等で、 優れた研究能力を有し、大学その他の研究機関で研究に専念することを希望する者を 「特別研究員」に採用し、研究奨励金を支給する。

この「研究奨励金」っていうのは、要するに返還不要の奨学金なわけで、 博士課程の特別研究員は毎月20,2000円の奨励金(平成10年度の額)と、 さらにうまくいくと科研費(文部省科学研究費補助金)っていうのを、 毎年150万円以内でもらえるらしい。

…親分、毎月20万ですぜ。一年で240万ですぜ。十年で2400万ですぜ。 百年で2億4000万ですぜ。いや、三年しかもらえないけどさ。

これはもう赤貧洗うがごとしなおれとしては、 喉からはらわたが出ちゃうほど欲しいに決まってるわけで、 もう絶対なんとかして手に入れなくちゃあいけない。

しかしそのためには書類に立派な研究計画を書かなくちゃいけないので、 これからそれを真剣に書くつもり。 何か意見や助言があったらどんどん教えてください。


それで、これから次の各項目を全部書かないといけないんだよね。

  1. 現在までの研究とその成果(700字)
  2. 研究計画(2000字)
    1. 研究目的
    2. 研究内容
    3. 年次計画
      • (1年目)
      • (2年目)
      • (3年目)
    4. 研究の特色・独創的な点
  3. 研究業績
    1. 学術雑誌等(紀要等は除く)に発表した論文
    2. 学会において申請者本人が口頭発表した論文
    3. その他参考となる事項

3.の研究業績は幸いほとんどないわけだから楽勝なんだけど、 問題は2.の研究計画や、最後の研究論文の要旨だよな。 ひえ〜、こんなの書けないよう。

と弱音を吐いてても仕方ないのでどんどんでっちあげて… いやいや、真剣に明るい研究計画を考えていこう。


1. 現在までの研究とその成果

(700字程度で記入すること)

う〜ん。おれは今まで何してたんだろう。 卒論でベンタムだろ、修士に入ってからはシジウィックの翻訳、 死刑廃止論、倫理学入門書読書会、ロック読書会、 夏の合宿では環境倫理もやったなあ。 あと企業倫理、情報倫理も少々…。

よし、基本線は、

  1. ベンタムの古典的功利主義とその周辺の研究
  2. 現代の規範倫理学の概観
  3. 死刑廃止論その他の応用倫理学の研究
だな。死刑廃止論は一応千葉大資料集にも書いたし。 じゃ、某先輩の申請書を参考にしながら、 これに肉付けしていこう。

現在まで、(1)J・ベンタムを中心としたイギリス古典功利主義の研究、 (2)現代の主要な規範倫理学説の概観、 そして(3)死刑廃止論、企業倫理、などを含む応用倫理学の研究を行なってきた。

  1. まず、 卒業論文ではJ・ベンタムの功利主義と、 法と道徳の分離の問題を扱い、 彼の議論を詳細に検討することによって、 今後倫理学および法哲学における諸理論を批判的に研究していく上での、 基本的な立場を身に付けることができた。
    また、修士課程に進んでからは、 ベンタムの研究を続ける一方で、 彼に多大な影響を与えた思想家の一人であるJ・ロックや、 彼以降の主要な功利主義思想家であるJ・S・ミルやH・シジウィックなど、 イギリスにおける功利主義の伝統を理解するための研究も開始した。
  2. 次に、研究室内で共同研究会を主催して、英米圏の論文を読み進め、 現代の主要な規範倫理学説を概観した。 これを通じて、 規範倫理学における功利主義の相対的な位置や主な批判点を学び知ると同時に、 「何が正しいのか」という規範倫理学の問いから、 「正しいとは何なのか」というメタ倫理学の問いに進んで研究する必要性を 感じるに至った。
  3. さらに、上記のような理論的な性格の強い研究を行なう一方で、 死刑廃止論や企業倫理、情報倫理や環境倫理など、 いわゆる応用倫理学と呼ばれるような分野の研究にも かなりの時間を費してきた。 このことによって、 現代におけるさまざまな倫理的課題を知ると同時に、 応用倫理学における議論を批判的に検討するために、 規範倫理学、メタ倫理学により一層習熟することの重要性を再確認した。

う〜ん、こんなんでどうでっしゃろ? その気になれば、結構あることないこと色々書けるもんだなあ:-) 大体690字で、とりあえず文字数は問題なし。


2. 研究計画

(どのような研究方法で、何を、どこまで明らかにしようとするのかを、 具体的に全体を2,000字程度で記入すること)

さあ、こっからが大変だ。 一応、研究課題(名)を仮に 「功利主義の理論的検討、および現代における倫理的問題への応用」 として先に進もう。時間がない。時間がない。

(1) 研究目的

(研究の背景及び国内外の研究状況等を含む)

本研究には大きく分けて二つの目的がある。

まず、 60年代以降、ロンドン・ユニヴァーシティ・カレッジにおいて、 J・ベンタムの新たな全集が編集されており、 それに伴なって英米圏におけるベンタム研究は盛んとなっている。 日本においても経済学、法学の分野で研究が進められているが、 哲学、倫理学の分野においてはまだそれほどの注目を集めているとは 言えない状況である。

そこで、英米圏での新たな研究を踏まえつつ、 J・ベンタムを中心とした功利主義の理論的検討 --特に、メタ倫理学的観点からの検討--を行なうことが本研究の第一の目的である。

一方、企業倫理、環境倫理、情報倫理、死刑廃止論など、 いわゆる応用倫理学の領域においては、 現在、活発に議論のやりとりがなされているが、 論者たちはややもするとこれまでの規範倫理学、 メタ倫理学における研究の成果を十分に利用することなく、 錯綜した議論を続けてきたように思われる。

そこでわたしは、 応用倫理学(特に情報倫理)における議論の明確化を目指すと同時に、 功利主義の立場を採って現代のさまざまな倫理的問題を考察した場合に、 どのような提案をすることができるのかを検討する。 これが本研究の第二の目的である。

う〜ん、なんか大上段だなあ。 こんなんでいいのか?あんまり内容がないぞ。(約530字)

(2) 研究内容

うわあ、これもまた大変だ。また分割して考えよう。基本的には、

  1. メタ倫理学の研究
  2. ベンタム功利主義の研究
  3. 情報倫理の研究
かなあ。3.は死刑廃止論も書きたいけど、 死刑廃止論で論文とか書くかどうかわからないしなあ。 しかし情報倫理についてこれから説明を書くのは大変だぞ。 あ、前に使った資料を見て書こう。 それから水谷先生に助けてもらおう。

一方で(1)メタ倫理学の研究を行ない、 それによって得られた知見に基づいて、 (2)功利主義理論を分析的に検討し、 また他方で(3)功利主義的立場からの情報倫理の研究を行なう。

(1)メタ倫理学の研究

「正しいとは何なのか」「善いとは何なのか」「義務とは何なのか」 などの問いに対してより深い知見を得るために、G・E・ムーア、 A・J・エイヤー、C・L・スティーブンソン、 R・M・ヘアなどの古典的な著作をはじめとして、 英米圏の最近の研究の動向まで詳しく検討する。

(2)功利主義理論の分析的検討

(1)の研究に基づいて、J・ベンタムの功利主義理論の分析的な検討を行なう。 ベンタムは彼の功利主義を、自然法論や道徳的直観主義に代わるものとして提示した。 そこでそれらの理論や、 J・S・ミルやR・M・ヘアなど他の功利主義思想家の理論と対比しつつ、 メタ倫理学の研究から得られた知見に基づいて、 ベンタムの功利主義における正や善の概念、義務の概念などを明らかにする。 また、ベンタムの功利主義理論を十分に理解するためには、 彼の法実証主義的思考に含まれる倫理的含意を検討する必要がある。

(3)功利主義的立場からの情報倫理の研究

功利主義の立場を採った場合に、 応用倫理学の分野でどのような提案をすることができるのかという試みを、 応用倫理学の中でも比較的最近に確立した情報倫理において行なう。 ただし情報倫理は、 コンピュータや電子ネットワーク上の倫理的問題を扱うのみならず、 企業倫理における内部告発の問題、 医療倫理におけるインフォームド・コンセントの問題、 報道倫理における検閲やニュースソースの秘匿の問題、 また一般にプライバシーや専門職の守秘義務の問題、知的所有権の問題など、 従来の応用倫理学の各領域にまたがる研究であるため、 それらの領域における既存の研究--特に生命倫理や環境倫理におけるR・M・ヘアや P・シンガーの功利主義的立場からの研究-- を参考にして自らの議論を組み立てて行くつもりである。
なお、この研究は、直接には博士論文には結び付かないが、 功利主義という理論を実践に適用しようとする中で、 理論的な問題が明確化されることは十分に考えられるので、 (2)の研究に役立つことが期待されうる。

そして最終年度に、(1)と(3)の研究を活かした(2)の研究に基づき、 博士論文を作成する。 以上の研究の経緯についてはワールド・ワイド・ウェブ(WWW)上の個人ホームページにて 情報提供を行なう。 また、 新ベンタム全集を編集中であるイギリスのロンドン・ユニヴァーシティ・カレッジ への一定期間の留学を考えている。

うわあ。またまた大風呂敷を広げちゃいました。こんなんで良いんだろうか。 (約1100字)

(3) 年次計画

む。まあ、これはわりと楽勝か。

(1年目)

(2年目)

(3年目)

う〜ん。なんか安易でいいかげんだなあ。 ちょっとこれは再検討の必要あり。 しかも良く考えたら、 ヘア先生のメタ倫理学の立場と功利主義理論の検討もしなきゃいけなさそう。 これもどっかに書かなきゃ(とりあえず(2)の研究内容に書いた)。

(4) 研究の特色・独創的な点

特色?独創性?おれの研究は果して独創的なんだろうか。 もうすでに2000年以上も前にギリシア人が同じことを研究してたなんてことは ないだろうか?うう。しかしまあ、とにもかくにも何か書かなきゃ。もう疲れたし。

ヘア先生なんかを考えるときっと新しくないんだろうけど、 この計画の特色は、

とかかな。売り込みをするんだからがんばって特色を強調しないと。 (特許の出願みたいなものだな)

現代の倫理学は、規範倫理学、メタ倫理学、 応用倫理学という三つの研究領域に大きく分割することができるが、 本研究の最大の特色は、 それがそれらすべての領域にまたがる総合的な研究であることだと言える。

従来、特に日本では、規範倫理学とメタ倫理学とは別々に研究される傾向にあり、 また応用倫理学においても、 規範倫理学やメタ倫理学における研究の成果が十分活用されないままに 議論される傾向があった。 だが、功利主義はイギリスではすでに18世紀末から 実践的な問題に対して多くの発言をなしており、 また、 20世紀初頭から始まったメタ倫理学も、 倫理学全般に対して無視することのできない重要な知見をもたらし 続けているのである。

そこで本研究でわたしは、 一方でメタ倫理学の知見を活かして、 功利主義とその他の倫理学説の構造的な差異の解明を行ない、 他方で功利主義理論を応用倫理学における実践的問題に適用することにより、 錯綜しがちな議論に一定の筋道を与えると同時に、 適用において明らかにされる功利主義の問題点を検討することによって、 さらに洗練された理論を生み出すよう試みる。

このような総合的な研究を進めることによって、 規範倫理学、メタ倫理学、 応用倫理学のそれぞれの領域において、 各々の研究のみでは得られなかったような視野を得ることができるようになり、 それぞれの領域における議論にさらなる深化がもたらされることになると思われる。

う〜ん、「総合的」がキーワードですな。 こうなったら、「人間環境」とか「情報」とか 「コミュニケーション」とかいう言葉も使うべきか? (約600字)


3. 研究業績

(1) 学術雑誌等(紀要等は除く)に発表した論文 (掲載を決定されたものを含む。)

(2) 学会において申請者本人が口頭発表した論文

(3) その他参考となる事項


最も主要な研究論文の要旨

(論文題名を初めに記載すること)

(「DC1」の申請者は、修士論文(作成中のものを含む。) の要旨であっても差し支えない。 ただし、その場合は、「論文題名」の前に「修士論文の要旨]と書き添えること)

(2,000字程度で記入すること)


何か一言

your name:

subject:

body:

/


KODAMA Satoshi <kodama@ethics.bun.kyoto-u.ac.jp>
Last modified: Sat May 16 04:51:45 JST 1998