ジョン・オースティン(1790-1859)、『法学の領域の確定』(1832)
講義の抄録
第一講義
- 法学の領域を確定する以下の試みの目的の、言明ないし示唆。
- 法学の領域を確定する以下の試みの方法。
- 法: 何か、最も包括的な文字通りの意味において。
- 神の法。
- 人間の法。
- 二つの集合: 一つ目 政治的上位者によって定められた法;
二つ目、政治的上位者でない人々によって定められた法。
- 不適切にも、しかし近しい類推によって、法律と呼ばれる対象。
- 最後の二つは実定道徳という名の下に一つの集合の内に置かれる。
- 比喩的に法律と呼ばれる対象。
- 法律ないし規則、適切にそう呼ばれるものは、
命令の一種である。
- 命令という語の意味。
- 義務という語の意味。
- 命令と義務という語は相関語句である。
- サンクションという語の意味。
- 命令、義務、サンクションの存在には、
服従するための激しい動機は必要でない。
(→ペイリー批判)
- 報賞はサンクションではない。
(→ベンタム、ロック批判)
- 命令という語の意味、
簡略に再度言明される。
- 三つの語、命令、義務、
サンクションの不可分の結び付き。
- その結び付き方。
- 法律ないし規則は、
随時のまたは特定の命令とは
区別される。
- 法律ないし規則、適切にそう呼ばれるものの定義。
- 上位superiorと下位inferior
という相関語句の意味。
- 命令ではない法律(と不適切にそう呼ばれるもの)。
- 法律(と適切にそう呼ばれるもの)は命令的には
思われないかもしれない。
- 命令ではない法律の列挙...p. 18
第二講義
- 第一講義と第二講義の関係。
- 神意法、ないし神の法。
- 神意法に関しては、一部は啓示されており、
一部は啓示されていない。
- 神意法の啓示されている部分。
- 神意法の啓示されていない部分。
- 神意法の啓示されていない部分に対する指標は何か。
- そのような指標の性質に関する仮説
ないし学説。
- 道徳感覚ないし生得的実践原理
という仮説ないし学説; 実践理性という仮説ないし学説;
常識という仮説ないし学説、等々。
- 功利性という仮説ないし学説。
功利説の簡単なまとめ。
- そのまとめの以下の説明が簡単に紹介される。
- 人間の行為の真の傾向、
そしてその傾向の真のテスト。
- 功利説によれば、神の命令はほとんどが規則である。
(→規則功利主義)
- 功利説からは、
すべての有用な行為が、
神の命令の対象であることにはならない;
そしてすべての有害な行為が、
神の禁止の対象であることにはならない。
- 功利説に対する最近のまことしやかな反論の紹介、言明。
- 上の反論に対する二つの適切な回答、簡単な紹介。
- 上の反論に対する第一の回答の言明。
- 上の反論に対する第二の回答の簡単な紹介。
- もしわれわれの行為が本当に一般功利性の原理に適応されていたならば、
われわれの行為は、そのほとんどの部分が、
規則に合致するだろう;
神から生じる規則、
そして人間の行為の傾向がその指針ないし指標であるような規則。
- 理論と実践は不可分。
- もしわれわれの行為が本当に一般功利性の原理に適応されていたならば、
われわれの行為は、そのほとんどの部分が、
規則と結びつけられた感情によって
指導されるだろう;
神から生じる規則、
そして人間の行為の傾向がその指針ないし指標であるような規則。
- もしわれわれの行為が本当に一般功利性の原理に適応されていたならば、
われわれの行為は、そのほとんどの部分が、
神の規則に合致し、そしてまた、そのほとんどの部分が、
その規則と結びつけられた感情によって
指導されるであろう。
しかし、(比較的珍しい機会の)異常で例外的な場合においては、
われわれの行為は一般功利性の原理に直接適合させられるか、
特別ないし特定の帰結の推測と
比較によって指導されるだろう。
- 上の反論に対する第二の回答、簡単に繰り返される...p. 38。
第三講義
- 功利原理を導入することに対する弁明。
- 第二講義と第三講義の関係。
- 功利説に対する二つ目の反論の言明。
- この第二の反論に対する回答の紹介。
- 上の回答に対する反論の言明。
- 上の回答に対する上の反論の解決ないし酌量。
- 功利説に対する第二の反論と、その第二の反論に対する上の回答の
簡単な繰り返し...p. 58。
第四講義
- 第三講義と第四講義の関係。
- 功利説に対する第二の反論が再び述べられる。
- 第二の反論に対するさらなる回答。
- 道徳感覚という仮説の簡単な紹介。
- 「道徳感覚」、「常識」、「道徳本能」、「内省ないし良心の原理」、
「実践理性」、「生得の実践原理」、「先天的な実践原理」、等々は、
同一の仮説のためのさまざまな表現法である。
- 問題の仮説は二つの想定を含んでいる。
- 問題の仮説に含まれている二つの想定の一つ目が、一般的な表現で述べられる。
- 一つ目の想定の上の言明が、架空の事例によって例証され説明される。
- 問題の仮説に含まれている二つの想定の一つ目が、
一般的な表現で簡単に再度述べられる。
- 問題の仮説に含まれている二つの想定の二つ目が、簡単に述べられる。
- 神の命令の指標として、
道徳感覚は一般功利性の原理よりも誤りにくい。
- しかし問題の仮説を支持するなんらかの証拠はあるのか?
- 問題の仮説は、われわれの意識の消極的な状態によって反証される。
- 問題の仮説を支持する最近の二つの議論、簡単な言明。
- 問題の仮説を支持する一つ目の議論の検討。
- 問題の仮説を支持する二つ目の議論の検討。
- 問題の仮説を支持する二つ目の議論の基づく事実についての簡単な言明。
- その事実は功利性の仮説ないし学説と正確に適合する。
- 功利性の仮説と道徳感覚の仮説を混合した中間的仮説についての簡単な言明。
- 実定法を自然の法と実定的な法
とに分類すること、および市民法を万民法
と市民の法とに分類することは、
功利性の仮説と道徳感覚の仮説を混合した中間的仮説を前提する、
あるいは伴なっている。
- 神の命令の指標に関する上の探求は、最近の二つの、
しかしひどく誤った考えから功利説を救うための試みでもって幕を閉じる。
- 二つの誤った考えの言明。
- 一つ目の誤った考えの検討。
- 二つ目の誤った考えの検討...p. 77。
第五講義
- 本来的な法、ないし適切に法と呼ばれるもの、
そして非本来的な法、ないし不適切に法と呼ばれるもの
- 日常的な用法における類推と比喩、定義。
- 非本来的な法は二種類ある:
1. 本来的な法に近しく類似する法;
2. 比喩的ないし修辞的な法。
- 本来的な法と、本来的なものに近しく類似する法との分類。
- 本来的な法と、本来的なものに近しく類似する法の、
三つの主要な集合への分配:
1. 神の法、ないし神の諸法;
2. 実定法、ないし実定的な諸法;
3. 実定道徳、実定道徳の規則、ないし実定的な道徳規則。
- 脱線。実定法と実定道徳
という表現の説明。
- 以下の表現の説明、すなわち、法学、
実定道徳学;
倫理学ないし当為学;
- 立法学と道徳学。
- 人間の法に適用される善いまたは悪いという形容詞の意味。
- 神の法に適用される善いという形容詞の意味。
- 自然の法ないし自然法という表現は、
二つの本質的に異なる意味を持つ。
それは神の法か、あるいは実定法と実定道徳の一部を指し示す。
- 本(第五)章と第一、第二、第三、第四、第六章、との関係。
- 法と適切に呼ばれるものの本質的要素、
およびそうした本質的要素が意味するいくつかの帰結。
- 神の法と実定法は法と適切に呼ばれるものである。
- 実定的な道徳規則の一般的な性格。
- 実定的な道徳規則のうち、
いくつかは本来的な法だが、いくつかは非本来的な法である。
- 法と適切に呼ばれる実定的な道徳規則は、命令である。
- 私人としての人々によって法的権利を履行するために定められる法。
- 法と不適切に呼ばれる実定的な道徳規則は、
一般の意見によって定められるあるいは科される法である。
- 一般の意見によって定められるあるいは科される法は、単に、
ある種の行為に関する不確定の人々の集団の
意見ないし感情でしかない。
- 本来的な法と一般の意見によって定められるあるいは科される法との類推
についての簡単な言明。
- 一人あるいは個人的人々の確定した集団と
不確定の集団との区別。
- 一般の意見、
すなわち不確定の集団の意見ないし感情によって
定められた法は、
法という名を得た唯一の意見ないし感情である。
- しかし個人、
あるいは一定の集団の
全成員によって抱かれる、
または感じられる意見ないし感情は、
不確定の集団の意見ないし感情と同じくらい、
本来の法と近しく類似しうる。
- 本来的な法と、非本来的なもののうち、
本来のものに近しく類似している法との上の分類の簡単な再確認。
- これらの法がそれぞれ執行されるための本来的、非本来的な強制力sanction;
これらの法がそれぞれ科す本来的、非本来的な義務;
そして、これらの法がそれぞれ授与する本来的、非本来的な権利。
- 神の法、実定法、そして実定道徳は、ときに一致し、
ときに一致せず、ときに衝突する。
- 功利説によれば神の法の対象とされる行為と不作為;
そして、同じ説によればそれぞれ実定道徳と実定法の対象となるべき
他の行為と不作為。[法と道徳の区別→ベンタムIPML ch. 17]
- 本来的な法と非本来的なもののうち本来的なものに近しく類似している法との
上の分類は、概して、ロックが『人間知性論』においてたまたま提示した
法の分類と一致する。
- 比喩的ないし修辞的な法。
- この集合の法に共通な否定的性質。
- 比喩的ないし修辞的な法に共通な否定的性質、例によって示される。
- 比喩的で修辞的な法はしばしば命令的で本来的な法と混合され、
混同される。
- 物理的ないし自然的強制力。
- 厳密に言えば、宣言的な法、法を廃止する法、
(ローマ法学者の使う意味で)不完全義務の法は、
それぞれ、法、比喩的ないし修辞的な法、
実定道徳の規則に分類されるべきである。
- 広まっている傾向に関する注意書き:
一つ目に、実定法を立法学と混同すること、
そして実定道徳を当為学と混同すること:
ブラックストーン、ペイリー、国際法に関する著作家からの例:
二つ目に、
実定法を実定道徳と混同すること、
そして立法と当為学を混同すること;
ローマ法学者とマンスフィールド卿からの例...p. 106。
第六講義
- 第六講義と、第一、第二、第三、第四、第五講義との関係。
- 主権と独立した政治社会を区別するしるし。
- 主権と服従との関係。
- 厳密に言えば、社会そのものではなく、
社会の主権的部分が独立している、主権を持つ、あるいは至高である。
- ある社会が政治的で独立の社会を形成するためには、
上で言及された二つの区別的なしるしが組み合わされなければならない。
- 独立しているが自然的な社会。
- 独立の政治的社会同士の交際によって形成される社会。
- 政治的であるが従属している社会。
- 政治的ではないが、政治的で独立している社会の一部ないし部分を
形成している社会。
- 独立の政治的社会という抽象的な語の定義
(主権という相関語句の定義を含む)は、
完全に正確な意味を持つ表現にすることができず、
それゆえ特別ないし特定の事例については誤る可能性のあるテストである。
- 独立した社会が政治的社会を形成するためには、
それは人数が不足していてはならない。
その数は正確には定めることはできないが、
相当数、あるいは極端に微小でないと呼ばれうるものである。
- 著名な著作家たちによって与えられてきた
主権という語の定義のいくつかと、
独立した政治的社会という含意される、
あるいは相関する語句の定義のいくつか。
- 本講義のこれ以降の部分は、以下の論題に関わる:
-- 1. 最高政府の形態; 2. 主権の権力の限界;
3. 政府の起源、あるいは政治社会の起源。
- 最高政府の形態。
- すべての最高政府は(適切にそう呼ばれる)君主制か、
(表現の一般的な意味における)貴族制のいずれかである。
換言すると、それは一人の政府か、
数人の政府のいずれかである。
- 複数の貴族制における、
主権を持った集合の人数が社会集団の人数に対して持つ割合の違いに基づく
区別について。
- 複数の貴族制における、
主権を持った人々が主権の権力を分有する仕方の違いに基づく区別について。
- 制限君主制と呼ばれる貴族制について。
- 語句のさまざまな意味:
-- 1. 「主権的sovereign」、
あるいは「主権the sovereign」という語句;
2. 「共和制」、あるいは「国家commonwealth」という語句;
3. 「state」ないし「the state」という語句;
4. 「民族(国家)nation」という語句。
- 君主あるいは主権集団による、
主権者を代表する政治的従属者ないし代理人を通じた
主権的権力の遂行について。
主権とその他の政治的権力を立法といった権力と、
執行ないし行政といった権力へ
分類することについて。
実定的な国際法に関する著述家によって半主権国家
と呼ばれる共同体ないし政府の真の性質。
- 混成国家ないし最高連邦政府の性質:
また、連合国家体制ないし
最高政府の永続的連合の性質。
- 主権的権力の制限。
- 実定法の本質的差異。
- 実定法の本質的差異と、主権と独立的政治社会の性質から、
君主と適切に呼ばれるものの権力、
あるいは主権を持った人々の、その集団的で主権的な立場における権力は、
法的な制限を受けないということが帰結する。
- 主権者が自分自身を義務づける試み、
あるいは後継者を彼らの主権的権力に従わせるよう義務づける試み。
- 違法のという形容詞と区別される
違憲的という形容詞の意味、
およびそれが君主の行為、
あるいは主権を持った人々の、その集団的で主権的な立場における行為に適用
される場合の意味。
- ホッブズの「いかなる法も正義に反することはありえない」という命題の意味。
- 正義に適っているjust
または正義に反しているunjust、
正義、または不正義は、
相対的で変化する意味を持った語句である。
- 各人を考えた場合、主権集団の成員は当集団に従属した状態にあり、
それゆえ、たとえ当集団の成員であっても、
当集団によって創られた法によって法的に拘束されうる。
- 政治的ないし市民的自由の性質、また、
自由な政府と専制的な政府との違いと称されるもの。
- 主権者の権力が法的な制限を受けえないことが、
これまでに疑問に思われてきた理由。
- この命題は反対の党派ないし学派の高名な政治的著作家たちによって明示的に
主張されている。
- 一人の主権政府、
あるいは集団的で主権的な立場における人々の主権政府は、
それ自身の臣民に対する法的権利
(その語句の適切な意味においては)をまったく持たない。
- 「権利は力である」。
- 「能力」を意味する「権利」、および「正義」を意味する「権利」。
- 「能力」を意味する「権利」、および「法」を意味する「権利」。
- 主権政府がそれ自身の裁判所に現われることから、
政府が法的な義務を負っていたり、
それ自身の臣民に法的な義務を負っていたりすることは推論できない。
- 一人の主権政府、
あるいは集団的で主権的な立場における人々の主権政府は、
それ自身の臣民に対する法的権利をまったく持たないが、
他の主権政府の臣民に対しては法的権利を持ちうる。
- 政治的政府および社会の起源あるいは原因。
- 政治的政府および社会の適切な目的ないし目標、
あるいはそれらがそのために存在すべき目的ないし目標。
- 「すべての政府は人民の同意を通じて存在しつづける」
という立場、および「すべての政府は人民の同意を
通じて生じる」という立場が検討され説明される。
- 原始盟約ないし根源的市民契約
という仮説。
- 主権政府の、正当なde jureな政府と
事実上のde factoな政府への区別。
- 上の講義において定義された法学の領域の一般的言明...p. 164。
KODAMA Satoshi <kodama@ethics.bun.kyoto-u.ac.jp>
Last modified: Wed Dec 30 17:35:57 JST 1998