「衆院総選挙の投票に行かなかった人格的腐敗者に告ぐ」

目次

  1. はじめに
  2. 棄権者の言い訳の類型
  3. 以上の言い訳に対する反駁
  4. おわりに
  5. 後記


ご意見のある方は、kodama@socio.kyoto-u.ac.jpまたはメイルを送るまで。


1.はじめに

今日1996年10月20日(日)は、衆院総選挙および最高裁判所裁判官の国民審査の投票日であった。おれはお昼前に目覚め、選挙公報を読んでから昼過ぎに友人と投票に行った。投票に行く前、パンを食べながら毎日新聞の朝刊を読んでいたのだが、31面の“棄権者”街頭アンケートなるものを読んで、怒った髪がパンを突いた。あっ。なな、なんだこいつらはっ、ゆゆゆゆるせんっ。投票に行かないという自分の道徳的腐敗を棚に上げておいて、やれ「政治家は信用できない」だの「一票は無力」だの「棄権は一つの意思表示」だの、のうのうとほざきおって。偉そうにごたくを並べるんじゃないっ。「めんどくさいから行きません」って正直に言えんのかっ。はあっ、はあっ、はあっ。い、いかんつい興奮してしまった。心臓に悪い。

というわけで、「棄権者が決まっていうこれらの言い訳が、いかに彼らの支離滅裂な考え方を表しているか」を今から証明しようと思う。

ところでそういうおれにしても、現在の政治にはあまり興味がないし、みなと同様、不信を抱いてもいる。また確かに、おれの一票の力はたいしたことはないとも思っている。しかし選挙権を放棄することは、今でも悪い日本の民主制をさらに悪化させることになりうるし、また自分の一票の力を否定することは市民の平等を否定することであると思っている。ので、とりあえず投票に行き、どれもこれもうさんくさい立候補者の中から一番まともそうなのを選んで投票することにしている。思うに、投票に行かないのはどのような理由をつけても「さぼり」に他ならない。それよりは不誠実でも投票にいく方がいくらかましな行為である。ええい、はっきり言うぞっ。代議制民主主義は投票に行かない愚か者によって骨抜きにされ、衆愚制におちいるのだっ。おまえらっ。と、とと投票に行けっ。とっ、とっ、うっ、しっ、し、ん、ぞ、う、が…。


2.棄権者の言い訳の類型(七つの大罪)

  1. 「棄権も一つの意思表示」
  2. 「支持する候補がない・政治家はみな信用できない」
  3. 「一票は無力・投票するのはムダ」
  4. 「棄権する方がおもしろ半分で投票するより誠実である」
  5. 「投票は権利であるが、義務ではない」
  6. 「忙しくていけない・めんどくさい」
  7. 「そもそもおれは民主主義者ではない。(アーイアームァ、アンティクライスタッ。アーイアームァ、アナーキスタッ)」


3.以上の言い訳に対する反駁

  1. 「棄権も一つの意思表示」
  2. あのねぇ、あなた、棄権が一つの意思表示だなんて、そんな馬鹿なことありますか。いや、ま、一応そうだとしてもいいですよ。そうですか、あなたは、投票に行かないことによって意思表示が出来ると信じているとおっしゃる。すると、何についての「意思表示」なんですか?あ、そう、政治不信あるいは政治家不信という意思表示だというわけですね。よろしい。そしたら、もっとはっきりと意思表示をするために「白票」を投票しに行きなさいっ。そうしないとあなたは「さぼり」だと間違われますっ。以上っ。

  3. 「支持する候補がない・政治家はみな信用できない」
  4. あなた、ほんっとによく調べてみた?最近の政治不信の風潮に影響されて「政治家というものはみなわれわれをだますために存在している」という先入見に踊らされてるだけじゃない?確かに政治家なんてみんな悪人かもしれないけどさぁ、やつらの悪さにも程度があるんだから、いっしょくたに考えたらだめでしょうが。人を判断する訓練にもなるからさ、こいつは極悪人だとか、こいつは前科一犯だとか、こいつは人間の皮をかぶった悪魔で、その証拠に尻からしっぽが生えてるだとか、よく考えて、一番ましなやつを選ぶべきでしょ。どうしてもだめだったら、やっぱり白票を投じてきなさいっ。以上っ。

  5. 「一票は無力・投票するのはムダ」
  6. あなたねぇ、一票は無力だなんてよくもまあ、大声でそんなことを。赤狩りの時代だったら確実に火あぶりですよあなた。この国は良くも悪くも民主主義の国で、国民の一人一人は平等なんですよ。あなたは一人だけ千票分の投票権をもらいたいと思ってるんですか?そんなわけにはいかないでしょ。自分の一票の力に満足しなさいっ。

    それにね、あなた、確かに投票の結果がすでに出ている場合、そこにあなたの一票を加えても結果は変わらないことがほとんどだと思いますよ。けど、投票の結果が出る前にあなたが「おれ投票に行かない」というか「おい、おまえおれの友人だったよな、一緒に投票に行ってあの候補者に投票しようぜ」というかで、つまりあなたがどのようにあなたの周りの人間に影響を与えるかで、投票の結果はあなたの一票以上に変わって来るんですよ。周りの人に悪影響をふりまくのはやめなさい。だからやっぱりせめて白票を投じてきなさいっ。以上っ。

  7. 「棄権する方がおもしろ半分で投票するより誠実である」
  8. ほーっ、そんなこと言いますかあなたは。するとなんですか、棄権したあなたの方が、当日選挙公報を見て「こいつはかっこわるいからだめ」だとか「このおんなはきれいだからこいつにしよう」だとかいう理由で投票に行った人間よりも誠実だとおっしゃるわけですね。よろしい、そのとおりだとしましょう。あなたは誠実なことをしたいと。それなら、より誠実なことを教えてあげましょう。日ごろからよく政治について考え・政治家たちの言動に留意し・どの政党が最もよいか、あるいは最もましかを見定めておいて・きちんと投票に行くことの方が、棄権をするよりよっぽど誠実です。それに、棄権する(投票に行かない)よりも白票を入れに行く方がまだ誠実です。「おれよりあいつの方が頭悪い」的なおかしな比較をしないで、今度からはより誠実な行動を心がけなさいっ。以上っ。

  9. 「投票は権利であるが、義務ではない」
  10. お、ちょっとまともな意見が出てきましたね。確かに日本国憲法第15条には「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」と書かれており、投票するもしないも、あなたの権利です。義務じゃないから、「おれの自由だ」って言うことは出来るわけです。けどいいですかあなた、この憲法も改定されうるんですよ。あなたが賢い選択をしないと、人間の皮をかぶった悪魔がたくさん議会に進出して、「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、大魔王様の権利である」なんて憲法改正案が通されることにもなりかねないんですよ。権利はちゃんと守らないと、すぐに失われてしまいますよ。守るためには投票に行ってよりまともな候補者に投票しましょう。

    ついでに言っておくと、義務化されないとしない、っていうのはわたしに言わせれば「情けない」態度です。あなたは法律によって決められないと何にもしないんですか?老人に席を譲る義務はないからおれは譲らない、駅でたばこを吸っても・刑法には触れていないから・たとえ禁煙のマークがあっても・他の人から白眼視されてもおれは吸い続ける、法律によって規制されるまでおれは環境を破壊し続ける…。いいかげんにしなさいっ。あんたには道徳感ってもんがないのかっ。たとえ法律によって定められてなくてもやっちゃいけないことがあるし、やらなきゃいけないこともあるんですっ。絶対ありますっ。ありまっ、うっ、ししし、心臓がっ。くっ、く、る、し、い…。い、以上っ。

  11. 「忙しくていけない・めんどくさい」
  12. あなたね、そういう言い訳の仕方をしますかね。そもそも代議制民主主義っていうのは、みんなが政治活動することは生活が忙しくてとても出来ないから、選挙で代表者を選び出して、彼らに政治をしてもらおうっていう寸法でしょ。つまり、投票ってのは、もともとあなたがらくできるように考えられてるシステムなわけなの。それなのに、あなたはさらにらくをしようって思うわけ?あなたはめんどくさがって選挙権も主権も放棄したいわけ?忙しいなんていう言い訳はやめなさいっ。日曜日なんかに働かなくてもよろしいっ。なんとか時間を作って投票に行きなさいっ。以上っ。

  13. 「そもそもおれは民主主義者ではない。(アーイアームァ、アンティクライスタッ。アーイアームァ、アナーキスタッ)」
  14. これは(おれが考え出しただけあって)ちょっと手強いですね。あなたはそもそも現在の政治制度を否定する現存在であって、したがって選挙などというものも信じない無政府主義者あるいは反民主主義者であるわけですね。よろしい。それではその主義を徹底しなさい。無政府主義者なら税金は払いなさんな。子供も学校に入れてはいけません。そのかわり政府からの恩恵はまったく受けてはいけません。寄生虫的行為は無政府主義者にはあるまじき行為です。反民主主義者だったら、王制なり、貴族制なり作るよう努力しなさい。民主主義国家以外の国家に移住するのも一手です。しかし、何もせずこの国にのうのうと住むのなら民主主義制度にしたがいなさい。投票に行かないなどという消極的行為のみによって民主主義者でないなんてことをいうのはおこがましい。やるなら徹底的にやりなさいっ。以上っ。


4.おわりに

以上、投票に行かない「棄権者」たちの代表的な意見に対して反駁を試みてみた。これ以外の理由をお持ちの方は、お知らせ願いたい。懇切丁寧にあなたが間違っていることを教えて差し上げる。

結論。「棄権者」はすべて本当は「めんどくさい」という理由で行かない人である。それ以外の理由で棄権する人間は白票を投票するか、国外に移住するなりなんなりすべきである。

それにしても、「めんどくさいから」という理由だけでも道徳的にすでにゆるしがたいのに、さらにもっともらしい理由をつけて自分の行動を正当化しようとする連中を見ると、おれはもはやこめかみに血管が浮き上がることを抑えがたい。これを読んで論駁された「棄権者」は、次回から必ず投票に行くようにっ。以上っ。


5.後記

今日21日の毎日新聞の朝刊を見ると、投票率は戦後最低の59.65%だったそうだ。有権者数はほぼ一億人であるからして、約六千万人が投票に行き、残りの約四千万人が投票に行かなかったことになる。ぼくの意見が少数派になるのももう時間の問題である。多数派である内にもっとでかい口をたたいとかないといけない。この続きはまた明日。

「俺は民主主義者ではない」という人間に選挙に行かせることができるかは、考えてみるとすこぶる疑問だ。「俺は確かに日本で生まれたが、民主主義を受け入れた覚えはない」という奴を説得できるんだろうか。これはすっごい問題。けど、「投票に行かないのも一つの意思表示だ」というのは絶対納得がいかない。なんで黙ってる奴の意思を推測しなきゃならんのだ。現状に不満があるやつもないやつも投票行かない奴は全部「俺はお上の意見に従います。政治がどうなろうと文句はいっさい言いません」と受けとられてしまうのだ。決まってます。黙ってたら絶対に相手の都合のいいように解釈されるのだ。決まってますっ。ま、それでもいいんだったらいいけどさ。けど、ほんとにそれでいいの?なんでも他人任せにしてさ。

奥田君の文を読んで考えた。結局、「俺が投票したところで政治は変わらない」っていうひとが、「俺一人が自動車乗るのをやめたって環境問題はなくならない」ということをいうわけだ。おれはこの考え方が大っ嫌いである。あなたいっぺん死になさいっ。「隗より始めよ」っていうでしょうがっ。気づいた人からやらにゃあならんですたいっ。「他人が何とかしてくれるさ」的な考え方はやめなさいっ。その甘えた考え方は20までに捨てるべきなんですっ。「俺がやらねば誰がやる」って考えなさいっ。以上っ。反論待つ。


さいしょにもどる?


Satoshi Kodama
kodama@socio.kyoto-u.ac.jp
Last modified on 12/10/96
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