第4回ケトン食療法等に係る国際シンポジウムに参加して

 掲載が大変遅くなってしまいましたが、昨年(2014年)10月7日(火)から10日(金)の間、イギリスのリバプールで開催された「第4回ケトン食療法等に係る国際シンポジウム」に参加した感想等についてお知らせしたいと思います。

 この国際シンポジウムは、2008年にアメリカ・フェニックスで始まり、2010年のイギリス・エジンバラ、2012年のアメリカ・シカゴに続いて開催されたもので、次回は2016年にカナダバンフで開催される予定です・
 私は、第2回のイギリス・エジンバラから参加させていただいていますが、毎回、新たな専門家が加わり、難治性てんかん患者向けの治療食からGLUT1異常症等の代謝疾患の治療食、脳腫瘍等の癌の治療食やパーキンソン病やアルツハイマー病等の治療食へと新たな可能性が議論される場となってきています。
 一方で、「なぜケトン食療法が難治性てんかんの治療として有効なのか?」、「もっと簡便な食事療法にならないのか?」、「長期的な副作用は?」、「大人にも使えるのか?」、・・・・・等の疑問点は、現在も専門家の間で検討されています。

  そのようなシンポジウムの状況を私が理解できた範囲内で皆様にお知らせしたいと思います。

日 程 写 真 内 容
10/7
(火)
AM
開催場所は、Liverpool Hiltonの2階でした。
展示エリアに多くの企業や団体が展示ブースを開設し、その奥の会議室でシンポジウムが開催されました。
10/7
(火)
AM
ヒルトンホテルから見えるALBERT DOCKの一角には、「The Beatles Museum」がありましたので、午前中に訪れてみました。
10/7
(火)
PM


Elizabeth Neal RD
栄養士向けの会合
 午後1時30分から午後4時の間、栄養士向けの会合が行われました。イギリス、オランダ、カナダで実際にケトン食等の食事療法に取り組む、専門知識を持つ管理栄養士から講義が行われました。
【イギリスのElizabeth Neal RD】
 血中・尿中のケトンレベル、Fine-tuning(個人レベルでの調整)、Creativity(創造性)、Modification(成長とタンパク質、ライフスタイルへの対応、年齢と栄養素)、定期的な患者さんとのコミュニケーションの重要性を説明されていました。
 MCTを使った修正アトキンス食、低グリセミック指数食材を使った修正アトキンス食、低いケトン比で低グリセミック指数食材やMCTを使ったケトン食等の組み合わせの可能性についても触れられていました。
10/7
(火)
PM


シンポジウムに参加された各国の
栄養士さん達(日本人はいませんでした)
【イギリスのSue Wood RD】
 各国で使用されているケトン食等のプログラム・ソフトウェアの講義をされました。

【オランダのElles Van Der Louw RD】
 ケトン食、修正アトキンス食、LGIT等の食事療法における栄養補給の重要性を説明されていました。

【カナダのJennifer Fabe RD】
 カナダで実施されている「Low ratio Slow initiation(低いケトン比で、ゆっくりとした導入)」について、その有効性が説明されました。個人的には、私自身が実施したケトン食と似ており、興味を持ちました。
10/8
(水)


Dr. Dominic D'Agostino
午前
 ドラベ症候群、Doose症候群、点頭てんかん、FIRES等の疾患に対してケトン食等の食事療法が有効であるとの症例が紹介されました。
 中でも【アメリカのDr. Elizabeth Thiele】が説明された「Angelmans症候群」についての症例は初めて聞いた話でした。

午後
 ケトン食等の食事療法が効果をもたらすメカニズムについて、基礎科学の専門家が様々な切り口で説明をされました。
 中でも【アメリカのDr. Dominic D'Agostino】が説明された内容は初めて聞いたものでした。海軍が使う潜水具は泡が出ない仕組みで、酸素の過剰摂取がてんかん発作を引き起こすことから、海軍の予算でこのてんかん発作を抑制する研究をされているそうです。ケトン食等の食事療法の効果に目を付けて研究に取り組まれており、「Ketone Esters」の開発にも携わっておられるようです。
10/9
(木)


Dr. Eric Kosoff
午前
 知的レベルの向上や行動が落ち着く等の良い効果に加え、長期的な食事療法が招く身長や骨の成長への影響等について講義が行われました。
 栄養士向けの会合でも触れられていましたが、ケトン食等の食事療法中の栄養補給(成長ホルモンを含む。)の大切さが説明されました。また、副作用のモニタリングの方法や重要性も話し合われました。

午後
 ケトン食等の食事療法の使用をどのようにして最適化するのかが話し合われました。遺伝子レベルで食事療法が有効な患者さんを見つけることができるのか。年齢に応じて最適な食事療法が変遷するのか。例えば、幼児には「古典的なケトン食」〜大人には「修正アトキンス食」等。【アメリカのDr. Mackenzie Cervanka】からは、Johns Hopkins Hospitalでの大人へのケトン食等の食事療法の適用症例が紹介されました。
 また、今回のシンポジウムを主催者である「Mattew's Friends Charity」の【Emma Williams MBE】から支援活動の中で把握した、食事療法を成功させるための秘訣(信号機を使った家族向けの説明、成功への自信をもつことの大切さ、子どものため、何のために頑張るのか忘れないこと等)がわかりやすく説明されました。
10/10
(金)


Dr. Tom Seyfried
午前
 アフリカやトルコ等、様々な地域で異なる文化の中で実施されているケトン食等の食事療法について説明がありました。オリーブオイルを多用する地中海料理とケトン食との類似性に興味が沸きました。
 続いて、ミトコンドリアやピルビン酸脱水素酵素等に異常がある代謝異常症へのケトン食等の食事療法を適用した症例が紹介されました。
 【ドイツのDr. Joerg Klepper】からは、GLUT1異常症の最新情報が紹介されました。新しいタイプのGLUT1異常症についての説明、成長する患者さんへの対応の難しさ等が説明されました。
 また、【ドイツのDr. Joerg Klepper】からの「Triheptanoin (C7)」の説明に続いて、【イタリアのDr. Raffaele Pilla】からは「Ketone Esters」の説明がありました。これらは、錠剤の薬ではありませんが、未来のケトン食等の食事療法に欠かせない食材(?)になるかもしれません。

午後
 癌治療法としてのケトン食等の食事療法の有効性が話し合われました。
 中でも【アメリカのDr. Tom Seyfried】は、「Cancer as a Methabolic Disease」との考えで、癌治療へのケトン食等の食事療法の有効性を熱く語られました。

 

 また、今回のシンポジウムでは、初めて日本の企業がブースを開設しました。日本国内でMCTオイル等のケトン食療法に有用な食材を販売されている「日清オイリオ」さんです。MCTオイル等を使ったクッキーやプリン等を展示されていました。多くの講師、参加者、スタッフさんが興味を持たれ、常に人だかりとなっていました。

日清オイリオから来られてブースを開設されていた2人の方々です。 日本から持参したMCTオイル等を使った「クッキー」、「プリン」、「パウダー」等が並べられたブースです。 左から「日清オイリオの方」、「私」、「熊田先生」です。

 先日、YouTubeを見ていたら、第4回ケトン食等に係る国際シンポジウムの様子が一部アップされていることを知りました。
 興味がある方は、「Matthew'sFriendsCharity」で検索してご覧になってみてください。