
抗てんかん薬が無効な難治性てんかんのうち、開頭手術で根治できる患者は1-2割に留まります。このような真の難治性てんかんに対応できる新たな治療法の開発が強く望まれる所以です。 広範なてんかん焦点は、切除不可能な機能領域を包含することが多く、治療には機能温存性が特に要求されます。現在このような目的で、軟膜下皮質多切術などの機能温存的手技や迷走神経刺激療法などの緩和的治療が行われますが、その効果は必ずしも充分ではなく、しかも効果発現の機序が解明されていません。 われわれは、臨床てんかん外科治療を進めるとともに、虚血後脳の過剰興奮性に注目して実験てんかん研究を行い、全脳虚血後の下丘や視床のGABAニューロンの変性や海馬興奮性を明らかにし(Kawai K,et al. J Cereb Blood Flow Metab 15,248-258,1995; Kawai K,et al. Acta Neuropathol 89,262-269,1995)、さらに虚血後動物から取り出した海馬スライスにおける異常興奮性としてanoxic LTPが起きることを見出しました(Kawai K,et al. J Cereb Blood Flow Metab 18,288-296,1998)。最近では、「機能温存性、低侵襲性」をkeywordに主に臨床的アプローチで研究を進めてきました。まず、定位的放射線治療の応用とその効果検証 (Kawai K,et al.J Neurosurg 95,883-887,2001)、そして迷走神経刺激療法の長期成績検討を行いました(Kawai K,et al.Neurol Med Chir 42,481-490,2002)。さらに、術中皮質脳波(ECoG)の詳細な検討を行い(川合謙介.臨床脳波48,267-274,2006)、海馬に対する新しい機能温存的手術手技(海馬多切術)の開発に携わりました(Shimizu H, Kawai K,et al.J Clin Neurosci 13,322-328,2006)。特にECoGについては早くからその周波数解析に着目した研究を行ってきました (Nakamura M, Kawai K,et al. Neurosci Res 45,419-427,2003; Uchida S, Kawai K,et al. J Clin Neurosci 10,371-372,2003; Nishida M, Kawai K,et al. Neurosci Res 50,331-341,2004)。また、最近ではてんかん手術例を中心とした脳神経外科術前患者において、fMRIやMEGを用いた非侵襲的マッピング法を確立し、これを皮質刺激マッピングで検証し (Kamada K,et al.Epilepsia 46,Suppl 3,16-17,2005)、課題負荷時の大脳皮質電位加算計測から、これら種々のマッピング法の特性を比較しました(Kamada K,et al. Neurosurgery 60,296-306,2007))。 近年、神経科学領域では大脳皮質活動をネットワークとして捉え、多点記録に対して様々な周波数解析やコヒーレンス解析を加えて、その同期性や振動性から大脳活動を捉えようという試みが盛んです。大脳皮質ニューロン同期性の背景には、皮質内で横断的にネットワークを形成するGABA性ニューロンの重要性が示唆され(Hestrin S, et al. Trends Neurosci 28,304-309,2005)、特定条件下では興奮性に作用するGABAシナプスがてんかん原性の背景にある可能性も示され始めています(Cepeda C, et al. Epilepsia 48,Suppl 5,79-85,2007; Isomura Y, et al. Neurosci Res 61,227-233,2008)。 われわれは、上記の研究を進めながら「てんかん原性を有する大脳皮質の中で何が起こっているのか」という疑問に立ち返り、これまで各測定点における「過剰興奮性」の観点のみで解析されてきたECoGを、ネットワークとしての性質に視点を移し、多点での「過剰同期性」に注目して解析する試みを始めました。さらに大脳皮質での過剰同期性をネットワークとして捉える場合、径1cmの脳表電極によるECoGのみでは不充分で、皮質層毎のフィールド電位や、単一ニューロンのユニット記録による同期性の検討が必要であろうと考えています。このような背景を踏まえ、われわれは「過剰同期性とその抑制」に注目し、ECoG-unit同時記録によるネットワーク解析を主手法として、効果発現機構が未解明の治療法に検討を加え、さらに新たな治療法の開発へと発展させる研究を進めています。 |