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概要

プログラム集

57歩行を観て、脳を知り、考え抜く千里リハビリテーション病院吉尾 雅春 そもそも「脳卒中片麻痺」という表現こそが、脳卒中後の歩行獲得の阻害因子になっていると考えている。脳卒中によって起こる問題は、皮質脊髄路の損傷による随意的な運動麻痺に限らず、さまざまな脳のシステム障害を伴う。その結果としての歩行障害であり、「片麻痺」を冠した表現は適切ではない。 大脳小脳神経回路の障害を伴う場合には情動,認知,記憶などの調節がうまく行えず,情動不安定を示す傾向がある。この回路の障害では小脳性運動失調を生じる。小脳から視床を介して運動野へ向かう視床皮質路は皮質脊髄路と並走している。中大脳動脈の梗塞や被殻出血,視床出血などでしばしば両者が損傷される。運動麻痺があれば運動失調を確認することは難しいが,フィードフォワードとしての準備電位も障害されているものと考えられる。その結果,振り出す下肢の空間的コントロールが難しく,支持期への移行も円滑にできず,立脚中期に骨盤のsway が生じやすい。 麻痺側の振り出しや荷重を確かなものにするためには非麻痺側の支持性が十分でなければならない。しかし、姿勢制御は基本的には随意的になされるものではなく、オートマティックなものである。伸展を保障する股関節や体幹の予測的姿勢制御を担う皮質橋網様体脊髄路は同側性に支配する。つまり、非麻痺側の股関節を中心とした予測的姿勢制御が損なわれることになる。その皮質橋網様体路は大脳小脳神経回路の運動ループの近傍を下降し、内包で皮質脊髄路と交差した後、後方の網様体に向かう。多くの脳卒中患者に同部位の損傷がみられることから、片麻痺患者と称される患者の多くに非麻痺側の股関節を中心とした予測的姿勢制御の障害が生じる。この損傷によって、歩行で非麻痺側の踵接地直前の股関節周囲筋の活動が不足したり、非麻痺側の足の上に積極的に骨盤を載せてバランスをとることが難しくなる。当然、麻痺側の制御にもゆとりがなくなってしまう。さらに、麻痺側への床反力を積極的に利用されなかったり、随意性を求める課題が中心に行われると、麻痺側体幹が崩れた典型的な「片麻痺歩行」が作られる。 頭頂葉内側楔前部や視床背側核あるいは腹側中間核,被殻後部,島皮質後部などの障害では姿勢制御の問題を生じやすい。楔前部は視覚情報と体性感覚情報とのマッチングによって姿勢を保持している。垂直位を保てないこのシステム障害は前頭連合野を混乱させ、歩行を大きく阻害する。視覚経路の問題にも注目しなければならない。多くの脳卒中患者でこの問題が含まれている。 基底核ネットワークの破綻も歩行に大きく影響を及ぼす。被殻出血は脳出血の40% を占める。そのネットワークの重要な中継核である視床でも脳出血の30% が発生する。歩行に影響するさまざまなシステムがここには包含されている。教育講演