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概要

プログラム集

53バイオメカニクスから見た脳卒中片麻痺患者の理学療法神奈川県立保健福祉大学石井慎一郎 姿勢の直立化は直立二足歩行を再獲得するための基本的機能であり、「脊柱の重力方向への伸展活動(vertical extension)」、「腰椎―骨盤―股関節複合体の協調制御」、「下肢の抗重力伸展活動」、「足関節戦略によるバランス能力」、「股関節両側性活動による重心移動」の5つの機能から成り立っている。 直立二歩行は,重力方向へ姿勢を直立化することによって保障される移動様式であり,姿勢の直立化が獲得できなければ,実用的な歩行の獲得には至らないと言っても良い.そこで、直立二足歩行を再獲得する理学療法アプローチでは、最初に姿勢の直立化を可能にするための機能を獲得し、次いで歩行を制御するために必要な機能の獲得を図るという2段構えの戦略が必要となる。 セラピストは、徒手的な介入や口頭指示により、患者の誤った動作パターンを修正して、適切で好ましい動作パターンへと誘導し、そのパターンを学習させる。しかしながら、多くのセラピストが経験するのは、患者の動作パターンを修正することが決して容易ではないという現実である。効果的な動作練習を行うために、セラピストは随意運動制御の神経機構を理解しておかなくてはならない。 中枢神経系が運動の目的に沿って運動系の自由度を減少させた機能的なまとまりを形成し、作用の似たいくつかの筋群を共同して働かせるシナジー(synergy)を利用して膨大な自由度を制御可能なレベルに減少させて処理をしている。中枢神経系にはシナジーの基になる運動の記憶が、「運動全体の抽象的な形の記憶」として貯蔵されているのではないかと考えられている。この運動の記憶はエングラムと呼ばれている。動作練習において、すでにエングラムよって強化されている運動課題を用いると、最適な運動を誘導しやすく、代償動作を抑制することが容易になる。 エングラムを発現させるトリガーとして、リーチング動作を利用することが効果的である。なぜならば、リーチング動作は我々が生後獲得していく運動パターンの中でも、最も強固で根本的な運動パターンとしてエングラムが強化されているからである。リーチング動作は、重心移動のための股関節の活動を誘発し,下肢の体重支持を促進するファシリテーターとしての役割も有している。ロコモーション(歩行)とリーチングは、多くの共通点があることが分かってきている。この相似性は、四足歩行から二足歩行への移行という環境の変化に対して、前肢の歩行運動を制御している脊髄固有神経回路(CPG)がリーチングを制御する神経回路網に適応的変化したことを反映していると考えられている。 本講演ではバイオメカニクスという側面と進化のプロセスという側面で、ヒトの直立二足歩行について再考し、そこで得られた知見から脳卒中片麻痺患者の理学療法アプローチをどのようにしたら良いかを考察する。教育講演