Letter to Editor

日本未熟児新生児学会雑誌 第19巻第2号 85251)頁〜88254)頁 2007

寺田明佳他 論文 「極低出生体重児の胎便関連性腸閉塞症に対する

ガストログラフィン胃内投与の効果」について

ガストログラフィン胃内投与の危険性

獨協医科大学放射線科 河野 達夫

 本誌第19巻第28588頁に掲載された「極低出生体重児の胎便関連性腸閉塞症に対するガストログラフィン胃内投与の効果」の論文1)に関して,放射線科の立場から意見を述べさせていただきます。

 筆者らは,本法が「有効,安全,簡便」と述べていますが,本文中に誤嚥した場合の副作用に関する記載がありません。ガストログラフィンは,造影CTの際に血管内投与される低浸透圧性非イオン性造影剤ではなく,高浸透圧性イオン性造影剤に分類されます。その浸透圧は1700 mosm/L,生理食塩水に対する浸透圧比は約9と非常に高い薬剤です。筆者らも述べているように,蒸留水で3倍に希釈しても非常に高い浸透圧が維持されており,消化管粘膜を介して多量の水分が漏出するのと同じ機序で,気道内に入ると重篤な肺水腫を惹起します。製薬メーカーの添付文書には,「誤嚥により,呼吸困難,肺水腫等を引き起こすおそれがあるので,誤嚥を引き起こすおそれのある患者(高齢者,小児,嚥下困難,意識レベルが低下した患者等)に経口投与する際には観察を十分に行い注意すること」と記載されています。また日本医学放射線学会と日本放射線科専門医会・医会による画像診断ガイドラインでは,小児の消化管造影に際して「誤嚥する可能性がある患児ではイオン性高浸透圧水溶性造影剤(たとえば,ガストログラフィン)を使用してはならない」と注意を喚起しています2)

 低出生体重児では,臨床的に明らかな誤嚥を示唆する所見がなくても,silent aspirationがあることが本学会学術総会でも報告されています。このような患者にガストログラフィン胃内投与を行うことは,気道への誤嚥の危険性を常に念頭に置くべきであると考えます。

 以上の理由から,たとえ蒸留水で3〜5倍に希釈したとしても,低出生体重児に対するガストログラフィン胃内投与はきわめて慎重に行われるべきであると考えます。この論文の「有効,安全,簡便」という記載を根拠として,誤嚥の危険性に対する最大限の注意を払うことなく本法が広く施行されると,予期せぬ呼吸器合併症のために不幸な転帰をとる患者が発生する危険性があり3)4),注意を喚起すべきと考えます。

【文献】

1)寺田明佳,市場博幸,郡山健他.極低出生体重児の胎便関連性腸閉塞症に対するガストログラフィン胃内投与の効果.日本未熟児新生児学会雑誌 2007192):8588

2)日本医学放射線学会,日本放射線科専門医会・医会編 画像診断ガイドライン2003小児:Y.小児上部消化管造影検査 p278-279

3Donnelly LF, Frush DP, Frush KS.Aspirated contrast material contributing to respiratory arrest in a pediatric trauma patient. AJR Am J Roentgenol. 1998 Aug;171(2):471-473.

4)Trulzsch DV, Penmetsa A, Karim A,et al. Gastrografin-induced aspiration pneumonia: a lethal complication of computed tomography.South Med J. 1992 Dec;85(12):1255-1256.

著者から河野達夫先生のご意見に対する返事

極低出生体重児に胃内投与されたガストログラフィンが気道へ誤嚥されて呼吸器合併症を来たす可能性があるというご指摘に対しては反論の余地はありません。

ただし,我々が投与した25例においては呼吸器症状の悪化を呈した症例は1例も認めませんでした。また,この治療を行うような極低出生体重児はもともとNICU内で呼吸,循環動態に関する持続的なモニタリングをされていると思われます。さらにガストログラフィンも希釈して投与しており,放射線科の透視室などで呼吸,循環のモニタリングをしないまま原液を投与するような場合とは状況が大きく異なると考えられます。

もちろん気道内に誤嚥した場合には重篤な合併症を引き起こす可能性は否定できませんので,常にその危険性を念頭に置きながらNICU内での厳重な呼吸,循環動態の監視下で投与すべきと思われます。

この治療法の真の有効性と安全性に関しては,今後多施設のより多くの症例を集積することによって証明されるべきと思われます。

平成19722

大阪市立総合医療センター新生児科

市場博幸,寺田明佳