Autoinflammatory syndromesの疾患概念と日本における遺伝性周期熱症候群の一例

京都大学附属病院病理診断部 

宮川 文

 

自己炎症性症候群autoinflammatory syndromesは遺伝性周期熱hereditary periodic fever syndromes(家族性地中海熱familial Mediterranean fever, IgD症候群hyperimmunoglobulin D syndromes, TNF受容体関連周期熱tumor necrosis factor-associated periodic syndrome(TRAPS)など)を含む広い疾患概念で、感染症、自己免疫性、アレルギー、免疫不全症とは異なる全身性の炎症性病態を指す。幼少時より繰り返す発熱、他の全身の炎症(皮疹、関節炎など)を主訴とする。自己炎症性症候群は1999年遺伝性周期熱の一つである familial Hibernian feverTNF 受容体遺伝子変異が判明して提唱された名称である。自然免疫を制御する各種遺伝子の変異による自然免疫のシグナル異常により、好中球や単球が活性化された状態になることが原因であることが証明されつつある。

 日本では“凍瘡様皮疹を伴う骨骨膜症”として1939年 東北大の中條が最初に報告した、中條―西村症候群が自己炎症性症候群の日本型として提唱されている。大阪泉南から和歌山、奈良地方に集積し、臨床的には幼 少時からの繰り返す発熱、凍瘡様皮疹、結節性紅斑、関節炎、限局性脂肪筋萎縮などを呈する。皮膚生検では真皮の非特異的炎症、あるいは脂肪織炎として、Weber-Christian病と診断されていることが多く、原因不明のまま長年放置されていることが多い。

最近経験した一例は32歳男性、3歳 頃より周期性に発熱、皮下硬結、冬季の指腫脹を繰り返していた。前頭部皮下硬結からの生検では、組織学的には真皮深層から皮下脂肪織にかけてリンパ球主 体、好中球、好酸球、組織球の密な浸潤、核破砕片も見られた。多彩な細胞浸潤であるが、大型リンパ球を伴っており、悪性リンパ腫、特にsubcutaneous panniculitis-like T-cell lymphoma を疑い、免疫組織化学法を施行したが、monoclonality は証明できなかった。臨床像から中條―西村症候群の診断に至った。中條―西村症候群の皮膚組織所見は非特異的な多彩な炎症細胞浸潤、ときに血管炎の像を示すとされる。これらの疾患の診断における病理医の役割は少ないが、診断には臨床との連携が必要である。