進行期分類は、治療法の決定や予後の推定あるいは治療成績の評価などに際し、最も基本となるものである。
日本産科婦人科学会では国際的な比較を可能にするため、FIGOによる臨床進行期分類とUICCによるTNM分類を採用している。

FIGO分類     UICC分類


 臨床進行期分類(日産婦1997年、FIGO1994年)         TOP
0期
上皮内癌
I期
癌が子宮頸部に限局するもの(体部浸潤の有無は考慮しない)
Ia期
組織学的にのみ診断できる浸潤癌
肉眼的に明らかな病巣はたとえ表層浸潤であってもIb期とする
浸潤は計測による間質浸潤の深さが5o以内で、縦軸方向の広がりが7oを超えないものとする
浸潤の深さは浸潤がみられる表層上皮の基底膜より計測して5oを超えないもの
脈管(静脈またはリンパ管)侵襲があっても進行期は変更しない
Ia1期
間質浸潤の深さが3o以内で、広がりが7oを超えないもの
Ia2期
間質浸潤の深さが3oを超えるが5o以内で、広がりが7oを超えないもの
Ib期
臨床的に明らかな病巣が子宮頸部に限局するもの、または臨床的に明らかではないがIa期を超えるもの
Ib1期
病巣が4cm以内のもの
Ib2期
病巣が4cmを超えるもの
II期
癌が頸部を超えて広がっているが、骨盤壁または腟壁下1/3には達していないもの
IIa期
腟壁浸潤が認められるが、子宮傍組織浸潤は認められないもの
IIb期
子宮傍組織浸潤の認められるもの
III期
癌浸潤が骨盤壁にまで達するもので、腫瘍塊と骨盤壁との間にcancer free spaceを残さない、
または、腟壁浸潤が下1/3に達するもの
IIIa期
腟壁浸潤は下1/3に達するが、子宮傍組織浸潤は骨盤壁にまでは達していないもの
IIIb期
子宮傍組織浸潤が骨盤壁にまで達しているもの、または明らかな水腎症や無機能腎を認めるもの
ただし、明らかに癌以外の原因によると考えられる水腎症や無機能腎は除く
IV期
癌が小骨盤腔を超えて広がるか、膀胱、直腸の粘膜を侵すもの
IVa期
膀胱、直腸の粘膜への浸潤があるもの
IVb期
小骨盤腔を超えて広がるもの
以下の点に注意を要する。
FIGO分類の0期には上皮内癌とCIN3が併記してある。
浸潤の深さについて、FIGO分類では腺上皮の基底膜からの計測も併記されている。
臨床進行期分類は原則として治療開始前に決定し、以後これを変更してはならない。
進行期分類の決定に迷う場合には軽い方の進行期に分類する。FIGOでは習熟した医師による麻酔下の診察を勧めている。
進行期決定のために行われる臨床検査は以下のものである。
 a)触診、視診、コルポスコピー、診査切除、頸管内掻爬、子宮鏡、膀胱鏡、直腸鏡、排泄性尿路造影、肺及び骨のX線検査
 b)子宮頸部円錐切除術は臨床検査とみなす
リンパ管造影、動・静脈撮影、腹腔鏡、CT、MRI等による検査結果は治療計画決定に使用するのは構わないが、進行期の決定に際しては、これらの結果に影響されてはならない。その理由は、これらの検査が日常的検査として行われるには至っておらず、検査結果の解釈に統一性がないからである。CTや超音波検査で転移が疑われるリンパ節の穿刺吸引細胞診は、治療計画に有用と思われるが、進行期決定のための臨床検査とはしない。
Ia1期とIa2期の診断は、摘出組織の顕微鏡検査により行われるので、病巣がすべて含まれる円錐切除標本により診断することが望ましい。Ia期の浸潤の深さは、浸潤が起こってきた表層上皮の基底膜から計測して5oを超えないものとする。
浸潤の水平方向の広がり、すなわち縦軸方向の広がりは7oを超えないものとする。
静脈であれリンパ管であれ、脈管侵襲があっても進行期は変更しない。
脈管侵襲や癒合浸潤が認められるものは、将来治療方針の決定に影響するかも知れないので、別途記載する。
ただし、子宮頸部腺癌についてはIa1期、Ia2期の細分類は行わない。
術前に非癌、上皮内癌、またはIa期と判断して手術を行い、摘出子宮にIa期、Ib期の癌を認めた場合は(1)の規定にかかわらず、それぞれIa期、Ib期とする。従来用いられていたIb期"occ"は省かれている。
術前に非癌、上皮内癌、またはIa期と判断して子宮摘出を行ったところ、癌が子宮を超えて広がっていた場合に、従来は一括して"Ch"群としていたが、このような症例は臨床進行期の分類ができないので治療統計には含まれない。
これらは別に報告する。
進行期分類に際しては、子宮頸癌の体部浸潤の有無は考慮しない。
IIIb期とする症例は、子宮傍組織が結節状となって骨盤壁に及ぶか、原発腫瘍そのものが骨盤壁に達した場合であり、骨盤壁に固着した腫瘍があっても子宮頸部との間にfree spaceがあればIIIb期としない。
膀胱または直腸浸潤が疑われるときは、生検により組織学的に確かめなければならない。
膀胱内洗浄液中への癌細胞の出現、あるいは胞状浮腫の存在だけではIVa期に入れてはならない。
膀胱鏡所見上、隆起と裂溝(ridges & furrows)が認められ、かつ、これが触診によって腫瘍と硬く結びついている場合、組織診をしなくてもIVa期に入れてよい。

 
 TNM分類(UICC1997年)          TOP

TNM治療前臨床分類      TNM術後分類
このTNM分類は平成10年1月以後の症例より適用される。
TNM分類は次の3つの因子に基づいて病変の解剖学的進展度を記述する。各々の広がりについては数字で付記する。
T分類:原発腫瘍の進展度
N分類:所属リンパ節の状態
M分類:遠隔転移の有無
組織診のないものは区別して記載する。
TNM分類は一度決めたら変更してはならない。
分類評価の判定には以下の検索が必要である。
 T分類:臨床的検索、膀胱鏡、直腸鏡、尿路造影を含む画像診断
 N分類:臨床的検索、尿路造影とリンパ管造影を含む画像診断
 M分類:臨床的検索、画像診断
判定に迷う場合は進行度の低いほうの分類に入れる。
複数の医師によって麻酔下に内診及び直腸診することが望ましい。
近年の画像診断の普及を考慮すると、所属リンパ節転移の検索に対しては、腹部・骨盤CT、MRI、超音波検査などを用いることが望ましい。また、転移が疑われるときは、穿刺吸引細胞診をすることが望ましい。
 
TNM治療前臨床分類         UICC TOP
 T−原発腫瘍の進展度(T分類はFIGOの臨床進行期分類に適合するように定義されている) 
TX
原発腫瘍が評価できないもの
T0
原発腫瘍を認めない
Tis
浸潤前癌(carcinoma in situ)
T1
癌が子宮頸部に限局するもの(体部への進展は考慮に入れない)
T1a
浸潤が組織学的にのみ診断できる浸潤癌
肉眼的に明らかな病巣は、たとえ表層浸潤であってもT1b期とする
浸潤は、計測による間質浸潤の深さが5o以内で縦軸方向の広がりが7oを超えないものとする
浸潤の深さは、浸潤がみられる表層上皮の基底膜より計測して5oを超えないものとする
浸潤の深さは、隣接する最も浅い上皮乳頭から浸潤最深部までを計測する
脈管(静脈またはリンパ管)侵襲があっても進行期は変更しない
T1a1
間質浸潤の深さが3o以内で、広がりが7oを超えないもの
T1a2
間質浸潤の深さが3oを超えるが5o以内で、広がりが7oを超えないもの
T1b
臨床的に明らかな病巣が子宮頸部に限局するもの、または臨床的に明らかではないがT1aを超えるもの
T1b1
病巣が4o以内のもの
T1b2
病巣が4oを超えるもの
T2
癌が子宮頸部を超えるが、骨盤壁には達していないもの
癌が腟に進展しているが、その下1/3には達していないもの
T2a
子宮傍結合織浸潤のないもの
T2b
子宮傍結合織浸潤を伴うもの
T3
癌が骨盤壁に達しているもの
直腸診で腫瘍と骨盤壁の間にcancer free spaceがない
癌が腟の下1/3を侵しているもの
癌によると思われる水腎症または無機能腎がみられるもの
T3a
骨盤壁には進展していないが、腟の下1/3を侵しているもの
T3b
骨盤壁に進展しているか、水腎症または無機能腎のあるもの
T4
癌が小骨盤腔を超えて進展しているか、膀胱または直腸の粘膜を臨床的に侵しているもの
以下の点に注意を要する。
FIGO臨床進行期分類(1994年)では、cervical intraepithelial neoplasia grade IIIもTisのカテゴリーに含まれている。
TisとT0を混同しないこと。
T0は臨床所見より子宮頸癌と診断したが、原発巣より組織学的な癌の診断ができないもの(組織学的検索をせずに治療を始めたものを含む)。
TXは組織学的に子宮頸癌と診断したが、その進行度の判定が何らかの障害で不可能なもの。
 N−所属リンパ節 
基靱帯リンパ節、閉鎖リンパ節、 外腸骨リンパ節、内腸骨リンパ節、総腸骨リンパ節、仙腸骨リンパ節
N0
所属リンパ節に転移を認めない
N1
所属リンパ節に転移を認める
NX
所属リンパ節を判定するための最低必要な検索が行われなかったとき
以下の点に注意を要する。
鼠径上リンパ節は所属リンパ節に含める。
傍大動脈リンパ節はM分類に入れる。
 M−遠隔転移 
M0
遠隔転移を認めない
M1
遠隔転移を認める
MX
遠隔転移の有無を判定するための最低必要な検索が行われなかったとき
MA
傍大動脈リンパ節に転移を認める
 
TNM術後分類         UICC TOP
組織学的検索を施行しなかった場合
pNX(0)
所属リンパ節に腫大(−)
pNX(1)
所属リンパ節に腫大(+)
組織学的検索を施行した場合
pNR(0)
所属リンパ節に転移(−)
pNR(1)
所属リンパ節に転移(+)
以下の点に注意を要する。
T−原発腫瘍の進展度(T分類はFIGOの臨床進行期分類に適合するように定義されている)
「この分類は治療法が決まるまでの情報を基にし、これを手術所見や治療目的で切除された材料の検索で得られた知見で、補足修正したものである」とTNM分類総則に記されている。
したがって、本来この分類はhistopathologicalな所見によって規定されているにもかかわらず、postsurgicalという概念も加わっているため、切除時、切除後の肉眼所見や触診所見も加えるべきなのか、完全な組織学的検索に基づいた所見のみとすべきかが不明確である。
この点を考慮して、日本産科婦人科学会婦人科腫瘍委員会では以下のごとき注釈を加えた(pT、pN、pMはそれぞれTNM分類に準ずる)。
子宮頸部円錐切除術は原則として臨床検査とみなし、これによる組織検査の結果はTNM分類に入れ、pTNM分類には入れない。ただし、臨床検査(狙い組織診、円錐切除診を含む)によって術前に確認された癌が、摘出子宮(治療を目的とした頸部円錐切除を含む)の組織学的検索では認められない場合、あるいは術前のものより軽度の癌しか認められない場合には、pTの記述は術前検査で確認された組織診によることとする。
摘出物の組織学的な癌の広がりを検索しないときはXとする。
不完全手術または試験開腹に終わり、その際バイオプシー程度の組織検査で癌の広がりを検索した結果、癌が小骨盤腔を超えていない場合はpTXとし、癌が小骨盤腔を超えて認められた場合はpT4として報告する。また、このような場合のpNについての報告は下記に準ずる。
pN0の決定には10個以上の骨盤内リンパ節に対する組織学的検査が陰性であることが必要である。
pNの報告に際して、組織学的検索を行わなかった場合は、腫大リンパ節触知の有無を加味した以下の分類細目に従って報告する。
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