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11. メラノーマの前駆病変としてのdysplastic nevus

岡田整形外科・皮膚科 高田 実

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圧倒的多数のメラノーマは母斑とは無関係に正常メラノサイトの癌化によってde novoに生じると考えられており、悪性黒子型と末端黒子型メラノーマについてはこの考えが支持されています。これに対して表在拡大型メラノーマは、特に欧米ではその過半数がいわゆるdysplastic nevus (DN) から発症するとされています。しかし、DNにおけるメラノサイトのdysplasia は定義があいまいであることや、実際にはDNは長期間観察してもメラノーマへ進展することがほとんどないことなどから、メラノーマの前駆病変あるいは良性と悪性の中間的悪性度を示す腫瘍としてのDNの疾患概念に関する議論は決着がついていません。

この問題を解決するために、UCSFのBoris Bastianらは病理学的に普通の母斑、DN、melanoma in situなど明らかな前駆病変が併存する37例のメラノーマの病理組織標本を蒐集し、メラノーマの部分と前駆病変の部分のそれぞれをmicrodissectionで切り出して、293種類のがん関連遺伝子の変異とコピー数異常を次世代シークエンサーを用いたdeep sequencingで解析しました。その結果、浸潤性メラノーマの部分ではこれまで知られているように、癌抑制遺伝子CDKN2Aの両アレルの不活化やPTEN,p53の変異など多数の異常が認められました。これに対して、隣接する普通の母斑はBRAF V600E 変異のみが検出され、その他の遺伝子異常は全く検出されませんでした。一方、隣接する病変がDNやmelanoma in situなど中間的悪性度を示す病変とみなされる部分ではNRAS 変異やV600E以外のBRAF変異などのドライバー変異を含む2~3種類の少数の変異がみられ、これらの病変が普通の母斑とも浸潤性メラノーマとも異なる特徴的な遺伝子異常を示すことが明らかにされました。注目すべきことに中間的病変の77%でTERT遺伝子のプロモーター部分の変異が検出され、これによるメラノサイトの不死化が発がんの早期から起こっていることが示唆されました。

なお、この論文では遺伝子解析とは別に10人の病理医が独立して解析対象症例の病理診断を行っています。その結果、通常の母斑と浸潤性メラノーマの部分の診断は全員がほぼ一致していますが、中間的病変の病理診断はprobably benignからmelanoma in situまで幅広くばらついており、このような中間的病変の病理診断の困難さが浮き彫りにされています。いずれにしても、メラノサイト系腫瘍の診断に際しては、良性(母斑)と悪性(メラノーマ)の2元論ではなく、両者の中間的病変(DN)の存在を念頭に置く必要があり、それはメラノーマの過剰診断を防ぐという観点からも重要と考えられます。

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文献

Shain AH et al., The genetic evolution of melanoma from precursor lesions. N Engl J Med 2015;373:1926-36.

Shain AH & Bastian B, From melanocytes to melanomas. Nat Rev Cancer 2016;16:345-58.