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7. 臨床を見て病理を考え、病理を見て臨床を考える



安齋 兵衛尉正成 眞一 先生
日本医科大学武蔵小杉病院皮膚科

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 「皮膚病理をみられるようになるにはどうしたら良いですか?」とよく聞かれますが、正直私自身さほどみられるとは思っていないので、「わかりません」と答えるしかありません。「皮膚病理の教科書をしっかり読めば良いのですか?」といわれると、「たぶんそれだけでは無理です」という答えになるでしょう。それはたぶん必要条件ではあっても、十分条件ではありません。実際私は教科書を一冊まるまる読むということをおおよそやったことがなく(何の自慢にもなりませんが),困ったときにその項だけを読むという使い方しかしたことがないので・・・・(だからいつまで経っても皮膚病理がわからないのでしょうか??)。

 皮膚病理(診断)の達人は、標本を顕微鏡に乗せて弱拡大でぱっと見ただけで、多くの標本の診断がつきます。これは、おそらく暗黙知というやつで、人の顔を見て瞬時に誰だかわかるのと同じようなことだろうと思います。もちろん、学会などではそれらしく理由を付けて説明はするのですが、彼らは直感的に「これはメラノーマ」「これは色素細胞母斑」とわかっているので、その説明をわれわれ凡人が聞くと「何で?」と思うことが多々あります。この様な域に達するには、(たぶん)どれだけ多くの標本の風景を見てきたかということが大事なんだろうと思います。ということは、「皮膚病理がみられる」ようになるために一番早くて確実なのは、極めて多数例(たぶん数万例)の病理標本をみるということだと思います。もちろん、しっかりとしたガイド付きで。しかし、日本では、そのような環境は極めて稀であり、しかもそれをするためには多くのものを犠牲にしなくてはなりません。そのようなことを、皮膚科臨床の傍ら先人達が皆さんやっておられたわけもなく、それでも、沢山の優秀な皮膚病理の専門家がいらっしゃいます。では、どうしていたのか?おそらく、直感で診断するのではなく、数少ない標本を臨床所見としっかり対比しながら観察し、そこで得られた知識を整理し、「疾患の本質的な病理所見はこれだ」ということがわかるようになったのだろうと思います。「臨床を見て病理を考え、病理を見て臨床を考える」ことの繰り返しが、一番重要なのだと思っています。その第一歩は、まず、病理診断依頼書の臨床診断をきっちりと書くことです。そして、できるだけの鑑別疾患をあげることです。この習慣は非常に大切です。

 私は以前からいろいろなところでことあるごとに、「臨床を見て病理を考え、病理を見て臨床を考える」ことが大事であると習ってきました。自分でもできるだけそのような訓練を心がけてきたつもりですが、なかなか達人の域には達しません。達人は、臨床像を詳細にみるだけで、頭の中に病理組織像が浮かび、診断ができてしまう様です。また逆に、病理標本をみると、臨床症状を語れる様です。この能力を突き詰めていけば究極的には、臨床症状だけで診断ができることになります。ちょうどそろばんの達人が、頭の中でそろばんの珠をはじいて暗算してしまうように。まぁ、なかなかそうはいきませんが、いつかはそうなりたいと願っています。だってこれは、(病理医には絶対できない)皮膚科臨床医の特権ですから。

 いずれにしても、どんな臨床研究も、基礎研究だって、正しい診断、とくに正しい病理診断があってこそ成立するわけですから、皮膚病理を侮っているといつかきっと痛い目に遭いますよ!日本皮膚病理組織学会のHPに来て、これを読んでいるあなたは、決してそんなことはないでしょうが。