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ごあいさつ

理事長 川嶋 みどり

 年頭にあたり新春のご挨拶を申し上げます。

 旧年は、自然災害に明け暮れましたが、今年は、平和で穏やかな年でありたいと心から念じております。とはいえ、そうしたごく平凡な願いさえ、叶うかどうかと思わせる地球の気象環境です。海水温上昇に伴う大型台風やハリケーンが、世界中で多くの人々を悲しませ苦しめました。今こそ、自然の一構成員でもある人類の英知が問われていると思います。目先の便利さや効率さに惑わされず、誰もが人間らしく生き、暮らすことに価値をおいた文化の再構築が求められています。

 さて、昨年は、本学会編著書「日本の看護の歩み-歴史を創るあなたへ」(日本の看護120年改訂版)を発刊しました。「今、看護師であるなら誰もが読むべき書」と高く評価して下さったのは、ある大学の学長(社会学者)でした。会員諸姉、諸兄のご感想は如何でしょうか。

 ところで、今というこの”時”は、国にとっても看護にとっても重大な選択の分岐点に立っていると思います。4 年目を迎える被災地の復興をさておいて、70年間守り続けた不戦の矜持が壊れかねない動きが強まりそうな気配の年の瀬でした。服装だけではなく心までカーキ色一色に染まった戦時下で、あらゆることに我慢を強いられた少女時代を過ごした者として、危惧感を感じるだけでは足りない思いです。

 看護に目を転じますと、「医道審議会保健師助産師看護師分科会」が年末まで5 回開催されました。「医療・介護統合法」という大きな法案の中に組み込まれて国会を通過した、”看護師の特定行為の研修”(案)の具体化を図るための審議です。これまで絶対的医行為として、看護師が手を染めなかった領域の仕事を可能にする研修を歓迎してよいものかどうか。ケアのレベルを維持することさえ困難な現場で、看護師のアイデンティティと、看護の受け手の方たちへの影響を思いながら、ものごとを歴史の指標で考えることの重要性を感じます。

 アメリカの看護理論家リディアホールは「医師の仕事がどんどん委譲されてくるにつれ、看護師が手放さねばならなかったのは、独自の熟練領域である安楽を与える身体面のケアであった」と述べ「専門職看護師が、痛みを与える”実務医師”を選択したことにより、患者は熟練した安楽のケアを奪われ学習の機会を逃した」と述べています。50年前に書かれたものですが、日本においても真摯に受け止めるべきではないでしょうか。

 チーム医療とは、各職能ごとに専門性を発揮して、患者の健康回復やQOLに貢献することであり、職能の範囲を超えて他職種に協力するものではないと思います。看護系大学が250を超えようとしている今、医師の業務の下支えとしての看護を位置づける特定行為の実施は、看護学の独立とは逆行し、看護の自律への脅威とさえ受け止めることができます。”今”のこの動きを丹念に見つめ記録し、解釈、考察することは、看護歴史学のテーマであり、同時に、歴史研究者の社会的な責務といえましょう。

(2015.1.15 会報63号「年頭所感 判断は史実を指標に」より転載)