マスク

 

 

 Aさんは状態が悪く、感染のリスクが高いため、大部屋から個室に移りました。Aさんの母親は普通の格好で個室のAさんに付き添っていて、食事やトイレの時だけその部屋から外に出ていました。

 ある日、看護婦さんから、「Aさんは免疫力が落ちていて感染症に陥りやすいので、きちんと帽子、マスク、白衣を着用して個室に入室してください」と言われました。Aさんのお母さんは、「特に医師の方からそのような指導は受けておりません」と言うと、その看護婦さんは、「担当の医師の方に指導していただくように話しておきます」と言いました。

 するとやがて、担当の医者がAさんのお母さんのところに来て言いました。「薄々お気づきになられているとは思いますが、Aさんはもう先が長くありません。そのため、もうお母さんの好きなようにさせてあげたい、という気持ちから特に感染に配慮した指導を致しませんでした。しかし、今、看護婦さんの方からの指摘がありました。私としてはお母さんにマスクなどをしてくれるといいけどなぁ」と。

 私はこの医者がこのような状況で、家族に対し、医者の希望を伝えながらも選択の余地を残して説明してくれたことに好感を覚えました。