小耳症とその手術

小耳症の手術年齢


成人の正常な耳では、耳介長が男子6.5cm、女子6.0cmくらいです。肋軟骨で作製した耳介はさほどの自然成長は期待できませんから、最初からこのくらいの大きさの耳介を作っておかなくてはなりません。

耳垂残存型では、3本の肋軟骨を必要としますので、胸囲60cmくらいが目安となります。このくらいになる平均年齢は、9−10歳です。

残存耳介が大きい場合、耳介全部を再建しなくてもすめば、必要な肋軟骨も少なくてもよいことになります。

肋軟骨そのものについての研究では、5-6歳の軟骨は、まだ未成熟なため、このくらいの年齢の肋軟骨で作製した耳介フレームは強度が弱くなってしまうのではないかと考えられます。
小学校前に耳を作るのは、将来性を考えれば好ましくないといえます。

顔面変形の治療との関連


 小耳症のある側の顔面が小さい場合、とくに歯のかみ合わせの面(咬合平面)が斜めになっているときには、下顎骨延長という手術を行います。

その場合、下顎骨単独で行うためには6歳以下で、この骨延長を行うのがよいと考えられます。もっと。大きくなっている場合には、上顎下顎の同時延長という手術を行うこともあります。

顎の大きさが左右対称になっていた方が、耳介の作製位置のバランスもよいので、基本的には必要であれば、まず骨延長を行い、その後に耳介作製を行うという順番になります。

実際には、小耳症手術と顎骨延長を行える病院は、多くないでしょう。理想論としてはこのように思っていますが、現実には順番が替わることもあるでしょう。

また、みみ=外耳はもともと複雑な形態をしていますから、さまざまな変形がおこりやすいといえます。小耳症以外のよくみられる耳介変形についても紹介します。

小耳症手術の歴史


耳介を作製する手術に関する最古の記録は古代インド、ベダ時代の「ススルタ大医典」のある耳垂=耳たぶの修復、ではないかといわれています。これは紀元前6-7世紀の話です。

さて20世紀に入り医学も進歩してくると、さまざまな物質を移植して耳を作製する試みがおこなわれたようです。象牙、骨、軟骨、金属などさまざまなものを移植してみたことが記録されています。1937年Gilliesが患者の母親の耳介軟骨を患者耳介の支持組織として移植して比較的よい結果を得たということもありました。
しかし、現在の移植免疫の点からいえば、他人の組織が生着するわけもなく、当然ながら耳介形態は徐々に崩れてきたそうです。
結局、自分の軟骨組織を使用した場合のみがよかった、という結論に達し、現在に至っているわけです。

Tanzer 1959

自家肋軟骨で、耳輪を際だたせるデザインの肋軟骨フレームを作製し、全体で6段階におよぶ手術法を開発した。

      1)残存耳介を利用した耳垂の作製
      2)肋軟骨移植
      3)耳介下半分の挙上の皮膚トンネル作製
      4)耳介上半分の挙上
      5)トンネル部分の閉鎖
      6)耳珠、耳甲介底の作製

その後、Tanzerは、1971年に4段階に短縮した方法も発表しています。

Cronin 1966

自家肋軟骨ではなく、人工のシリコンフレームを用いた手法が発表されました。
しかし、人工物は一度皮膚が破れて露出してしまうと、摘出せざるを得ないこともあり、現在は行われていません。

今日では、自家肋軟骨移植が主流で、

      1)肋軟骨移植と耳垂移動を行う 
      2)半年後の耳介挙上、皮膚移植 
      3)耳珠形成等細部修正
      というような、3段階で行っていることが多いでしょう。



未来の展望:

最近になって大きな進歩を遂げている分野に、再生医学、組織工学があります。
細胞を培養して、人工的に本物の臓器を作製しよう、という試みです。

すでに、培養皮膚などはかなり実用化して、アメリカでは全身熱傷の重傷患者に使用されています。すり減ってしまった膝関節の軟骨を培養して膝関節にもどすような治療もすすんでいます。
耳の軟骨細胞を、耳型に培養したものがマウスの背中に埋まっていて、あたかもネズミがヒトの耳を背負っているような映像をみたことがある方もいるかもしれません。

現在、この技術をすぐに人間に応用して小耳症の治療をするのは無理のようです。

しかし、日々進歩する分野であり、将来的には培養して作製した耳介を移植する治療が可能となる日もあると思います。



小耳症手術法

第一段階:
9-10歳になり手術時期を迎えます。

肋軟骨を3本ほど採取し、耳では耳垂の移動と肋軟骨を埋め込むポケットを作製します。
ポケットの皮膚が厚いと耳介フレームの形がきれいにでません。かといって、薄くしすぎると皮膚の血流不良を引き起こすこともあります。

採取した肋軟骨で、フレームベース、耳輪、対輪を作ります。これらを細いワイヤーでとめて肋軟骨耳介フレームができます。
これをポケットに埋め込みます。

第二段階:
半年くらいあけてから、側頭部に埋め込まれた状態の耳を起こす手術をします。
耳輪の外側に沿って切開をして、耳を側頭から持ち上げます。耳の裏側と側頭には皮膚が足りない状態ですので、ここに皮膚移植を行います。

第三段階:
以上の2回の手術で、起きた状態の耳ができました。

しかし、耳甲介は浅く、耳珠も無い状態です。そこで、これらを作製します。


#従来の小耳症手術法の欠点

  •     耳介フレームを覆うための皮膚の量が不足するために、深い耳甲介を作製したり、耳珠などの正常耳介にある構造をすべて再現していません。
  •     耳起こしをしても耳介を立った状態に固定するものが裏打ちの皮膚だけでは、弱く十分に起きてこない場合があります。
  •     第3段階で後から耳珠などを作っても、最初のフレームとの位置関係がうまくいかないことが多い。
  •       耳甲介を深くするために皮膚移植をしたりしますが、色調が違ってしまう。 


そうした問題の解決策が、実際には工夫されています。われわれも、そうした改良された手術法を実施しています。

組織拡張器併用法


こうした欠点をカバーすることもあり「ティシューエキスパンダー」(組織拡張器)を併用する小耳症手術も実施しています。

ティシューエキスパンダーとは、シリコン製の風船でまず第1段階の手術時に皮下に埋入しておきます。これに、注射用生理的食塩水を週に一回くらい注入して拡張させることで、耳介部の皮膚を伸展・拡大することができます。

第一段階:
9-10歳になり手術時期を迎えます。

5cmくらいの大きさのティシューエキスパンダーを耳介部皮下に埋め込みます。
このとき、変形した遺残軟骨を切除しておきます。この手術から2週間くらいおいて、外来で注入を始めます。約2から3ヶ月かけてゆっくりと注入を行います。

使用したエキスパンダーの大きさにもよりますが、65から90mlの注入が行われます。

第二段階:
肋軟骨を3本ほど採取し、耳では耳垂の移動と肋軟骨を埋め込むポケットを作製します。
ポケットはエキスパンダーを抜去すると薄く伸展したポケットがすでにできています。

採取した肋軟骨で、フレームベース、耳輪、対輪、耳珠を作ります。フレームの下側にも軟骨ブロックをつけて、最初から立った状態にします。また、かなり3次元的な耳介形態を考えて耳を作ります。
これをポケットに埋め込みます。持続吸引してみると、かなり耳介のらしい形をもった耳ができていることがわかります。

皮膚の拡張を行ったために、3次元耳介フレームがきれいに浮き出すことと、皮膚の量が増大しているために立体的なフレームを入れられるのが利点です。

第三段階:
耳介のおきかたが足りない部分については、半年くらいあけてから耳を起こす手術をします。

耳垂移動をこのときに行う場合もあります。