口蓋裂と哺乳の問題について

口蓋裂児の哺乳運動

赤ちゃんの哺乳

出生後に赤ちゃんが直面するおおきな変化の一つは、「哺乳」をしなければならないことでしょう。
子宮内では、臍帯をとおして親から栄養を得られました。しかし、出生後は自分でおっぱいを飲まなければならなくなります。

口蓋裂児では、哺乳障害がありますので、ふつうのほ乳瓶では巧く飲めません。
口蓋裂のない不全唇裂程度の裂隙であれば、母乳も直接のめる場合もあります。

口蓋裂用乳首について



ピジョン社のP型入手と、細口のスポイト型ほ乳瓶です。右図はP型の拡大図になります。
ピジョン社によると、P型乳首の特徴は以下の通りです。

★ 吸い穴は飲みやすいスリーカットなので、安定してミルク・果汁が出るので、吸う力が弱くてもスムーズに飲めます
★ 乳頭部分を大きくしているため口に密着しやすく、普通の乳首に比べラクに飲めます
★ スムーズに飲めるように通気弁を付け、飲んでいる途中で乳首がつぶれたり、ミルクの出が悪くなるのを防ぎます
★ 特殊ストッパー(中せん)付で、乳首の中のミルクが哺乳びんの方へ逆戻りするのを防ぎます

また、チュチュの口蓋裂用ほ乳瓶が、大阪大学歯学部で基礎研究されて発売され、類似の構造をもち、乳首内に弁をつけてものがP型になると思います。P型は東京歯科大学での哺乳研究に協力したピジョン社の製品です。このタイプが広く使用されているようです。

口蓋床を使っている児には、チュチュから口蓋床に適した乳首がでましたので、これを薦めます。

哺乳運動の解析


赤ちゃんがおっぱいを飲む機序は、あまり判っていませんでした。口の中でどの様に舌が動いているのか、また、顎の動きは関係あるのかなど、実際に検査する方法に乏しかったからです。
それでも、特殊なほ乳瓶で口腔内の圧力を計測したり、薄い造影剤をまぜたものを赤ちゃんに飲んで貰ってレントゲン映画撮影をする(ビデオが発明される前の研究)などもあります。

最近20年の医学の進歩で、超音波画像診断装置を使って、舌の動きをリアルタイムに観察したり、ほ乳瓶の底に内視鏡のカメラをつけて口腔内を撮影するなどの新たなテクノロジーが導入されて、かなり解明されてきました。

健康な乳児の哺乳運動は、その主体は舌の運動によります。
狭い口腔内で舌と口蓋との間で陰圧が生じる。そして、乳汁の「圧出」と「吸引」が行われることが近年明らかにされてきました。

つい最近までは、顎の運動で圧出して、そのあと吸引するなどと言われていましたが、舌の運動が主体であるというのが事実です。

このとき舌は、前後に大きく動くことはなく、舌の筋肉が波状運動をすることで、舌そのものを動かすことなく口からのどの奥の方に向かって効率よく、乳首を圧迫することができるのです。

舌小帯という舌のしたのひだがつっぱている子は、哺乳が出来ないから早く切らねばならない、などという時代がありましたが、この舌運動の原理が判っていれば、多少の舌小帯の短縮で哺乳障害にならないことは明らかです。
とはいえ、舌小帯の引きつれを放置してよいわけではありません。


舌は下歯槽堤を越え,乳首を硬口蓋へ押しつける.乳首周囲に空隙無し

舌尖手前から起きた波が舌根へ移動する.舌の位置は変わらない

さらに波の山は後方へ移動する 舌根と軟口蓋は接している

波が舌根まで行くと舌根に陥凹が生じ 前向きの波(谷)として舌尖に移動する

乳首が口蓋と舌で包みこまれた状態で舌根が下がるとき,負の吸啜圧が生ずる

陰圧(負の吸啜圧)で乳汁が口腔に吸い出される

口蓋裂児の哺乳運動


われわれが、昭和大学で研究したところ

    * 口蓋披裂の存在により,乳頭・乳首を硬口蓋へ押しつけることができない.披裂に乳首が嵌入する.
    * 舌と頬粘膜,口蓋の間に乳頭を密着して包み込み,次いで舌根部が下がるとき陰圧(吸啜圧)が生じるが,披裂のため十分な陰圧形成ができない.したがって、舌の上下運動が大きいことが観察されたが、これは陰圧がうまく作れないための代償性の運動と思われる 

このようなことが、確認できました。


透明なシリコン乳首からの画像です。顎裂(歯ぐき部の裂)に乳首がはまり込んでいます。
顎裂の上は口蓋裂になっていますので、ここにはまってしまっては舌で圧迫がうまく行えないことがわかります。

哺乳床とよばれる口蓋床(ホッツ床)をはめると、こうした舌の口蓋裂部への嵌入が予防できます。

また、ホッツ床に慣れた口蓋裂の赤ちゃんの舌の動きを超音波装置(エコー)で観察してみると、かなり、正常なこどもの哺乳時の舌運動に似てくることもわかりました。