本研究会は,急性期および慢性期血液浄化療法に関した心不全治療について,新しい観点から腎不全患者の生命予後を改善する方策の研究ならびに治療を考える会として,全国の血液浄化医療に携わる医療関係者を対象に,研究および医療の進歩発展を願って開催するものです。
現在,血液透析患者の5年生存率は2008年透析医学会統計では60%です。
このことは,血液浄化療法の技術ならびに医療機器の進歩に担うところは大きく,今後さらなる進化が期待できるところです。
その一方で,本邦死因のトップを占める癌の多くが5年生存率60%を超えるようになってきていることと比較すると,血液透析患者の生命予後の改善は,技術
的な進歩のわりには,必ずしも向上しているとは言えない状況であろうかと思います。
慢性期血液透析患者の死因は統計開始以来,常時心不全がトップですが,糖尿病性腎症の頻度が増加をたどる昨今,生命予後向上に心不全治療は必須課題であ
ると考えます。 特に糖尿病性腎症による重症心不全患者の治療指針については十分な戦略が必要であることは言うまでもありません。
現在,AVシャントによる過剰心負荷は20%以上の心拍出量の増加とされており,心臓予備能力や心事故発生頻度を反映した指標とはなっていません。
AVシャントを有する慢性期血液浄化患者の心不全は通常の慢性心不全と同様に扱われており,EF<40%を目安に考えられています。
しかしながらEF>40%であっても心不全病態は存在し,予後を反映した過剰心負荷の評価方法について再考して,加療しなければならない時に来ていると考えられます。
我々のこれまでの慢性期血液浄化療法中の心不全患者への研究ならびに治療介入では,生命予後を反映する心臓バイオマーカーBNP値が高値症例のAVシャントを閉鎖し,上腕動脈ジャンピングバイパス(Brachial Artery Jumping Bypass Grafting ;
BAJBG)に変更することによって,BNP値の著明な改善が認められることが解ってきました。
慢性期の患者にとってAVシャントは,第2の生命線と言われますが,AVシャントの存在自体が心不全を悪化させている可能性は否定できないと考えられます。
同様に急性期腎機能障害の改善と心不全の改善には,急性血液浄化は必須の療法ですが,急性期血液浄化療法での心不全治療について集学的な治療指針が示さ
れている訳ではなく,今後さらに詳細な治療指針の研究が必要です。
急性期から慢性期血液浄化に移行するまでの心機能と心臓予備能力の判定方法について,新しい評価基準を制定することで,より良い血液浄化療法と腎不全患者
の心不全治療を行い, 血液浄化療法における生命予後の改善を目指す研究会として,本会を2010年9月に発足いたしました。
血液浄化心不全研究会 事務局 鵜川豊世武