後藤あや
福島県立医科大学総合科学教育研究センター 医学研究科国際地域保健学
車輪はつながって連動している。健康危機に直面した「緊急時」の情報伝達は難しく、「平時」から「住民」と 「専門家」で情報を伝え・使う協働が大切である。さらにパンデミックのような世界的な健康危機に対して、「国 内」と「国外」の関係者が連携してヘルスリテラシーを推進する必要がある、といった具合である。本講演では、 福島の原発事故後にはじめたヘルスリテラシーの理念を実践する取り組みが、専門家へのアプローチから住民へ のアプローチへと、また、国内から国外へと展開してき過程を紹介した。福島の原発事故後、保健医療従事者はイ ンフ ォデミックの課題に直面した。そこで、保健医療従事者向けのヘルスリテラシー研修を企画・実施して、その 中長期評価から参加者のコミュニケーションの向上を確認し、現在では医学や看護学の学部教育の一環や、海外 専門家の研修でも実施している。また、地域での次世代のヘルスリテラシーの醸成として、児童参加型の学校保健 教育「クリエイティブヘルス」を展開している。クリエイティブヘルスとは、創造性の高い活動を通して対象者の 主体的な問題解決を促す健康教育手法である。この授業を体験した生徒は、自分の健康や地域の見方がよりポジ ティブにな り、教員は生徒の主体性を再認識した。この活動はアジアやアフリカの国々でも展開している。
菊地真実1)、松村真司2)3)、尾藤誠司3)
1) 帝京平成 大学 薬学部
2) 松村医院
3) 国立病院機構東京医療センター臨床疫学研究室
近年医療現場 において、 Shared Decision Making(SDM)の概念が広まりつつある。現代社会において医療情報源が多様 化しているが、 SDMプロセスにおいてこれらの医療情報源と患者との関係性については不明である。そこで本研究 は、医療における意思決定の経験を持つ 20名を対象に半構造化 インタビュー を行い、意思決定に至る経験を尋ね、 医療情報源が多様化する現代社会における患者の意思決定プロセスについて質的分析によりモデル化を試みた。対象 者の疾患は、限定しなかった。逐語録を作成し、患者と医療情報源とのやりとりに着目し て分析を行った。分析の結 果 、 患者 の 医療情報入手 チャネルを 想定 し 、 その 開閉状態 により 、[ Ⅰ:医師 に 開 く ][ Ⅱ:近 しい 人 に 開 く ][ Ⅲ:医師 に 閉 じる ][ Ⅳ:周囲 に 開 く ] という 4 つの 医療 における 意思決定 プロセスモデルを 導 いた 。 医療情報入手 チャネルの 開閉 の状態が、意思決定のプロセスに影響を与え、さらに情報の内容以上に医療情報源となる「人」との関係性の影響が 大きいことが示された。医療者は、情報入手チャネルの特性とその状態を理解した上で、患者の意思決定を支援する ことが SDMプロセスには重要であることが示唆された。
山口亜希子1)、石井豊恵1)、福重春菜1)、赤田いづみ2)、三谷理恵1)、伊藤朗子1)、 菅彩香1)、中嶋章仁1)、山田聡子3)、有馬洋子4)
1)神戸大学大学院保健学研究科 看護学領域
2)山口大学大学院医学系研究科 保健学専攻 看護学領域
3)医療法人愛心会東宝塚さとう病院 看護部
4)医療法人川崎病院 看護部
目的:集中治療領域の人工呼吸器装着患者が開始したコミュニケーション場面において、看護師が患者メッセージ内容を理解するために要した時間及び理解したメッセージ内容を明らかにした。 方法:ICU、CCU、HCUで治療を受けた人工呼吸器装着患者7名とその患者の日勤担当看護師7名を対象に、患者-看護師間コミュニケーション場面をビデオで録画した。得られた録画データから患者が開始したコミュニケーション場面を抽出し、それらの場面で看護師が理解したメッセージ内容と理解に要した時間を記述的に分析した。 結果:総録画時間は668.0分であった。録画記録から36の患者が開始したコミュニケーション場面を抽出した。36場面中30場面で看護師は患者メッセージを理解した。看護師は、「痛み(n=7)」や「質問(n=5)」や「家に帰りたい(n=2)」といった内容を理解していた。患者のメッセージ内容の理解に要した時間は、「家に帰りたい」が195.2秒と最も長く、「痛み(喉の痛み)」は3.6秒で最も短かった。 結論:患者は苦痛症状や個人的懸念事項を能動的に伝えるが、看護師は患者の個人的懸念事項の理解には時間がかかる。
會田信子1)、松井瞳 2)、山崎浩司 3)、伊澤 淳 1)
1)信州大学学術研究院保健学系
2)労災サポートセンター関東労災年金支援センター
3)静岡社会健康医学大学院大学
協同学習中のパフォーマンス自己評価 尺度高等教育機関学生版( CoopSR 尺度)を 開発 し、信頼性 ・ 妥当性を検証した。 対象は、 大学院を除く日本の高等教育機関に在籍する学生 で、 ウェブ調査で実施した。本調査の分析対象は 568 名 で、 2 回の予備調査で作成した CoopSR 尺度(対人反応性傾向と活動統制傾向)の各因子のα信頼性係数は 0.805~ 0.914 、ω係数 0.801~0.914 だった。最終的な因子構造は、対人反応性傾向は 3 因子【自己優先】【他者優先】【アサ ーティブ】、活動統制傾向は 2 因子【活動指向性】【状態指向性】で、 GFI0.869~0.891 、 AGFI0.852~0.853 、 CFI0.879~ 0.881 だった。既存尺度・外的基準との有意な弱い~強い相関関係が確認され、また再検査法の級内相関係数は 0.642~0.825 (p<0.0001)だった。以上より、 CoopSR 尺度の信頼性・妥当性が確認された。
江崎ひなた1)、 前田慶明 1)、 小宮諒 1)、 福井一輝2)、 堤省吾1)、 金田和輝1)、 水田良実1)、 浦辺幸夫1)
1) 広島大学大学院医系科学研究科スポーツリハビリテーション学研究室
2) 一般社団法人日本パラバドミントン連盟
近年、大学生の 99.9%はスマートフォンを所持し、スクリーンタイムも2013年と比較して2020年には 約200分増加している。さらに、スクリーンタイムは運動習慣があると短く、休日に長くなることが指摘されている。本研究の目的は、大学新入生の運動習慣と夏季休暇がスマートフォンのスクリーンタイムや依存度に及ぼす影響を明らかにすることである。国内の新入生1,500名を対象に、アンケ-ト調査を夏季休暇前、中、後の3回行った。運動習慣、3つのスクリーンタイム(総合、エンターテイメント、Social Networking Service)を聴取した 。最終的な回答は176名 で、運動習慣あり群が101名、運動習慣なし群が75名であった。エンターテイメントスクリーンタイムのみに交互 作用を認めた。エンターテインメントスクリーンタイムは、夏季休暇中で運動習慣なし群より運動習慣あり群で80.7分短かった。運動習慣なし群において、休暇前より休暇中で54.9分、休暇後で24.6分それぞれ長くなった。これらの結果は、運動習慣の必要性を示し、その形成に役立つ可能性がある。
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