尿素サイクル異常症概説
(Urea Cycle Disorders Overview)

GeneReviews著者: Nicholas Ah Mew, MD, Brendan C Lanpher, MD, Andrea Gropman, MD, Kimberly A Chapman, MD, PhD, Kara L Simpson, MS, CGC, Urea Cycle Disorders Consortium, and Marshall L Summar, MD.
日本語訳者: 江田 肖(瀬戸病院遺伝診療科),櫻井晃洋(札幌医科大学附属病院遺伝子診療室)

GeneReviews最終更新日:  2015.4.9. 終更新日: 2016.10.16.

原文 Urea Cycle Disorders Overview


要約

疾患の特徴 

尿素サイクル異常症(urea cycle disorders; UCD)の原因は,タンパク質や窒素原子を含む分子の分解により生成される,余剰窒素の代謝機能障害である。尿素サイクルの最初の4つの反応に関与する酵素(CPSI,OTC,ASS,ASL)のいずれか,もしくは補 因子生成酵素(NAGS)の重度な欠損や完全 な喪失により,生後数日中にアンモニアや代謝前駆体の蓄積が生じる。重度な尿素サイクル異常症の新生児は,出生時には正常 だが,その後急速に 脳浮腫及びそれに伴う嗜眠, 哺乳障害,過換気または低換気,低体温,痙攣,神経学的異常姿勢,昏睡を発症する。より軽度な(もしくは部分的な)尿素サイクルに関与する酵素の欠損およびアルギナーゼ(ARG)の欠損では、生涯にわたって、ほかの病気やストレスによって、アンモニア蓄積が誘発される可能性がある。これらの疾患において、血中アンモニア濃度の上昇および関連症状は軽微であるため、生後数ヶ月もしくは数年を経過した後,初めて症状を認めることもありうる。

診断・検査 

尿素サイクル異常症の診断は,臨床的,生化学的,分子遺伝学的検査に基づく。血漿アンモニア濃度が150μmol/Lを超え,アニオンギャップおよび血糖値が正常である場合,尿素サイクル異常症を強く疑う。血漿アミノ酸定量分析が特定の尿素サイクル異常症の鑑別診断に用いられる。尿素サイクル異常症の確定診断は、分子遺伝学的検査もしくは酵素活性測定によって行われる。すべての尿素サイクル異常症は分子遺伝学的検査による診断が可能である。

臨床的マネジメント 

対症療法: 重度な急性高アンモニア血症:血漿アンモニア濃度の降下を目的とする透析および血液濾過、迂回代謝経路による余剰窒素排出を目的としたアルギニン塩酸塩や窒素除去剤の経静脈投与、体内窒素量減少を目的とした24~48時間のタンパク質制限、炭水化物と脂質によるカロリー補給、水分過剰を予防するには、静脈内輸液および心臓昇圧剤を投与し、生理学的安定を保つ。

初期症状の予防: 長期的マネジメント:高アンモニア血症を予防するためのタンパク質制限食、特別な調合乳の使用、経口窒素除去剤の使用。

二次合併症の予防: 呼吸器系と消化器系疾患のリスクを最小限に抑えるために、定期的予防接種、マルチビタミンとフッ化物の補給、および適切に消毒剤を使用すること。

経過観察: 代謝異常症の治療経験のある医師による定期 診察。

回避すべき薬剤/環境: バルプロ酸(Depakote)、長期的絶食や飢餓状態、ステロイドの静脈内投与、大量なタンパク質やアミノ酸の急速投与。

リスクのある血縁者における評価: リスクのある血縁者を発症前に診断することは、食事制限やほかの処置によって、高アンモニア血症の予防につながる。

遺伝カウンセリング 

CPS1欠損症・ASS1欠損症・ASL欠損症・NAGS欠損症・ARG欠損症は常染色体劣性遺伝形式をとる。OTC欠損症はX連鎖の遺伝形式をとる。家系内の病的変異が事前に同定されていれば、患者の血縁者に 対する保因者 診断、またはリスクのある妊娠における出生前診断は、可能である。


疾患の定義

尿素サイクルは

尿素サイクルは下記(図1)から構成される。

fig1

図1 尿素サイクル(鑑別診断の項を参照)

尿素サイクル異常は、尿素サイクルに働く6つの酵素(CPS1, OTC, ASS1, ASL, ARGおよびNAGS)のいずかに先天的欠損が原因である。
尿素サイクルには2つのトランスポーターも関与する(詳細は鑑別診断の項)。これらのトランスポーターに異常がある場合、高アンモニア血症が生じる。

特定の尿素サイクル異常症(触媒作用を持つ酵素の異常)

NAGS欠損症 いくつかのNAGS欠損による罹患者の報告がある 。NAGSを欠損すると、CPS1は不活化状態のままであるため、NAGS欠損症の症状はCPS1欠損症に類似する[Caldovic et al 2003]。

カルバミルリン酸シンターゼI欠損症(CPS1欠損症) CPS1欠損症は尿素サイクル異常症において、最も重篤である。CPS1完全欠損の場合、新生児期に急速に高アンモニア血症を発症する。救命された小児は慢性的高アンモニア血症を繰り返すリスクを伴う。

オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症(OTC欠損症) 男性におけるOTC欠損症はCPS1欠損症と同様に重篤である。女性保因者の約15%は生涯にわたって高アンモニア血症を発症し,その多くは長期的医療管理が必要とされる。最近では、明らかな高アンモニア血症のない女性保因者に も脳の実行機能障害 が確認されている。

I型シトルリン血症(ASS1欠損症) ASS1欠損症による高アンモニア血症は極めて重篤である。ASS1欠損症の患者は,一部の余剰窒素を尿素サイクルの中間生成物へ組み入れることができるため、ほかの尿素サイクル異常症より治療が若干容易である。

アルギニノコハク酸尿症(ASL欠損症) ASL欠損症は新生児期に急性高アンモニア血症を発症する。ASL欠損は、全ての余剰窒素が尿素サイクルに取り組まれた後に起きる。一部の患者は慢性肝腫大とトランスミラーゼ高値を生じる。肝生検では、腫大した肝細胞が見られ、時間が経過すると、線維 化 をきたすこともある。しかし、これらの原因は不明である。長期昏睡状態を経験しなかった患者でも、顕著な発達障害を合併すると報告されている[Summar 2001, Summar & Tuchman 2001, Nagamani et al 2012]。

アルギナーゼ欠損症(高アルギニン血症;ARG欠損症) ARG欠損症は通常急性高アンモニア血症を発症しない。しかし、一部の早期発症の患者はより重度な症状が見られる[Jain-Ghai et al 2011]。患者は進行性痙攣に加え,振戦・運動失調・舞踏病アテトーゼが見られ、成長にも影響される[Cederbaum et al 2004]。

尿素サイクル異常症の臨床所見

尿素サイクル異常症の重症度は、異常酵素の代謝経路における場所および酵素欠損の程度に左右される。

酵素の重度な欠損もしくは完全喪失 尿素サイクルにおける最初の4つの酵素(CPS1, OTC, ASS1およびASL)または 補因子(NAGS)の重度な欠損もしくは完全 喪失は、生後数日の間にアンモニアやほかの代謝前駆体の蓄積を引き起こす。

アンモニアを除去するための代替経路がないため、完全な尿素サイクル異常は急速なアンモニア蓄積および関連症状をもたらす。新生児の肝機能は未熟であるため、尿素サイクル異常が強く現れる。酵素完全欠損の患者は通常新生児期に完成した臨床像が見られる [Pearson et al 2001, Summar 2001, Summar & Tuchman 2001]。尿素サイクル異常の新生児は出生時に正常に見えるが、その後急速に脳浮腫や嗜眠、 哺乳障害、過換気または低換気、低体温症、発作、神経学的姿勢、および昏睡などの関連症状が現れる。

新生児は通常出生1~2日後に退院するため、尿素サイクル異常は自宅に戻ってから発症し、家族や主治医はすぐに気付かない場合がある。また、哺乳障害、低い深部体温 を伴う体温調節機能の喪失および傾眠のような高アンモニア血症による初期症状は小児において非特異的である[Summar 2001]。

症状は傾眠から無気力と昏睡に進行する。異常な姿勢と脳症の多くは中枢神経系の腫大と脳幹圧力の程度に影響される[Summar 2001]。高アンモニア血症の新生児の約50%は発作を伴うが、明白な臨床症状を認められない場合もある。頭蓋縫合が 閉鎖した患者は、アンモニア上昇が原因とする脳浮腫による急速な神経機能低下のリスクが高い。脳幹に影響を及ぼす高アンモニア血症に続き、過換気は高アンモニア血症の発症初期に良く見られ、その結果、呼吸器系アルカローシスになる。脳幹圧力の上昇によって、過換気と呼吸停止が起きる。

迅速な診断と治療によって、高アンモニア血症新生児の予後はここ数十年に劇的に改善された[Summar 2001, Summar & Tuchman 2001, Enns et al [2007] (full text), Summar et al [2008], Tuchman et al [2008], and Krivitzky et al [2009]]。しかし、高アンモニア血症は患者の知的発達 に影響する唯一の 要因ではない。特異的に、ASL欠損症の患者は高アンモニア血症による知的障害は見られる[Ah Mew et al 2013].

軽度(または部分的)尿素サイクル酵素欠損 において、アンモニアの蓄積は生涯にわたって、病気や手術、長期絶食、休暇中もしくは周産期などのストレスによって誘発され、血中アンモニア濃度の上昇をもたらす。軽度な患者において、高アンモニア血症は通常、それほど重篤ではなく、症状も新生児期に発症する尿素サイクル異常症の患者より軽度である。酵素部分欠損の患者において、最初に確認される臨床的エピソードは数ケ月または数年遅れることがある。臨床症状は特定の尿素サイクル異常症と多少異なるが、高アンモニア血症のほとんどは、食欲不振、嘔吐、嗜眠および行動異常に特徴を付けられる[Gardeitchik et al 2012]。睡眠障害、妄想、幻覚および精神症状が生じることもある。脳波(徐波

EEGパターンは高アンモニア血症の期間中に見られ、その後、MRIで特異的脳萎縮を認められる。
尿素サイクルの最後の酵素欠損(ARG) ARG欠損症による高アルギニン血症は比較的に軽度であるが、神経学的症状を伴う。また、新生児の高アンモニア血症の報告もある(アルギナーゼ異常症の項を参照 )。

尿素サイクル異常症の神経学的側面 アンモニアは 種々の 機序、主に脳浮腫 を介して脳損傷を引き起こす。脳浮腫におけるアンモニア、グルタミン酸およびグルタミンの具体的な働きはまだ研究中であるが、脳内のアクアポリン系および、水とカリウムの恒常性に影響すると考えられている[Lichter-Konecki 2008, Lichter-Konecki et al 2008, Albrecht et al 2010]。

乳幼児期 の急性高アンモニア血症による損傷は、低酸素虚血性発作または脳卒中に類似する。一般的に、ラクナ梗塞および白質破壊 がよく見られる。

慢性高アンモニア血症はイオン濃度や神経伝達物質、代謝物の輸送、ミトコンドリア機能およびα‐ケトグルタル酸/グルタミン酸/グルタミン比における異常を引き起こす。

痙攣発作は急性高アンモニア血症ではよく見られ、脳損傷から生じ る。最近の知見によれば、無症候性の発作は急性高アンモニア血症に一般的であり、これらによる脳代謝に及ぼす影響 に注意すべきである。(注: CPS1機能を影響するバルプロ酸は避けるべきである。マネジメント、回避すべき薬剤/環境の項を参照 )。

新しい神経画像技術は非侵襲的に、神経損傷のタイミング、程度、回復可能性と推定機序に関する情報を提示し、臨床的および神経認知転帰を予測するための補助材料として使用できる[Gropman 2010, Bireley et al 2012, Gunz et al 2013]。

一般的な神経画像の限界:

磁気共鳴分光法(MRS)、拡散テンソル画像(DTI)および機能的磁気共鳴画像(fMRI)のような高度な画像解析は、損傷のパターンや種類に関する追加情報の詳細を提供し、尿素サイクル異常症に見られる様々な神経学的問題を明らかにする。

歴史的に、高アンモニア血症新生児の予後は悪いと考えられていた[Brusilow 1995]。しかし、新しいプロトコルで治療を受けた患者を対象としたNIH主催の縦断的研究からの最近のデータでは、患者IQはそれほど深刻ではない範囲にあった。

表1. 尿素サイクル異常症の3~16歳児の認知と適応

  年齢群 3~5歳 6~16歳
発症年齢 新生児期1
(n=5)
遅発性2
(n=7)
新生児期1
(n=8)
遅発性2
(n=39)
  WASI/WPPSI-III3複合スコア4(SD)
評価 ・言語性IQ 81.3 (16.6) 101.7 (24.4) 72.9 (14.3) 94.3 (21.7)
・実行性IQ 77.7 (15.0) 95.6 (17.4) 74.4 (11.7) 89.5 (20.4)
・総合性IQ 77.7 (16.3) 99.6 (22.6) 71.4 (12.8) 94.1 (22.0)
ABAS-II5一般的な適応複合4(SD)
  73.2 (31.2) 91.4 (23.6) 66.0 (17.9) 84.4 (21.6)

Krivitzky et al [2009]より

  1. 生後1ヵ月以内に発症
  2. 生後1ヵ月以降の発症もしくは家族歴による診断
  3. Wechsler Abbreviated Scales of Intelligence / Wechsler Preschool and Primary Scale of Intelligence, 3rd Edition
  4. 認知および適応における群別に臨床的有意差
  5. Adaptive Behavior Assessment System, 2nd Edition

高アンモニア血症は尿素サイクル異常症における脳損傷の主な原因と考えられているが、一酸化窒素産生系への悪影響なども関与する可能性がある[Nagamani et al 2012]。その例として 、CPS1欠損症やOTC欠損症の新生児の高アンモニア血症はASS欠損症やASL欠損症より重度であるにもかかわらず、知的発達は同程度である[Ah Mew et al 2013]。

尿素サイクル異常症の確定診断

症状のある患者にお ける本症の診断は、臨床的、生化学的および分子遺伝学的データに基づく。

家族歴

神経学的徴候と本症を示唆する症状を持つ血縁者(特に子ども)に注意し、3世代の家族歴を聴取すべきである。血縁者に関連する情報は、それらの血縁者を直接に検査するか、もしくは生化学的検査、分子遺伝学的検査および検死結果を含む医療記録を参照することによって、入手する。X連鎖遺伝形式の家族歴はOTC欠損症を示唆する。
身体検査 身体検査では、6つの尿素サイクル異常症の特徴を見られなくても、結節性裂毛症はASL欠損症、下肢の進行性痙縮はアルギナーゼ欠損症を示唆する所見である。

検査                                          

図2の手順は高アンモニア血症新生児の診断の参考となる。血漿アンモニア濃度が150µmol/Lを超え,アニオンギャップ・血中グルコース濃度が正常な場合,UCDを強く疑う[Summar & Tuchman 2001]。

図2.高アンモニア血症の新生児における診断手順

fig2

図3特定の尿素サイクル異常症を鑑別するための推奨診断検査である。

fig3

血清アンモニア濃度の上昇は、ほとんどの尿素サイクル異常症において、最初に確認される異常値である。

血漿アミノ酸定量分析 は、 暫定診断に至るために使用される。(肝臓が完全に成熟していないため、新生児はたいてい小児や成人の患者と異なったアミノ酸濃度を呈する。)

尿中オロト酸の測定はCPSI欠損症とOTC欠損症の鑑別に利用される。尿中オロト酸はOTC欠損症では顕著に上昇し,CPSI欠損症では正常値または低値である。

注:尿中オロト酸排泄はアルギニン血症(ARG欠損症)とシトルリン血症I型(ASS欠損症)においても上昇することがある.

分子遺伝学的検査 は6つの尿素サイクル異常症の診断、保因者検査および出生前診断に利用される(表2を参照)。分子遺伝学的検査は酵素活性測定に代わって、確定診断の検査となっている。

表2
尿素サイクル異常症:分子遺伝学的情報

疾患名 遺伝子 タンパク名 OMIMでのリンク
カルバミルリン酸シンターゼI 欠損症 CPS1 カルバミルリン酸シンターゼ
  • 608307
  • 237300
  • オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症 OTC オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ
  • 300461
  • 311250
  • ASS欠損症
    (シトルリン血症1型)
    ASS1 アルギニノコハク酸シンターゼ
  • 603470
  • 215700
  • ASL欠損症
    (アルギニノコハク酸尿症)
    ASL アルギニノコハク酸リアーゼ
  • 608310
  • 207900
  • アルギナーゼ欠損症 ARG1 アルギナーゼ-1
  • 608313
  • 207800
  • NAGS欠損症 NAGS N-アセチルグルタミン酸シンターゼ
  • 608300
  • 237310
  • 酵素活性 分子学的検査から有用な情報を得られなかった場合、下記の疾患は酵素活性測定 によって診断できる。

    1. CPS1欠損症、OTC欠損症もしくはNAGS欠損症:肝生検
    2. ARG欠損症:赤血球
    3. ASS1欠損症およびASL欠損症: 線維芽細胞

    新生児スクリーニング                  

    項目が拡大した最近のタンデム質量分析法 による 新生児スクリーニングパネルは、ASS1欠損症、ASL欠損症およびアルギナーゼ欠損症による濃度異常を検出できる。しかしながら、これらの疾患におけるスクリーニング検査の感度と特異度は不明である。一部の新生児スクリーニング検査プログラムは、OTC欠損症および上流尿素サイクル異常症の適用を検討している。

    尿素サイクル異常症の新生児スクリーニング検査に関する注意事項:


    鑑別診断

    ほかに、肝機能障害を伴う多くの疾患においても高アンモニア血症が発症し,その症状は尿素サイクル異常症と類似する。最も頻度が高くかつ重要な鑑別疾患としては,肝臓のウイルス感染と(肝硬変による)血管短絡がある。

    肝臓および胆道疾患

    薬剤

    先天性代謝異常

    頻度

    尿素サイクル異常症の頻度は少なくとも35,000出生あたり1人と推定される。部分的(酵素活性)欠損はさらに多いとも考えられる.

    表3 尿素サイクル異常症の推定頻度

    尿素サイクル異常症 推定頻度
    NAGS欠損症 >1 :2,000,000
    CPS1欠損症 >1:1,300,000
    OTC欠損症 >1:56,500
    ASS1欠損症 >1:250,000
    ASL欠損症 >1:218,750
    ARG欠損症 >1:950,000

    Summar et al [2013]


    遺伝カウンセリング

    「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

    遺伝形式

    CPSI欠損症・ASS欠損症・ASL欠損症・NAGS欠損症・ARG欠損症は常染色体劣性の遺伝形式、OTC欠損症はX連鎖の遺伝形式をとる。

    血縁者のリスク-常染色体劣性遺伝形式

    発端者の両親

    発端者の同胞 

    発端者の子

    血縁者のリスク-X連鎖遺伝形式

    男性発端者の両親

    女性発端者の両親

    発端者の同胞 発端者同胞のリスクはその両親の遺伝学的情報に基づく。

    両親のいずれかから変異アレルを受け継いだ場合、男性は発症するが、女性は発症するもしくは発症しない、両方の可能性がある(女性発端者の子の項を参照)。

    男性発端者の子

    女性発端者の子

    ほかの血縁者 発端者の母方叔母(伯母)はOTC病的変異を持っている可能性があり、彼女(達)の子は性別によって、変異アレルを受け継ぎ、発症するリスクがある。

    保因者診断

    分子遺伝学的検査 家系内におけるOTC病的変異が同定されていれば、分子遺伝学的検査による保因者検査は可能である。

    家系内におけるOTC病的変異が同定されていなければ、リスクのある女性血縁者の保因者情報を得るために連鎖解析は有用である。

    注:分子遺伝学的検査は、新規突然変異によるOTC病的変異の発端者を確認することができる。検査から得た情報は、ほかの血縁者の遺伝学的リスクを決定するには有用である。

    アロプリノール負荷 家系内おけるOTC病的変異が同定できない場合、アロプリノール負荷試験(OTC欠損症の章の中に、診断の項を参照)は女性血縁者がヘテロ接合体であるかどうかを決定するには有用である。

    遺伝カウンセリングに関連した問題

    早期な診断と治療を目的とし、リスクのある血縁者を評価するための情報を得るには、マネジメントとリスクのある血縁者における評価の項を参照すること。

    OTC欠損症

    家族計画

    DNAバンク

    」DNAバンクは主に白血球から調製したDNAを将来の使用のために保存しておくものである。検査法や遺伝子,変異あるいは疾患に対するわれわれの理解が進歩するため,罹患者のDNAを保存することは考慮すべきかもしれない。
    出生前診断と着床前遺伝子診断

    分子遺伝学的検査

    家系内罹患者における病的変異が同定されていれば、リスクのある妊娠における出生前検査、または着床前遺伝子診断は選択肢として可能である。

    家系内における病的変異が分子遺伝学的検査で同定されていなければ、連鎖解析を考慮する。


    リソース


    臨床的マネジメント

    初診後の評価

    尿素サイクル異常症患者の疾患の範囲および治療のニーズを確立するために、下記の評価方法 が推奨されている。

    尿素サイクル異常症患者おける疾患の程度は、神経症状発症の速さ、脳 への影響の度合および血清アンモニア濃度の範囲によって推測することができる。

    症状に対する治療

    急性症状に対する治療

    診断 が確定した後の治療は,それぞれの尿素サイクル異常症に合わせて行うべきである[Summar 2001 (full text), Summar & Tuchman 2001 (full text)]。新生児に対する治療は専門施設の代謝専門医と協力しチーム体制で行うべきである。急性期の治療は以下のものが主流である。

    余剰窒素を迂回代謝経路により排出させる薬理学的治療法(表4を参照) 

    血漿アンモニア濃度を正常な生理的レベルまで 迅速 に降下させる 血中アンモニア濃度の上昇による毒性を考えると、確定診断がなくても、早急に正常値までの降下 が必要である。血漿アンモニア濃度を迅速に下降させるための最善策は透析である。ほかの方法は患者の状態と医療環境によるが、一般的には、個々の患者にとって最善な選択肢は、治療チームが最も熟知し、且つ最も早く提供できる方法である。

    表4 静脈内アンモニア除去治療の手順

    疾患 患者
    体重
    輸液成分 用量 投与
    フェニル酢酸ナトリウム
    & 安息香酸ナトリウム1,2
    アルギニン塩酸注入
    10%2
    フェニル酢酸ナトリウム 安息香酸
    ナトリウム
    アルギニン塩酸
    CPS & OTC 0-20 kg 2.5 mL/kg 2.0 mL/kg 250 mg/kg 250 mg/kg 200 mg/kg 負荷量3
    維持量4
    ASS & ASL <2.5 mL/kg <6.0 mL/kg <250 mg/kg <250 mg/kg <600 mg/kg
    CPS & OTC >20 kg 55 mL/m2 2.0 mL/kg 5.5 g/m2 5.5 g/m2 <4000 mg/m2
    ASS & ASL 55 mL/m2 6.0 mL/kg 5.5 g/m2 5.5 g/m2 12000 mg/m2
    1. 投与前に、フェニル酢酸ナトリウム/安息香酸ナトリウムを滅菌ブドウ糖で10%に希釈しなければならない。
    2. 希釈前
    3. >90-120分
    4. >24時間、アルギニン注射は150mg/kg/hを超えない

    炭水化物、脂肪および必須アミノ酸によるカロリー代謝 透析または血液濾過を受けている患者において、経腸栄養の過剰投与を避けながら、異化状態を解決するために、以下の栄養サポートを導入する必要がある。 

    神経学的障害のリスクの低減 

    臨床症状の長期治療

    窒素負荷の減少を目的とするタンパク質制限。

    窒素除去剤の使用 は窒素処理の代替ルートを提供する。

    フェニル酪酸はフェニル酢酸ナトリウムとグリセロールフェニル酪酸の両方から得られるが、グリセロールフェニル酪酸の ほうが味が良いため、経口摂取の患者に好まれる [Diaz et al 2013Smith et al 2013]。

    シトルリンやアルギニンの迅速な補充 は欠損酵素が上流または下流にあるかによって、必要となる場合がある。尿素サイクル上流の酵素欠損症は、最初に200mg/kgのアルギニンを静注し(表4を参照)、血漿アルギニン濃度を75パーセンタイルに維持できるように調整する。注:これらの化合物は主に腸から排出されるため、アルギニンまたはシトルリンのいずれかは肝移植後でも必要とされる場合がある。

    カルバミルグルタミン酸 (Carbaglu®) はNAGS欠損症および治療反応性のあるCPS1欠損症の患者において、CPS1酵素を正常もしくは正常に近い機能まで改善できる。

    肝移植

    初期症状の予防

    高アンモニア血症を予防するには、タンパク制限食、特別な経口調合乳の使用と、窒素除去薬剤を経口投与と同時に必須アミノ酸を注意深く補充することが中心となる(臨床症状の治療の項を参照)。

    二次合併症の予防

    過度なタンパク/アミノ酸制限は、アンモニアの再蓄積および成長不良を引き起こす主な原因である[著者の個人的な意見]。胃瘻管栄養は、タンパクの摂取量を自己制限する患者における栄養不良を回避するために役立つ。

    その他

    サーベイランス

    以下の措置は適切である。

    回避すべき物質と環境

    以下は回避または使用禁忌とされるべきである。

    リスクのある血縁者における評価

    罹患者の血縁者に対し、できるだけ早期に診断をするために(症状が現れる前に)、食事療法などの措置による迅速な介入によって、高アンモニア血症の予防に繋がるとのメリットから、罹患者の血縁者に評価することは適切である。

    遺伝カウンセリングを目的とするリスクのある血縁者に関する問題は遺伝カウンセリングの項を参照する。

    研究中の治療法

    NIHが資金を提供する尿素サイクル異常症コンソーシアムは、専門家による診断、尿素サイクル異常症の治療および臨床的・治療的研究を行っている。

    広範囲な疾患の臨床試験に関する情報はClinicalTrials.govを参照する。

    その他

    マンニトールは尿素サイクル異常症関連脳浮腫の治療に効果がないと考えられている。


    更新履歴

    1. Gene Review著者:Marshall L Summar, MD
      日本語訳者:山口悠(信州大学医学部医学科),櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)
      GeneReview最終更新日:2005.8.11 日本語訳最終更新日:2007.7.11
    2. GeneReviews著者: Nicholas Ah Mew, MD, Brendan C Lanpher, MD, Andrea Gropman, MD, Kimberly A Chapman, MD, PhD, Kara L Simpson, MS, CGC, Urea Cycle Disorders Consortium, and Marshall L Summar, MD.
      日本語訳者: 江田 肖(瀬戸病院遺伝診療科),櫻井晃洋(札幌医科大学附属病院遺伝子診療室)
      GeneReviews最終更新日:  2015.4.9. 終更新日: 2016.10.16. (in present)

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