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X連鎖劣性の遺伝カウンセリング

X染色体連鎖劣性(伴性劣性)遺伝疾患の遺伝カウンセリング

                                  (室月 淳 2015年7月17日)

 

罹患者の父親と正常の母親から生まれる子は,男児ならば非罹患(正常),女児ならば正常保因者である.また正常の父親と保因者の母親から生まれてくる子は,男児では50%が罹患児,50%が正常,女児では50%が保因者,50%が正常である.すなわち罹患している親から生まれてくる子は全員非罹患であり,母親が非罹患であるが保因者の場合は1/4(男児の1/2)で発症するという特徴がある.

遺伝カウンセリングの方法と内容は,クライエントの個々の状況によりおおきくかわり,一般的に正しいカウンセリングというものはない.ただしX染色体連鎖劣性遺伝疾患に関する遺伝カウンセリングでは,女性保因者にたいする配慮と継続的ケアが重要な問題となってくる.

家系図によって保因者の推定がなされることが多いが,もしX染色体連鎖劣性遺伝疾患の児をひとりだけ出産したときは,遺伝子変異によって生じることもあるので,母親が保因者である確率は一般的に2/3程度とされる.女性を保因者と確定するためには,罹患者の父親をもつ場合,2人以上の罹患児を出産した場合,あるいはひとりの罹患児を出産し,かつ母方家系に確実な罹患者がいる場合のいずれとなる.保因者診断の遺伝子検査がなされることもある.

X染色体連鎖劣性の場合には保因者は必ず女性である.遺伝カウンセリングでもっとも注意すべきことは,保因者であることを告げた場合のパートナーとの関係,家族関係への影響をじゅうぶんに配慮して行うことである.適切でない説明,配慮のない告知は,家族関係をこわす危険性もはらむ.倫理原則としてのいわゆる害の排除を考慮した遺伝カウンセリングが求められる.

また保因者と知らされた多くの女性が,保因者であることの罪悪感やなぜ自分が保因者なのかといった思いをもつことになる.これからの妊娠出産や,未婚の女性であれば将来の結婚の選択に対する影響についてつよい不安をいだく可能性がある.自分が「遺伝学的に不完全」であると感じ,自分の体に裏切られた気持になることがある.自分の両親が疾患遺伝子を伝えたことに怒りを覚え,パートナーや自分の子に対して罪悪感を感じるようになるかもしれない.そのため継続的な相談の場や心理的支援を必要となってくる.

ときとして医療者や家族は,保因者が受けるかもしれない遺伝病に対する社会的偏見を懸念し,保因者に告知することをためらうことがある.実際におおくの女性が,罹患児を出産するまで自分が保因者またはその疑いがあることを知らされていなかったという調査がある.

しかし保因者をあきらかにすることは保因者の医療的ケアの面からも重要である.正常保因者と呼びならわされても,まれに症状を呈する場合があるからである.たとえば血友病では保因者の5分の1くらいで血液凝固活性の軽度の低下を示し,鼻出血や過多月経を示すことがある.デュシェンヌ型筋ジストロフィーでは,保因者の一部で加齢により心臓が弱ったり,足腰の筋力がやや低下するリスクが知られている.まれにある.こういったリスクをみきわめた適切な助言やケアが有用となってくる.

また継続的にサポートをおこなうなかで,保因者の疾患や遺伝にたいする偏ったイメージをあきらかにし,誤った認識のもとに将来の人生プランをたてることを防ぐといった心理的なケアも重要である.そのためには遺伝カウンセリングの手法が重要な役割をになうことになる.

「隔世遺伝」ということばをときどき聞くが,一般に隔世遺伝とは,世代スキップして発症する遺伝形式を指す.X連鎖劣性遺伝では女性が保因者となり,男性のみに症状が出現するため,形のうえでは隔世遺伝のようにみえることがある.しかし常染色体優性遺伝で,浸透度が低いために各世代で必ずしも患者が出現せず,一見,隔世遺伝にみえることもある.このようにあいまいな内容をふくむため,隔世遺伝という用語はすでに現代の遺伝学では用いられない.

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カウンタ 11271 (2015年7月17日より)