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2013年度活動報告

宮城県立こども病院産科/東北大学大学院胎児医学講座 2013年度活動報告

                                         (2014年9月7日) 

 診療科/講座の概要

2012年からひきつづき室月淳,宮下進,小澤克典,室本仁の常勤4名体制で診療を行ってきたが,2014年3月から原田文が加わった(写真1).4月から小澤克典が国立成育医療研究センター胎児診療科のスタッフとして,5月から宮下進が独協医大周産期センター講師として転出した.室本仁が社会人大学院生として当連携講座である「東北大学大学院医学系研究科先進成育医学講座胎児医学分野」に所属している.産科病棟スタッフは助産師19名,看護師6名の計25名である.

2013年の周産期統計としては,分娩数が399件,うち帝王切開数が135件(帝切率34%)とこの数年間は漸増の傾向にある.母体救急搬送受入数は96件,外来での胎児異常紹介数は152件であった.

写真1.たまたま全員紺色のスクラブとなりました.産科としてとくに色を決めているわけではありません(笑)

 

 産科診療の特色

一般産科診療

宮城県立こども病院(写真2)が位置する仙台西郊の折立,落合,愛子といった旧宮城町地域は仙台随一の人口増加地域であり,これまで一般の分娩取扱い施設が地元になかったため,地域の妊産婦は西道路を通って中心部の病院で分娩をすることが多かった.当科はもともと胎児疾患や多胎,早産などのハイリスク分娩をおもにとりあつかう方針であるが,余力で地域住民のローリスクの妊産婦の管理も積極的に引き受けることとし,分娩取扱い数が毎年徐々に増加している.2013年は分娩数399件のうちおおよそ3割が地域住民のローリスク分娩であった.

写真2.2011年4月はじめに撮影.東日本大震災の直後でしたが,八重桜はいつもとおなじにきれいに咲いていました.

 

胎児疾患の診断と管理

子宮内の胎児に対して最善の医療を提供するために胎児診断胎児治療を専門に行っている.胎児の疾患を的確に診断し,新生児科,小児外科,循環器科,脳外科,泌尿器科など関連各診療科と連携・協力し,最善の周産期管理や出生後の治療を提供している.胎児治療にも精力的に取り組んでおり,出生前に治療が必要となる疾患では適切な胎児治療(胎児手術)を行うことを目指している.

2010年8月に双胎間輸血症候群に対する胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(写真3)を当院ではじめて行ってから,2014年3月までに20例以上の手術を行っている.この胎児鏡下レーザー手術に関して当院は国内で施行している6施設(宮城こども,国立成育,聖隷浜松,国立長良,大阪母子,徳山中央)のひとつとなっている.また胎児胸水に対する子宮内シャント術はこれまでに計6例に施行した.2011年からは胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術,胎児胸腔羊水腔シャント術ともそれまでの先進医療から,当院も施設認定を受けて健康保険が適用されることになった.

胎児治療においては胎児が病気でも母親は健康体であり,麻酔や胎児鏡挿入など母体に対する負荷をかけることになるため,胎児疾患の治療が可能な場合でも,「事前に十分な説明を受け,納得したうえで診療を受ける」ことが大原則である.充分なインフォームドコンセントのもとに施行している.

写真3.双胎間輸血症候群にたいする胎児鏡下レーザー手術(FLP).室月と宮下

 

遺伝カウンセリング外来の取組み

毎週木曜日を遺伝カウンセリング外来とし,遺伝相談や出生前診断に関する相談などの他院紹介例,次回妊娠に関する相談などの自院例を対象に,十分に時間をかけたカウンセリングを行ってきた(2014年8月から遺伝外来は毎週火曜日となった).とくにマスコミ報道などで有名となった母体血による「無侵襲的出生前遺伝学的検査(NIPT)」,いわゆる新型出生前診断を2013年4月より開始し,宮城県を中心に東北6県から患者が集まっている.2013年のNIPT外来受診者は248名であった.

そのほか一般の羊水染色体検査は42件,絨毛生検は2件であった.月2回非常勤として来院される東北大学メガバンク機構の川目裕先生には,毎回実際の症例に基づいて先天異常学や臨床カウンセリングについて指導を受けている.また妊婦さんや褥婦さんの服薬に関する不安や悩みを解決するために,国立成育医療研究センター内にある妊娠と薬情報センターとも提携した「妊娠と薬」相談をおこなっている.

 

教育・地域医療貢献・社会貢献

次代を担う周産期医療従事者の育成もわれわれの重要な役割と考えている.2013年度に当科が主催した講習会としては,産科救急処置のためのALSO(Advanced Life Support in Obstetrics),新生児蘇生のためのNCPR(Neonatal Cardiopulmonary Resuscitation),胎児心エコー実技講習会があった.

ALSOプロバイダーコースは7月20-21日と2月8-9日の2回(写真4),東北大学病院スキルズラボで開催された.NCPR Aコース講習会は,4月27日,5月18日,6月1日,7月6日,8月24日,9月23日,10月19日,12月23日,1月15日,3月15日の10回であった.また昨年に引き続き,3月16-17日には神奈川県立こども医療センターの川滝元良先生をお招きし,地域医療研修会の一環として地域の産科の先生方を対象に胎児心エコー実技講習会を行った.開業医の先生方を中心に19名の受講があった.

写真4.2013年7月20-21日に東北大学病院スキルズラボで開催したALSOプロバイダーコース.

周産期をテーマとした講演会としては,5月15日の「胎児血管径拍動波形について」森晃先生(東京都市大学工学部教授),6月25日の「直接母乳・補足について」鳴海僚彦先生(当院新生児科),7月21日の「周産期医療人材発掘育成大作戦─千葉県で全面展開中─」長田久夫先生(千葉大学医学部附属病院周産期母性科診療教授),7月30日の「乳腺炎に罹患した母親への援助」武者文子先生(まんまはうす院長),10月11日の「エビデンス&ナラティブな周産期医療−母児救命の視点から」佐藤秀平先生(青森県立中央病院総合周産期母児医療センター長),11月8日の「死産ケア−助産師に求められていること」鎌田朋美先生(独立行政法人国立病院機構仙台看護助産学校教員),12月6日の「超音波機器を用いた新たな胎児心・循環機能評価法の可能性」藤田恭之先生(九州大学病院総合周産期母子医療センター助教),1月17日の「海外での胎児医療研修報告-2013年について」林伸彦 先生(千葉大学医学部附属病院産婦人科),「胎児胸腔-羊水腔シャントをモデルとした「胎児循環虚脱」の新しい評価」高橋雄一郎 先生(国立長良医療センター産科),3月20日の「EXITにて娩出した胎児舌腫瘍の1症例」片桐未希子先生(東北大学病院産婦人科),「胎児手術未実施病院における帝王切開下EXITの経験」土肥聡先生(金沢大学附属病院産婦人科)を開催した.

 

学術的な取り組み

昨年度にひきつづき積極的な論文投稿と学会発表を行った.当科の室本仁が9月8日の日本超音波医学会東北地方会第46回学術集会(仙台)で第9回奨励賞を受賞,宮下進が10月6-9日にシドニーで開催された第23回世界産婦人科超音波学会(ISUOG)でShort Oral Presentation Awardを受賞した.演題名は,"Measurement of fetal arterial pulse wave velocity: approach to prenatal cardiovascular properties applying ultrasonic phased tracking method"でした.さらに小澤克典が,2月14〜15日の第20回日本胎児心臓病学会で「里見賞」を受賞した.発表演題名は「位相差トラッキング法を用いた胎児発育不全の心機能評価」であり,里見賞研究部門では昨年の宮下進につづき2年連続受賞となった.また3月26日には宮下進,小澤克典が社会人大学院生として晴れて学位を取得した.

連携講座である「東北大学大学院医学系研究科先進成育医学講座胎児医学分野」の研究プロジェクトは以下のとおりである.まず社会人大学院生の室本仁が中心となって,東北大学工学部との共同研究として「超音波位相差トラッキング法を用いた胎児循環動態の評価」の研究を進めている.また室月は「胎児骨系統疾患フォーラム」の代表世話人と,厚労科研澤井班(胎児・新生児骨系統疾患の診断と予後に関する研究)の共同研究者を務め,「胎児骨系統疾患の病態生理と出生前診断」について全国規模の共同研究を行っている.原田文は妊娠初期超音波スクリーニングの研究を進め,「妊娠初期超音波と新出生前診断」(原田文,室月淳,Nicolaides編著)をメジカルビュー社から出版した(写真5).

写真5.室月淳,原田文,Nicolaide編著「妊娠初期超音波と新出生前診断」 メジカルビュー社

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カウンタ 3222 (2014年9月7日より)