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絨毛生検のノウハウの変更点

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!!!絨毛生検のノウハウ

                             (室月 淳  2012年7月13日)

 
80-90年代に広く普及した絨毛生検(chorionic villus sampling; CVS)は,遺伝子解析のPCR法の普及や流産リスクの高さなどがあいまって,国内ではその後あまり施行されなくなった時期がありましたが,この数年で施行数がまた増加してきています.原因遺伝子が判明した先天性疾患の増加による胎児遺伝子検査の増加や,NTなどの妊娠初期スクリーニングによる早期の染色体検査希望,特にマイクロアレイ法の臨床応用などが関係していると考えられます.

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キーウェストにある胎児診断センター............(嘘)ただのコンヴィニエンスストアでした(^_^;)

 
!!胎盤絨毛の特徴

受精卵は細胞分裂を繰り返しながら桑実胚から胚盤胞となって子宮内膜に着床します.その後,着床胚を包むように形成される栄養膜は増殖して絨毛膜となり,妊娠8週くらいまでは胎嚢全面を覆っています.妊娠9週以降では,絨毛膜の一部は厚みをまして肥厚絨毛膜(絨毛膜有毛部)となり,その後胎盤へと発育していく一方で,それ以外の部分は絨毛膜無毛部となり次第に絨毛膜が消失していきます.CVSではこの絨毛膜有毛部から絨毛を採取することになります.

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実体顕微鏡でみた絨毛組織

 
!!採取時期

妊娠11-12週くらいを目標としています.それ以前の時期では胎児の四肢切断の合併症を起こすことがあります.妊娠13週以降では絨毛膜有毛部が次第に限局して胎盤を形成するようになり,その位置によって穿刺が難しくなることがあります.

もちろん妊娠13週以降にCVSを行うのは技術的に難しくなるだけで,採取された検体からの検査には差し支えありません.いわゆる胎盤生検placental biopsy or placetoncentesisということになります.Holzgreveら(1)は,羊水過少で羊水穿刺困難例に対して経腹的に胎盤生検を行い,胎盤絨毛によって染色体検査を行う方法を報告しています.

 
!!手技の選択

経腹法(B)と経腟法(A)にはそれぞれ一長一短があり,基本的には絨毛膜有毛部の付着部位によって選択されるのがもっとも合理的です.一般に穿刺針よりカテーテルの内径が大きいため,経腟法のほうが多くの絨毛がそのまま採取することができます.経腹法では絨毛は細かくせん断されて採取されることが多いようです.CVSのあとの流産率は経腟法より経腹法のほうがすこしだけ低いという報告が多くあります(2) (3)が,これは経腟操作のために子宮内感染のリスクが高いからと考えられています.

当科では,CVSは経腹法で行うことを原則としていますが,ときに経腟法を選択する場合があります.肥厚絨毛が子宮後壁や内子宮口のところにあるときは,経腟法の方がより簡単に,かつ安全に施行できるからです.CVS後の流産率は採取針やカテーテルの穿刺/挿入回数に比例するといわれています.1回のときは3.1%,2回のときは5.7%,3回のときは12.8%に上昇するという報告もあります(4).絨毛へのアプローチとして経腹的におこなったほうが容易な場合,逆に経腟法でおこなったほうが容易で安全な場合があり,それぞれ適切な方法を選択して穿刺/回数を最小限にとどめるべきでしょう.

CVSをおこなっている国内の施設に聞くと,おもに経腹法をおこなっているところと経腟法をおこなっているところはおおよそ半々に分かれるようです.実際に経腹法のみ,経腟法のみでも,それぞれ90%くらいのケースではCVSが可能と考えられます.しかしより安全に施行することを考えると,CVSの術者はいずれか慣れている方法を主としながら,場合によっては別なアプローチもできるよう両方の手技を習熟しておくことが望まれます.

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!経腹的絨毛生検(transabdominal CVS)

手技の基本は超音波ガイド下臍帯穿刺(purcutaneous umbilical blood sampling; PUBS)と同じになります.絨毛組織を吸引採取するためにはPTC針は18Gと太めのものを使用します.一度の穿刺で検査に充分量の絨毛が採取できなかったときは,もう一度同じ操作を繰り返すことになります.経腟法と比べた利点としては,妊娠の全期間にわたって施行可能ということがあります.

プローブに穿刺用アタッチメントを装着し,モニター上のガイドラインにそって穿刺する方が安全です.最初に超音波で子宮内の絨毛をが高輝度に描出される面をだします.このときガイドラインにそった部分の絨毛がなるべく長くなるようにします.PUBSの場合の23G PTC針と違って,穿刺時の針のたわみがほとんどないので目標への針先の誘導は難しくありません.絨毛組織内で吸引しながら針先を2, 3回往復します.何度か針先を往復させることにより,その部分の絨毛を破壊し,さらに針内に吸引することになります.

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経腹エコーで子宮を描出すると,絨毛膜有毛部が高輝度にみえます.ガイドラインにそって18G PTC針をゆっくりと刺入します(矢印の先端に針の先端がみえています).

 
!経腟的絨毛生検(transvaginal CVS)

助手に超音波プローブを母体腹壁に把持してもらい,超音波ガイド下に経腟的絨毛生検カニューレを進め,吸引しながら2,3度往復することにより絨毛を採取します.絨毛生検鉗子を使うときは,超音波ガイド下にゾンデと同じイメージで子宮内に生検鉗子を挿入し,絨毛膜有毛部から絨毛を生検します.一回の手技での絨毛採取量は経腹法より多くとれる場合が多いようです.

経腟法では検査後の出血がしばしば認められますので,事前にそのことを妊婦にきちんと説明しておくことがたいせつです.CVS後の流産率は経腟法の方が若干高いという報告がありますが,絨毛の付着位置によっていずれかの安全と思われるアプローチを選択することがもっともリスクを減らすと考えられます.

 
!!デバイスの比較

国内ではCVS施行数が少ないため,デバイスの入手が難しい場合があり注意が必要です.とくに経腟的絨毛生検において,以前はディスポの専用カテーテル(Trophocan, Portex社)を住友ベークライト社が輸入していて,非常に使いやすいものでしたが,残念ながら現在は取り扱いを中止しております.

!経腹的絨毛生検(transabdominal CVS)

::八光 PTC針B型(18G x 200mm)

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シングルニードル.先端にきざみが加工されていて,針先が超音波モニター上で明瞭に描出されるので使いやすい.PTC針は通常,18〜20Gのものが用いられることが多い.

 
::八光 CVS用PTC針 Twin

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2本のPTC針(18Gx120mm + 20Gx170mm)をくみあわせて,CVS用のダブルニードルとしたもの.当科では主にこれを使用している.

 
::Rocket LX chronic villus sampling needle

http://www.rocketmedical.com/pdf/Data_sheets/Obstetrics_Fetal_Medicine/Rocket%20LX%20Chorionic%20Villus%20Sampling%20Set%20.pdf

{{ref_image Rocket LX.jpg}}

Nicolaides (King’s College Hospital, London) で使用されているもの.

 
!経腟的絨毛生検(transvaginal CVS)

::Storz CVSバイオプシーカニューレ

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当院で経腟的絨毛生検に使用しているカニューレ.吸引で絨毛採取する

 
::Cook Chorionic Villus Sampling Sets

http://www.cookmedical.com/wh/dataSheet.do?id=5402

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{{ref_image Cook2.jpg}}

Cook社製のCVSカニューレ.Center for Fetal Medicine and Women’s Ultrasound, UCLAで使用

 
::Storz CVSバイオプシー鉗子

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国立成育医療センターでCVSに使用している生検鉗子

 
!!CVSにあたっての留意点

経腹法でも経腟法でもその侵襲性を考慮すれば,穿刺吸引やカテーテル挿入は3回までにすることが望ましいでしょう.欧米では外来で日帰りで実施というところが多いのですが,当院では念のために患者にはCVS後に一泊入院してもらい,翌日に経腟超音波で胎児の状態を観察したのちに退院としています.念のために術後3日間の抗生剤処方をおこなっています.

CVSの手技については成書にくわしいのですが,ひとつ見逃されていることがあります.それは採取した検体をその場で実体顕微鏡でみて,検査に必要な量が充分に採取されているかを確認することです.そのために検査室のちかくにクリーンベンチがあればベストですが,ベッドサイドに無菌エリアをつくってそこで検査するのでも充分です.

肉眼では検体が結構採取されたようにみえても,ほとんどが脱落膜などの母体組織であることもあります.染色体分析であれば少量で足りますが,遺伝子解析,特にまだ検査系が確立していない解析では,多めの絨毛を採取し,半量からDNAを抽出,残り半量を培養にまわすなどの処理が必要となってきます.どの程度の絨毛量が必要となるのかは,解析担当者との事前のうちあわせが必要となります.

滅菌シャーレを複数用意して,採取した組織を滅菌生食でじゅうぶんに洗浄して血液などを取り除きます.このときヘパリン加生食を使わないと,赤血球が凝固して絨毛組織の分離が非常に面倒になります.実体顕微鏡下で,マイクロピンセットや眼科用クーパーなどを使って脱落膜といった母体由来の組織を除去し,絨毛組織のみをエッペンドルフチューブなどに取り分けることになります.

絨毛の染色体分析などに慣れているコマーシャルラボに依頼する場合は,この操作は省略してすべてまかせることが可能かもしれません.しかしCVS直後に採取絨毛の量を確認できれば,足りないときは手技を追加し,充分に採取されているときはそれ以上のよけいな穿刺を省略することができますので,非常に有用です.また遺伝子解析を大学の研究室などに依頼するときは,脱落膜の分離などの経験が少ないところが多いわけですから,CVSを施行した産科医が責任をもって分離し胎児組織のみとしないと,母体組織が混入して遺伝子解析,生化学解析での誤診の原因となることがあります.

すなわち,CVSの手技そのものにもある程度の経験を要しますが,それ以上にその後の絨毛組織の分離についても熟練が必要です.

 
!!CVSの限界

CVSにおける診断上の限界は,上に述べた母体組織の混入(maternal cell contamination)と,胎盤モザイク(confined placental mosaicism; CPM)の存在です.

胎児遺伝子診断において母体組織の混入を完全に除外するには,可能ならば両親の採血も同時におこない,多型分析によって得られたDNAがまちがいなく胎児由来であることを確認できれば理想的です.一方,CPMは母体年齢の上昇とともに頻度が高くなるといわれていますので,染色体分析を目的にCVSをおこなうときには注意が必要です.もし染色体モザイクが疑われたときは,超音波精査によって胎児の形態異常のチェックをおこなうとともに,羊水穿刺や臍帯血採取などによる確認が必要となります.

手技的に絨毛が採取不能の割合は3.8〜6.6%と報告されています(5).CVSの限界についてや他の方法による確認については,カップルには事前にきちんと説明して同意を得ておくほうがいいでしょう.

 
!!参考文献

(1) Holzgreve W, Miny P, Gerlach B, et al: Benefits of placental biopsies for rapid karyotyping in the second and third trimester (late chorionic villi sampling) in high-risk pregnancies. Am J Obstet Gynecol 1990;162:1188-1192

(2) Jackson LG, Zachary JM, Fowler SE, et al: A randomized comparison of transcervical and transabdominal chorionic villi sampling. The U.S. National Institute of Child Health and Human Development Chorionic-Villus Sampling and Amniocentesis Study Group. N Engl J Med 1992;327:594-598

(3) Chueh JT, Goldberg JD, Wohlferd MM, et al: Comparison of transcervical and transabdominal chorionic villus sampling loss rates in nine thousand cases from a single center. Am J Obstet Gynecol 1995;173:1277-1282

(4) Young Sr, Shipley CF, Wade RV, et al: Single center comparison of results of 1000 prenatal diagnosis with chorionic villus sampling and 1000 diagnoses with amniocentesis. Am J Obstet Gynecol 1991;165:255-263
(4) Young SR, Shipley CF, Wade RV, et al: Single center comparison of results of 1000 prenatal diagnosis with chorionic villus sampling and 1000 diagnoses with amniocentesis. Am J Obstet Gynecol 1991;165:255-263

(5) Carroll SG, Davies T, Kyle PM, et al: Fetal karyotyping by chorionic villus sampling after the first trimester. Br J Obstet Gynaecol 1999;106:1035-1040

 
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