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胎児CTの変更点

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!!!6. 胎児CT

近年,出生前診断として胎児CTの有用性が報告されている.骨の形態や性状の変化に対して感度が高く,骨系統疾患の診断に非常に優れているとされる.しかし胎児骨系統疾患に対するCT診断の報告例はまだ多くないこと,ヘリカルCTには胎児被曝の問題が付きまとうことなどから,その施行には注意が必要である.

東北大学病院では,2005〜2008年の4年間に,胎児骨系統疾患が疑われた17例の妊婦を対象に胎児CTが行われた.胎児骨系統疾患の診断において従来の超音波断層法と胎児CTの診断を比較したものが表4である.CT multislice 16 scanner を用い,撮影条件は44mA, 120kV, 16slices per rotation, 0.75pitch and 0.75-nm slice thickness, CTDI 4.21mGy, DLP 141とした.

{{ref_image 表4-.jpg}}

超音波断層法と胎児CTを施行し,出生後,全身X線写真や遺伝子検査により確定診断を行ったところ,胎児期に骨系統疾患を疑った17例中15例が真の骨系統疾患であった.出生前診断における正診率は超音波検査が35%(6/17)にたいして,CT検査では94%(16/17)という高い値を示した.胎児CTでは長管骨の長さのみならず,形態の変化や骨化の程度といった超音波では捉え難い所見を得ることができるため,骨疾患に対する診断能力が明らかに優れていた.

ACHはしばしば認められる骨系統疾患であるにもかかわらず,従来の超音波では出生前の評価が難しかったが,胎児CTではほぼ100%の診断が可能であった.SADDANといったきわめて特殊な疾患の診断ができなかったが,これは症例経験の積み重ねにより可能と考えられる.また疾患の同定自体だけでなく,骨所見の変化の程度により疾患の重症度もある程度推測可能であった.長管骨の短縮を認めながら骨形態に異常を認めないIUGRなどを骨系統疾患と明瞭に区別することもできた.

骨系統疾患の胎児診断にあたっては,通常の超音波断層法より胎児CTの方が圧倒的に正確な診断が得られるので,超音波断層法によりスクリーニングし,胎児CTで確定診断を行う方法が適切と考えられる.今後はまれな疾患に対する胎児CTの知見の集積が望まれる.胎児被曝について,今のところ胎児に影響はないだろうと推測されているが,さらなる検討が必要な課題である.モンテカルロシミュレーション法を用いた胎児の推定被曝量は7.3-14.3mGyで,平均は10.8mGyであった31.国際放射線防護委員会の勧告(ICRP Publication 84)では奇形,重度の精神発達遅滞,発育遅延はいずれも100mGy以上とされているので,その閾線量をかなり下回るものと考えられる.しかし,胎児被曝に伴う小児がん発症の相対リスクは,10mGyにつき1.4倍といわれるので,胎児診断において放射線量は合理的に可能な限り低く抑えるべきなのはいうまでもない.

胎児CTの読影には放射線診断の知識が基本となりこの小冊子の内容をこえるものとなるので,ここでは以下に2症例だけを取り上げて検討し,胎児CT診断の例とする.

 
!!症例1

31歳初産婦.妊娠33週で-4.2SD の胎児大腿骨短縮を認め紹介される.四肢長管骨はいずれも-4SD前後の軽度〜中等度短縮で,大腿骨に軽い彎曲(図22A)と軽い胸郭低形成(図22B)を認めた.羊水量は正常であった.児頭大横径(BPD)が+1.3SDとやや大きめのため一応ACHを疑った.妊娠36週で精査のため3D-CTを施行した.単純X線写真におけるACHの診断的所見として,腸骨の方形化のほかに大腿骨近位部骨端の帯状の透亮像(図22D矢印)が存在するが,胎児CTではその部分に相当する大転子前面のcuppingが明瞭に描出された(図22C矢印).妊娠38週に児頭骨盤不適合(CPD)のため帝切分娩,3168g男児,Ap 8/8が生まれた.出生後の精査でACHの診断が確定した.

{{ref_image 図22.jpg}}
図22.Achondroplasia(軟骨無形成症). A: 超音波像で胎児の軽い胸郭低形成を認める. B: 大腿骨は軽度の彎曲と短縮を認める. C: 胎児CT写真.単純X線で大腿骨近位部骨端の帯状の透亮像に相当する大転子前面のcuppingが明瞭に描出されている(矢印). D: 出生直後のX線像.ACHの診断的所見として,腸骨の方形化と大腿骨近位部骨端の帯状の透亮像(矢印)が認められる

 
!!症例4

36歳初産婦.四肢短縮のため妊娠26週で当科紹介.長管骨はすべて-5〜-6SDの短縮(図23A).超音波で胸郭はやや小さい傾向が認められるが,羊水量は正常であった.妊娠27週で3D-CTを施行したところ,症例1と同様の大転子前面のcuppingが認められACHと診断した(図23B).骨盤位のため妊娠38週で帝王切開を施行し,3048g男児がAp 8/9で出生した.児の外見上四肢短縮が著明で,膝関節の過伸展と下腿の変形が特徴的であった(図23C).臨床症状よりACHの重症型であるsevere achondroplasia with developmental delay and acanthosis nigiricans (SADDAN)を疑って,その後遺伝子検査で確定した.

{{ref_image 図23.jpg}}
図23. Severe achondroplasia, developmental delay, acanthosis nigricans (SADDAN). A: 超音波で長管骨はすべて-5〜-6SDの短縮を認める. B: 胎児CT像.症例1と同様の大転子前面のcuppingが認められACHと判断した. C: 出生後の下半身骨X線像.膝関節の過伸展と下腿の変形が特徴的である

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