!!!切迫早産管理と産科ガイドライン                                 (2018年5月19日 室月淳) {{ref_image 土門拳.jpg}} 塩酸リトドリンの長期投与についてのお話のつづきです.「産科ガイドラインにきちんと記載されないとやめることはむずかしい」というご批判はよくいただきます. 実はわたしは,先日でた日産婦の産科ガイドライン2017の作成委員のひとりでした(あまりまじめな委員ではなく反省しきりなのですが).実際にガイドラインにどのように記載されているかをみてみましょう. CQ302ですね.リトドリンの投与については,まずその重篤な副作用をいくつかあげ,ヨーロッパ医療局(EMA)の2013年の勧告で,48時間以上のリトドリン投与が禁忌とされたことを解説しています.つぎに過去の文献のレビューによって,48時間以内の有効性しかないことを確認しています.そこでこのガイドライン2017の勧告としては,「(リトドリンを)急性期を経て48時間以上投与継続する場合には,減量・中止の可否も検討したうえで選択される」としております. もともとこの産科ガイドライン作成にあたっては,システマティックレビューによるエビデンスにもとづいた方針を基本とすることと同時に,国内の事情をある程度斟酌することも求められました.すなわち,たとえエビデンスがなく有効性にとぼしいものであっても,国内でひろくおこなわれている治療法については,医療現場に混乱をきたさないようにけっして頭ごなしに否定しないということ.その問題点を指摘しながら,なんどかのガイドラインの改定をとおしてエビデンスにもとづいた治療法に移行していくよう配慮するという方針です.臨床ガイドラインとはそういうものです. ですから結果的には以下のような文章が上記の勧告のあとに続きました(わたし自身はもうすこし強い表現にするように主張したのですが). 「(わが国では)長期投与は広く行われている治療法であることから,副作用の発症に注意しながら,長期投与を行うことは選択肢のひとつである.しかし,今後は,わが国において長期投与の有効性を証明する必要がある」 ガイドラインのこの文章の真の意図は,リトドリンの長期投与を治療法として勧めたりしているわけではけっしてありません.従来わが国では長期投与が慣例的におこなわれてきたので,選択肢のひとつとしては存在するかもしれない.しかし今後はその有効性を証明する必要があるし,証明できなければ禁止されることになるだろう.すなわちそういった意味です. わたしは今回の改訂を最後に作成委員を辞めましたので,次回の改訂は後任の先生がたにおまかせすることになります.しかしこのことだけはきちんとあきらかにしておきたいと思います.ガイドラインに記載されないとリトドリンの長期投与はなくならないというのは,実は論理が転倒しており,リトドリンの長期投与の無効性,副作用の危険性をみなで認識し,そういった治療法がしだいに少数派になっていけば,産科ガイドラインはそれにあわせてリトドリンの長期投与を禁止していくだろうということです. エビデンスとかガイドラインといったものは,ある日とつぜん天から降ってきて,われわれをしばってしまうような絶対的なきまりではけっしてありません.われわれ自身が考え,われわれ自身がつくり,かえていくものです.産科ガイドラインで禁止されなければそれをやめることはできないという主張は,「セクハラ罪という罪はない(すなわち法律で禁止されていないからとくに問題ないんだ)」と発言した某大臣の理屈とほとんどおなじように聞こえます(笑) -------------------------------------------------------------------- [切迫早産管理 にもどる|http://plaza.umin.ac.jp/~fskel/cgi-bin/wiki/wiki.cgi?page=%C0%DA%C7%F7%C1%E1%BB%BA%B4%C9%CD%FD] [室月研究室トップ にもどる|http://plaza.umin.ac.jp/~fskel/cgi-bin/wiki/wiki.cgi?page=%BC%BC%B7%EE%B8%A6%B5%E6%BC%BC%A5%C8%A5%C3%A5%D7] [フロントページ にもどる|http://plaza.umin.ac.jp/~fskel/cgi-bin/wiki/wiki.cgi?page=FrontPage] カウンタ {{counter 切迫早産管理と産科ガイドライン}}(2017年5月19日より)